約7機の極超音速ミサイルは勿論、大半の弾道ミサイルは目標に命中したとされている。アメリカが日本の車力分屯基地やイスラエルのネゲブ砂漠に建設したAN/TPY-2 Xバンドレーダーはイランの攻撃に対して有効でなかった。さらにイスラエルがイランを攻撃した場合、次の反撃は今回より破壊力の強いものが重要施設に対して使われる可能性が高いだろう。アメリカ軍がイラクやシリアに建設した基地もターゲットになると見られている。
そこで、常識的に考えるとイスラエルは報復ゲームを止めるのだが、政府の内部にはトーラー(キリスト教の旧約聖書)を持ち出し、パレスチナ人虐殺を正当化する集団がいる。正気ではない人びとによってイスラエルは動かされている。元CIA分析官のラリー・ジョンソンはイスラエルが イランの石油施設や軍事施設を攻撃しようとする可能性があるとしている。このまま報復合戦が終わると、イスラエルはイランに「判定負け」したように見えるが、それを受け入れられないということだ。
イスラエルは1973年10月6日にエジプト軍の奇数攻撃で始まった第4次中東戦争で窮地に陥り、8日にはゴルダ・メイア首相の執務室で開かれた会議で核ミサイルの発射準備をするということで合意している。その第一目標はエジプトとシリアの軍事司令部だった。
ソ連の情報機関は早い段階でイスラエルが核弾頭を使う準備をしていることに気づき、その情報はエジプトの参謀長に伝えられ、9日の朝にはアメリカ政府へもイスラエルが核兵器を使う準備をしていると警告している。
その後、アメリカは物資をイスラエルへ空輸してイスラエル軍の反撃を支援した。ヘンリー・キッシンジャーがエジプトのアンワール・サダト大統領に行った説明によると、核戦争へとエスカレートすることを防ぐためだったという。
その一方、ソ連のアレクセイ・コスイギン首相は16日にエジプトへ飛んで停戦するように説得、22日にはキッシンジャーがイスラエルから内諾を得るのだが、イスラエルはエジプトへの攻撃をやめなかった。アメリカの足下を見透かしての強攻策だった。
そこで、ソ連はアメリカに対し、イスラエルが停戦の合意を守らないならば、適切な対応策を講じると警告。イスラエル軍の侵攻を阻止するため、ソ連軍を派遣する意志を表明したのだと解釈されている。キッシンジャーはイスラエルに停戦を強く求めた。(Seymour M. Hersh, “The Samson Option”, Random House, 1991)
今回もロシアや中国が強く出ない限り、西側の有力メディアを利用して人びとを操るアメリカやイスラエルのカルト的な好戦派を止めることはできないかもしれない。