イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)は7月31日、ハマスの指導者で、イスラエルとの交渉で中心的な役割を果たしてきたイスマイル・ハニヤがテヘランで殺害されたと発表した。護衛のひとりも一緒に殺されている。通常はカタールを拠点にしているハニヤだが、イランの新大統領マスード・ペゼシュキアンの就任式に出席するため、イランの首都に滞在していた。
ペゼシュキアンの前任者、エブラヒム・ライシは5月19日に搭乗していたアメリカ製のベル212ヘリコプターが墜落、死亡している。同行していた別のヘリコプター2機はロシア製で、何の問題もなく帰国した。この当時、イランはアメリカの代表団とオマーンやニューヨークで秘密交渉を続けていたという。
ライシは5月18日、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領とダムの落成式に出席していているのだが、ライシが帰国の途についたタイミングでアメリカのC130輸送機がアゼルバイジャンに到着したと噂されている。墜落の真相は不明だが、単純な事故だと考えない人が少なくない。
ハニヤのケースも真相は不明だが、イスラエルやアメリカを疑いの目で見る人もいる。暗殺は両国の常套手段だ。アメリカの情報機関には自国の大統領を暗殺した疑惑がある。
そのアメリカ軍はイスラエルの協力を受け、 2020年1月3日、イスラム革命防衛隊の特殊部隊とも言われるコッズ軍を指揮していたガーセム・ソレイマーニーをバグダッド国際空港で暗殺している。その当時、イランとサウジアラビアは関係修復を目指し、交渉を始めていた。ソエイマーニーはイラン側のメッセンジャーだったのだ。アメリカやイスラエルは平和を恐れている。
ハニヤ殺害をベンヤミン・ネタニヤフの訪米と結びつけて考える人もいる。ネタニヤフはイスラエルの首相として7月22日にアメリカを訪問し、24日には連邦議会の上下両院合同会議で演説した。イスラエル軍がガザで続けている住民虐殺を正当化するために作り話を延々と続けたのだが、議員たちは何度も立ち上がって拍手喝采している。先住民であるアメリカ・インディアンを虐殺して建設されたアメリカの議員だけはある。この訪米の際、ネタニヤフはレバノンへの軍事侵攻と共に、ハニヤの殺害も承認されたのではないかと推測する人もいる。
その一方、27日にはゴラン高原にあるサッカー場が攻撃され、10代の若者12人が死亡したとイスラエルは発表した。この攻撃を目撃した地元の人はイスラエルの防空システム、アイアン・ドームのミサイルによるものだとしているが、イスラエル軍はレバノンのシーア派が実行したと主張している。ゴラン高原はイスラエルが不法占領しているシリア領。ヒズボラがシリア領を攻撃することはないと指摘する人が少なくない。
目撃者や状況証拠はイスラエルのミサイルがゴラン高原に着弾したことを示しているが、イスラエル軍はその責任をヒズボラに押し付け、「報復」だと称して攻撃を強めている。こうした軍事作戦もネタニヤフのアメリカ訪問と無関係ではないだろう。
この攻撃に限らず、アメリカやイスラエルは有力メディア、インターネット、映画業界などを駆使してプロパガンダで自分たちに都合の良いイメージを世界に広めてきた。アメリカは第2次世界大戦の前からプロパガンダを重視していたが、大戦後にはモッキンバードと呼ばれる情報操作プロジェクトを開始、1970年代から「規制緩和」でメディアの集中支配を推進、気骨あるジャーナリストを排除した。
1983年1月にはロナルド・レーガン大統領がNSDD11に署名、「プロジェクト・デモクラシー」や「プロジェクト・トゥルース」をスタートさせる。「デモクラシー」という看板を掲げながら民主主義を破壊し、「トゥルース」という看板を掲げながら偽情報を流し始めたのである。
20世紀の終盤にメディア支配はさらに強化される。例えばCNNではNATOがユーゴスラビアを先制攻撃して破壊した1999年、アメリカ陸軍の第4心理作戦群の第3心理作戦大隊に所属する隊員が2、3週間ほどCNNの本部で活動していたことも明らかになっている。この部隊の主要な仕事のひとつは「選別された情報」、つまり支配層にとって都合に良い話を広めることだ。
情報操作の分野ではイスラエルの8200部隊も有名だ。この機関はアメリカとイギリスの電子情報機関、つまりNSAとGCHQと緊密な関係にあり、協力して地球上の全通信を傍受、記録、分析している。NSAとGCHQの下部機関としてカナダ、オーストラリア、ニュージーランドの情報機関が存在している。
8200部隊は少なからぬ「民間企業」、つまり「企業舎弟」を設立して情報操作のネットワークを築いている。そうした企業のひとつであるNSOグループが開発した「ペガサス」は、通話、電子メール、写真、GPSデータ、アプリ関係の情報などを盗みむことができる。
また「オンラインの偽情報対策」を看板に掲げているイスラエルのテクノロジー会社、サイアブラも8200部隊の企業舎弟だと言える。取締役の中にアメリカの国務長官を務めたマイク・ポンペオが含まれているが、それだけではない。この会社を共同で設立した3名はイスラエルの情報機関で主要なメンバー。
そのひとりでCEOのダン・ブラミーはサイアブラを設立する前、イスラエル軍で射撃や戦闘の教官を務めていた。またヨセフ・ダールは8200部隊出身。この部隊は世界規模のデジタル監視網を利用して個人データを集積し、弱みを握り、脅迫、ゆすりに利用している。ダールは2004年から2014年まで8200部隊の幹部だった。イド・シュラガはイスラエル軍のサイバーシステム・エンジニアだった。当然、全てのパレスチナ人は彼らの監視対象になっている。ハマスなど反イスラエル抵抗組織の幹部の動向も把握しているはずで、イスラエルに対する奇襲攻撃という筋書きは説得力がない。
NSOグループやサイアブラだけでなく、8200部隊の「元隊員」数百人がシリコンバレーで働き、グーグル、マイクロソフト、アマゾン、メタなどで影響力のある地位を得ている。
2019年7月に性犯罪の容疑で逮捕され、同年8月に房の中で死亡たジェフリー・エプスタインは要人の弱みを握り、脅迫やゆすりに利用していた。このエプスタインは大学をドロップアウトした後、1973年から75年にかけてマンハッタンのドルトンスクールで数学と物理を教えていたが、76年には教え子の父親の紹介で投資銀行のベア・スターンズへ転職、その時の顧客の中にエドガー・ブロンフマンがいたという。
「世界ユダヤ人会議」の議長を務めた経験があるエドガー・ブロンフマンは密造酒の家系で、父親のサミュエル・ブロンフマンはルイス・ローゼンスティールの密造酒仲間。エドガーの弟、チャールズが1991年に創設した「メガ・グループ」はイスラエル・ロビーとされているが、イスラエルの情報機関と緊密な関係にあると言われている。
大学をドロップアウトしたエプスタインを教師として雇い入れたのはドルトンスクールの校長をしていたドナルド・バー。司法長官を務めたウィリアム・バーの父親だ。ウィリアムはCIA出身で、その時代にはジョージ・H・W・ブッシュの部下だった。またドナルドはCIAの前身であるOSSに所属していた。
エプスタインは未成年の女性と有力者を引き合わせ、ふたりの行為を盗撮し、それを利用して後に恫喝の材料に使っていたと言われている。 そのエプスタインは2011年にビル・ゲイツと親しくしていたとニューヨーク・タイムズ紙が伝えたのは2019年10月12日のことだった 。
エプスタイン、彼と親密な関係にあったギスレイン・マクスウェル、そして彼女の父親であるイギリスのミラー・グループを率いていたロバート・マクスウェルはいずれもイスラエルの情報機関のために働いていたという。マクスウェルはエプスタインをイランとの武器取引に加えようとしていたようだ。イスラエル軍の情報機関ERDに所属、イツァク・シャミール首相の特別情報顧問を務めた経験のあるアリ・ベンメナシェによると、3名ともイスラエル軍の情報機関(AMAM)に所属していたのだ。(Zev Shalev, “Blackmailing America,” Narativ, Septemner 26, 2019)
ロバート・マクスウェルがAMANのエージェントになったのは1960年代だとも言われ、ソ連消滅でも重要な役割を果たしたと言われいるが、ソ連消滅の前の月、つまり1991年11月にカナリア諸島沖で死体となって発見されている。
ギスレインとエプスタインは1990年代に知り合ったとされているが、ベンメナシェによると、ふたりは1980年代に親しくなっている。ニューヨーク・ポスト紙の元発行人、スティーブン・ホッフェンバーグによると、ふたりはあるパーティで知り合ったという。
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【 Sakurai’s Substack 】