イギリスでは7月4日に総選挙が実施され、キア・スターマーが率いる労働党が210議席増の412議席を獲得し、「地滑り勝利」と表現されている。リシ・スナク首相の保守党は244議席減の121議席。2010年から続いた保守党政権が終わるわけだ。
この間、イギリスはアメリカと共同でリビアやシリアへ軍事侵略、ウクライナではネオ・ナチを使ってクーデターを実行、2019年12月からは「COVID-19(2019年-コロナウイルス感染症)パンデミック」を演出し、社会の収容所化を進めた。
帝国主義国の面目躍如だが、COVID-19騒動やウクライナを舞台としてロシアとの戦争における政策はイギリス社会にダメージを与え、ガザでパレスチナ人を虐殺するイスラエルに対する支援も国民を怒らせた。
COVID-19騒動の問題はウイルスでなく「ワクチン」と称する遺伝子操作薬。つまり政府の政策が遺伝子操作薬による深刻な副作用を引き起こし、国民を殺傷した。ウクライナではロシアを弱体化するためにネオ・ナチ体制を樹立させ、ヨーロッパへパイプラインで運ばれていたロシアの安価な天然ガスをストップさせた。しかも、ウクライナを迂回してバルト海に建設した2本のパイプライン「ノードストリーム(NS1)」と「ノードストリーム(NS2)」が2022年9月26日に爆破されている。アメリカが主犯だった可能性が高い。その結果、ヨーロッパ経済は破綻、国民の生活は苦しくなったわけだ。
5月15日に銃撃されたスロバキアのロベルト・フィツォ首相はイギリスを含むEUの政策を批判していた。ロシアとの戦争がスロバキア社会に悪い影響を及ぼしている主張、選挙の際にウクライナへの武器供与を阻止すると宣言し、ウクライナのNATO加盟に反対している。3月2日に公開された動画では、EUとNATOからウクライナに兵士を派遣することは、世界的な終末を招く恐れがあると述べている。また「COVID-19ワクチン」にも批判的で、その接種によってさまざまな心血管疾患による死亡を増加させていると議会で発言。この「ワクチン」は「実験的」で「不必要」なものだとしているのだ。こうした声がヨーロッパに広がっているが、イギリスも例外ではない。
しかし、イギリスの労働党は保守党と大差がない。トニー・ブレアが党首になってから差が縮まった。
労働党は歴史的に親イスラエルだが、1982年9月にレバノンのパレスチナ難民キャンプのサブラとシャティーラで引き起こされた虐殺事件で党内の雰囲気が変わり、親パレスチナへ変化する。
この虐殺はベイルートのキリスト教勢力、ファランジスト党が実行したのだが、同党の武装勢力はイスラエル軍の支援を受けながら無防備の難民キャンプを制圧し、その際に数百人、あるいは3000人以上の難民が殺されたと言われている。虐殺の黒幕はイスラエルだった。そしてイギリス労働党の内部でイスラエルの責任を問い、パレスチナを支援する声が大きくなったのだ。
現在、ガザではイスラエル軍がパレスチナ住民を虐殺、すでに4万人以上が殺されたと推測されている。その約4割が子どもであり、女性を含めると約7割に達する。その無惨な姿は連日、ガザから世界へ発信されているが、「国際社会」を自称する欧米諸国はイスラエルを支援している。
この虐殺 劇は2023年4月1日から始まった。イスラエルの警察官がイスラム世界で第3番目の聖地だというアル・アクサ・モスクの入口でパレスチナ人男性を射殺したのである。
4月5日にはイスラエルの警官隊がそのモスクに突入し、ユダヤ教の祭りであるヨム・キプール(贖罪の日/今年は9月24日から25日)の前夜にはイスラエル軍に守られた約400人のユダヤ人が同じモスクを襲撃した。ユダヤ教の「仮庵の祭り」(今年は9月29日から10月6日)に合わせ、10月3日にはイスラエル軍に保護されながら832人のイスラエル人が同じモスクへ侵入している。
そして10月7日、ハマス(イスラム抵抗運動)はイスラエルを陸海空から「奇襲攻撃」したのだが、ニューヨーク・タイムズ紙は12月1日、ハマスの攻撃計画を1年以上前に知っていたと報道している。実際、イスラエル軍やアメリカ軍の動きはその報道と合致していた。
ハマスが攻撃した 際、約1400名のイスラエル人が死亡したとされ、その後、犠牲者数は1200名に訂正される。ハマスは交渉に使うためイスラエル人を人質にすると考えられていたので、これだけの犠牲者が出たのは奇妙だったが、すぐにその理由が判明する。
イスラエルの新聞 ハーレツによると、イスラエル軍は侵入した武装グループを壊滅させるため、占拠された建物を人質もろとも砲撃、あるいは戦闘ヘリからの攻撃で破壊した という。イスラエル軍は自国民を殺害したということだ。 ハーレツの記事を補充した報道 もある。
イスラエル軍は自国の兵士が敵に囚われるのを嫌い、かつて、自軍を攻撃し傷つける代償を払ってでも、あらゆる手段で誘拐を阻止しなければならないという指令を出した。「ハンニバル指令」だ。1986年にレバノンでイスラエル軍の兵士が拘束され、捕虜交換に使われたことが理由だという。発想としては「生きて虜囚の辱を受けず」と似ている。昨年10月の攻撃ではイスラエル人が人質に取られることを阻止したかったと言われている。
1982年9月の虐殺はイギリスだけでなく世界の人びとがイスラエルを批判することになる。そうした情況を懸念したのがアメリカのロナルド・レーガン政権だ。
同政権はイギリスとの結びつきを強めようと考え、メディア界の大物を呼び寄せて善後策を協議。そこで組織されたのがBAP(英米後継世代プロジェクト)である。アメリカとイギリスのエリートを一体化させることが組織の目的で、少なからぬメディアの記者や編集者が参加していた。
そうした中、イスラエルに接近していくのがトニー・ブレア。1994年1月にブレアは妻と一緒にイスラエルへ招待され、3月にはロンドンのイスラエル大使館で富豪のマイケル・レビーを紹介された。その後、ブレアの重要なスポンサーになるのだが、言うまでもなく真のスポンサーはイスラエルだ。
そのブレアが労働党の党首になるチャンスが1994年に訪れる。当時の党首、ジョン・スミスがその年の5月に急死、その1カ月後に行われた投票でブレアが勝利して新しい党首になったのである。
レビーだけでなく、イスラエルとイギリスとの関係強化を目的としているという団体LFIを資金源にしていたブレアは労働組合を頼る必要がない。1997年5月に首相となったブレアの政策は国内でマーガレット・サッチャーと同じ新自由主義を推進、国外では親イスラエル的で好戦的なものだった。
ブレアはジェイコブ・ロスチャイルドやエブリン・ロベルト・デ・ロスチャイルドと親しいが、首相を辞めた後、JPモルガンやチューリッヒ・インターナショナルから報酬を得るようになる。
こうしたブレアのネオコン的な政策への反発に後押しされて2015年9月から党首を務めることになったのがジェレミー・コービン。労働党的な政策を推進しようとした政治家で、イスラエルのパレスチナ人弾圧を批判している。
そうした姿勢に米英の支配層は怒り、アメリカやイギリスの情報機関はコービンを引きずり下ろそうと必死になる。有力メディアからも「反ユダヤ主義者」だと攻撃されて党首の座から引き摺り下ろされた。
そして2020年4月4日に労働党の党首はキア・スターマーに交代。 新党首はイスラエルへ接近し、自分の妻ビクトリア・アレキサンダーの家族はユダヤ系だということをアピール している。彼女の父親の家族はポーランドから移住してきたユダヤ人で、テル・アビブにも親戚がいるのだという。イスラエル軍によるガザにおける住民虐殺にスターマーは反対していない。
今回のイギリス総選挙は国民の怒りを緩和させる「ガス抜き」としては機能するだろうが、それ以上のことは期待できない。
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