アメリカ下院でウクライナ、イスラエル、台湾への一括支援法案が可決されたのは4月20日のことだった。24日にはジョー・バイデン大統領が署名している。総額950億ドルのうちウクライナ向けが610億ドル、イスラエル向けが260億ドル、台湾など東アジア向けが80億ドルだ。
支援の対象になるウクライナの現体制は2013年11月から14年2月にアメリカ政府がネオ・ナチを利用して仕掛けたクーデターで出現、アングロ・サクソンの支配者が19世紀から計画しているロシア征服に王手をかけようとしたのだが、東部と南部の人びとがクーデターを拒否、東部のドンバスで内戦が始まった。実態はアメリカ/NATOの侵略戦争に他ならない。
イスラエルはイギリスがシオニストを利用し、パレスチナに作り上げた国だ。今では石油が中東支配の大きな目的になっているが、石油発見の前はスエズ運河がイギリスの戦略上、大きな意味があった。
スエズ運河はフランスのフェルディナン・ド・レセップスが1869年に完成させたが、その発端は1798年にナポレオン・ボナパルトが古代の水路跡を見つけたところから始まる。ナイル川から紅海へ抜ける運河が紀元前に建設されていたのだ。
イギリスの首相だったベンジャミン・ディズレーリは友人のライオネル・ド・ロスチャイルドの資金で1875年にその運河を買収。1881年に死亡するが、その直後からエドモンド・ジェームズ・ド・ロスチャイルドはテル・アビブを中心にパレスチナの土地を買い上げ、入植するユダヤ人へ資金を提供しはじめた。
1917年にイギリスの外相だったアーサー・バルフォアはウォルター・ロスチャイルドへ書簡を出している。「イスラエル建国」に向かって進む切っ掛けになった「バルフォア宣言」だ。その中で「イギリス政府はパレスチナにユダヤ人の民族的郷土を設立することに賛成する」と約束したのだが、この宣言を実際に書いたのはアルフレッド・ミルナーだと言われている。
ミルナーはセシル・ローズを中心とするグループの主要メンバーだったが、バルフォア自身もローズのグループに所属していた。そうしたこともあり、イギリス支配層はパレスチナ人(先住のアラブ系住民)を弾圧する一方、ユダヤ人の入植を進めた。
それに対し、1920年代に入るとパレスチナのアラブ系住民は入植の動きに対する反発を強めるのだが、そうした動きを抑え込むため、デイビッド・ロイド・ジョージ政権で植民地大臣に就任したウィンストン・チャーチルはパレスチナへ送り込む警官隊の創設するという案に賛成、アイルランドの独立戦争で投入された「ブラック・アンド・タンズ」のメンバーを採用した。この組織はIRA(アイルランド共和国軍)を制圧するために設立され、殺人、放火、略奪など残虐さで有名だった。
1933年にドイツでは国会議事堂放火事件が引き起こされ、それを利用してナチスが実権を握るが、この年の8月にシオニストはナチス政権との間でユダヤ系ドイツ人をパレスチナへ移住させることで合意した。「ハーバラ合意」だが、「ユダヤ人弾圧」でパレスチナへ向かったユダヤ人はシオニストの予想を下回った。1938年11月にナチスはユダヤ人を襲撃、多くの人が殺され、収容所へ入られ始めるが、それ以降もユダヤ教徒はパレスチナでなく、アメリカやオーストラリアへ逃れている。そこで目をつけられたのがイラクに住むユダヤ教徒だった。
パレスチナに住むアラブ系住民を排除するため、シオニストは1948年4月4日に「ダーレット作戦」を発動、8日にデイル・ヤーシーン村でアラブ系住民を虐殺している。アラブ人を脅し、追い出そうとしたのだ。
この作戦が始まるまでにエルサレム旧市街の周辺へユダヤ人が集中的に移民、人口の3分の2を占めるまでになっていた。この作戦は1936年から39年にかけて行われたパレスチナ人殲滅作戦の詰めだったという見方もある。
ダーレット作戦はハガナ(ユダヤ人の武装グループで、後にイスラエルの国防軍になった)が中心になって実行されたが、その副官を務めていたイェシュルン・シフがエルサレムでイルグンのモルデチャイ・ラーナンとスターン・ギャングのヨシュア・ゼイトラーに会い、ハガナのカステル攻撃に協力できるかと打診している。イルグンとスターン・ギャングは協力することになる。
襲撃直後に村へ入った国際赤十字のジャック・ド・レイニエールによると、254名が殺され、そのうち145名が女性、35名は妊婦だった。イギリスの高等弁務官だったアラン・カニンガムはパレスチナに駐留していたイギリス軍のゴードン・マクミラン司令官に殺戮を止めさせるように命じたが、拒否されている。ハガナもイルグンとスターン・ギャングを武装解除しようとはしなかった。(Alan Hart, “Zionism Volume One”, World Focus Publishing, 2005)
この虐殺を知ったアラブ系住民は逃げ出す。約140万人いたパレスチナ人のうち5月だけで42万3000人がガザ地区やトランスヨルダン(現在のヨルダン)に移住、その後1年間で難民は71万から73万人に達したと見られている。イスラエルとされた地域にとどまったパレスチナ人は11万2000人。そして5月14日にイスラエルの建国が宣言された。国際連合は同年12月11日に難民の帰還を認めた194号決議を採択したが、現在に至るまで実現されていない。そして同年5月14日にイスラエルの建国が宣言された。アラブ諸国の軍隊が参戦するのはその翌日からだ。
シオニストの中でも特に狂信的な集団はウラジミール・ヤボチンスキーの「修正主義シオニスト世界連合」。ヤボチンスキーは晩年、アメリカへ移住するが、そこで彼の秘書を務めた人物がベンシオン・ネタニヤフ、現イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフの父親だ。
このグループはユーフラテス川とナイル川で挟まれている地域はユダヤ人の所有物だと考えている。その地域を実際に支配しようとしてきた。いわゆる「大イスラエル構想」だ。ユダヤ教の宗教書であるトーラー(キリスト教徒が言う旧約聖書のうちモーセ5書)がその根拠だとされているが、トーラーによると土地を所有しているのは神であり、ユダヤ教徒はトーラーを守るという条件の下でその土地に住むことを許されたにすぎない。
ロスチャイルド資本はウクライナでも暗躍している。クーデターの後にウクライナ国債の価格は下落、フランクリン・テンプルトンというファンドは額面総額50億ドルの国債を買ったというが、このファンドを操っているのはロスチャイルド資本だ。
破綻した国の国債を安値で買いあさり、満額で買い取らせるというのが「ハゲタカ・ファンド」のやり口。ウクライナにはIMFがカネを貸しているが、そのカネでファンドの要求通りに支払うことができる。債権者になったIMFは債務者である破綻国の政府に対して緊縮財政を要求、庶民へ回るカネを減らさせる。規制緩和や私有化の促進で国の資産を巨大資本に叩き売らせ、大儲けさせてきた。
現在、欧米の有力企業は「闇の銀行」と呼ばれるファンドに支配されている。どの代表格がブラックロック、バンガード、ステート・ストリートだ。軍需産業も医療産業もその配下にある。
ウクライナの場合、西側から供給される兵器や「復興資金」の使い道についてアドバイスしているのがブラックロックだという。ブラックロックを率いるラリー・フィンクはウクライナとのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と関係が深い。そのほか、JPモルガンやゴールドマン・サックスともゼレンスキー政権は協力関係にある。
ちなみに、クーデターが始まる前年の2012年5月にジェイコブ・ロスチャイルドとデイビッド・ロックフェラーは手を組んでいる。ジェイコブ・ロスチャイルド氏が率いる投資会社RITキャピタル・パートナーズがデイビッド・ロックフェラーのロックフェラー・ファイナンシャル・サービシズが発行している株式の37%を取得すると発表したのだ。
ウクライナにおける怪しげな工作で中心的な役割を果たしていると見られているのが「ブリスマ」だ。この会社はミコラ・ズロチェフスキーが設立したウクライナのエネルギー会社で、その重役には元ポーランド大統領のアレクサンデル・クファシニェフスキー、元CIA高官のジョセフ・コファー・ブラック、ジョー・バイデン大統領の息子であるハンター・バイデンも名を連ねていた。ブラックはブラックウォーター(後にXe、そしてアカデミに名称変更)の副会長を務めている。
2014年4月16日、ハンター・バイデンはビジネスパートナーであるデボン・アーチャーとホワイトハウスで会談し、その5日後にはウクライナを訪問、アーチャーは4月22日に、またハンターは5月12日にそれぞれブリスマの取締役会に加わった 。2014年11月から15年11月までの期間、ブリスマはハンターやアーチャーが経営するロズモント・セネカ・ボハイなる会社へ350万ドル支払っている。アーチャーはサリバンと同じようにエール大学の出身。そこでルームメートだった人物がジョン・ケリー元国務長官の義理の息子であるクリス・ハインツだ。
ウクライナでアメリカ国防総省は生物兵器の研究開発を行っていたが、そのプロジェクトにロズモント・セネカ・パートナーズも参加していた。そのほこビル・アンド・メリンダ・ゲーツ財団、クリントン財団、ジョージ・ソロスのオープン・ソサエティ財団、ロックフェラー財団、エコヘルス同盟などから資金が出ていた。ジョー・バイデン、バラク・オバマ、ヒラリー・クリントン、ジョージ・ソロス、ハンター・バイデンなどの個人、あるいは医薬品会社も関係していた。
ロシアの調査委員会によると、ブラックウォーターの元副社長であるジョセフ・コーファー・ブラックも役員を務めていたブリスマはCIA主導の破壊工作に関与していた疑いがある。同社を経由した資金は過去数年間にわたり、ロシアでのテロ行為に使用されてきたというのだ。
3月22日にモスクワの北西にあるクラスノゴルスク市のクロッカス・シティ・ホールが襲撃され、銃撃と火災で140名以上が死亡、多くの負傷者が出ている。実行犯はウクライナへ逃げ込む直前に拘束され、相当数の共犯者がロシア国内だけでなく、トルコやタジキスタンで逮捕されている。支援ネットワークが摘発されているわけだ。
ロシア国家反汚職委員会のキリル・カバノフ委員長によると、 実行グループが残したデータは、彼らがウクライナの特殊部隊/ネオ・ナチと連絡を取り合っていたことを示している ようだ。アメリカやイギリスの情報機関、つまりCIAやMI6につながる可能性がある。
ちなみに、米英の私的権力は19世紀のアヘン戦争以来、中国を侵略、富を奪おうとしている。その傭兵のような役割を果たしてきたのが日本だ。