次の「櫻井ジャーナルトーク」を12月19日(火)午後7時から駒込の「東京琉球館」で開催、「ウクライナ後の東アジア」について考えてみたいと思います。予約受付は12月1日午前9時からですので、興味のある方は東京琉球館までEメールで連絡してください。なお、「櫻井ジャーナルトーク」は12月で定期的開催を終了します。
東京琉球館
https://dotouch.cocolog-nifty.com
住所:東京都豊島区駒込2-17-8
Eメール: makato@luna.zaq.jp
アメリカの軍事や外交をコントロールしてきたシオニストは1991年12月にソ連が消滅した直後、世界制覇プロジェクトを始めました。その計画書とも言える文書が1992年2月に 国防総省のDPG(国防計画指針)草案として作成されています。1990年代以降の世界を考える場合、この文書からスタートしなければならないということになるでしょう。
その当時の国防長官はリチャード・チェイニー、文書作成の中心にはポール・ウォルフォウィッツ国防次官がいました。そこで、この文書は「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれています。このドクトリンの前提はライバルのソ連が消滅、アメリカが唯一の超大国になったということであり、他国に気兼ねすることなく、国連を無視して好き勝手に行動できるとチェイニーやウォルフォウィッツを含むシオニスト、いわゆるネオコンは考えました。
しかし、21世紀に入ってウラジミル・プーチンが登場、ロシアの再独立に成功します。そこでネオコンはロシアを再属国化するため、2度のクーデターを仕掛けました。 2004から05年にかけて実行された「オレンジ革命」と2013年から14年にかけてのユーロマイダンを舞台としたクーデターです。
しかし、ソ連時代にロシアから割譲された東部や南部では住民の多くがクーデターを拒否、クリミアではロシアと一体化する道が選ばれ、東部のドンバスでは武装抵抗が始まりました。旧体制の軍人や治安機関の少なからぬメンバーがクーデター体制を拒否、その一部は武装抵抗に合流したとも言われています。
抵抗運動は強く、NATOはクーデター体制の戦力を増強しなければならなくなります。そのための時間を稼ぐ必要が生じました。そこで成立させた停戦合意が2014年の「ミンスク1」と15年の「ミンスク2」です。その後、8年かけてNATO諸国は兵士の育成、訓練、兵器の供与などでクーデター体制の戦力を増強しました。
2021年から25年にかけて大統領を務めたジョー・バイデンはロシアに対して軍事的な挑発を強め、クーデター体制は22年に入ると反クーデター勢力への砲撃を強め、大規模な軍事作戦が始まると噂されました。そうした中、ロシアが先手を打って2月にウクライナ軍部隊や軍事施設などを攻撃、戦闘は始まります。
出鼻をくじかれたウォロディミル・ゼレンスキー大統領はロシアと停戦交渉を開始しました。交渉の仲介をしていたのはイスラエルとトルコで、 仲介役のひとりだったイスラエルの首相だったナフタリ・ベネットは交渉内容を詳しく説明しています 。 トルコ政府を仲介役とする停戦交渉は仮調印にこぎつけていました 。
ベネットは2022年3月5日にモスクワへ飛んでプーチン露大統領と数時間にわたって話し合い、ゼレンスキー大統領を殺害しないという約束をとりつけることに成功、その足でドイツへ向かってオラフ・ショルツ首相と会っていますが、 その3月5日、SBU(ウクライナ保安庁)のメンバーがキエフの路上でゼレンスキー政権の交渉チームで中心的な役割を果たしていたデニス・キリーエフを射殺してしまいました 。そして4月9日、イギリスの首相だったボリス・ジョンソンがキエフへ乗り込み、ロシアとウクライナの停戦交渉を壊します。( ココ や ココ )
ジョンソンはウクライナ人に対し、最後のひとりになるまでロシアと戦えと命令、ヨーロッパ諸国に対しては資金と長距離ミサイルをウクライナへ集中させるように求めました。ジョンソンを含むヨーロッパの嫌ロシア派やアメリカのネオコンは簡単にロシアを倒せると信じていたようですが、NATO側が8年かけてドンバス周辺に築いた要塞線も突破されてロシアの勝利は決定的です。最後のひとりになるまで戦えという号令の効果はありません。
すでにウクライナ戦争から距離を置き始めているドナルド・トランプ政権はロシア政府と停戦、安全保障、ヨーロッパの枠組み、将来の関係について水面下で話し合いを進めていると伝えられています。マイアミでアメリカのスティーブ・ウィトコフ中東担当特使とロシアのキリル・ドミトリエフ特使が会談しているようですが、これは事実上、敗者であるNATOと勝者であるロシアとの降伏交渉だと言えるでしょう。トランプ政権としては、その結果がアメリカの降伏に見えないように演出したいはずですが、プーチン政権は「ミンスク合意」の二の舞にならないよう事を進めるはずです。
それに対し、ヨーロッパの嫌ロシア派とアメリカのネオコンはそうした交渉を認めようとしないでしょう。「停戦」ではなく恒久的な和平が決まった場合、欧米諸国で戦争を推進してきた勢力は厳しい状況に追い込まれてしまいます。
権力を維持するため、欧米の「エリート」はベネズエラや東アジアで新たな戦争を始める可能性もあります。1995年以降、日本がアメリカの戦争マシーンに組み込まれ、中国やロシアと戦争する準備を進めてきたことは本ブログでも繰り返し書いてきました。そうしたことを最終回に考えてみたいと思います。
櫻井 春彦