プリオンの話（1）

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2015.07.19

テーマ：サイエンスな話題について♪(62)

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人間の短期的記憶がパソコンのＲＡＭのようなもので、パソコンを切ってしまうと消えてしまう、それに対して長期記憶はハードディスクやその他のメディアに保存するようなものでしょうか、メディアが壊れない限りずっと残っている。長期記憶がどのようにして形成されるかについて、ノーベル生理学・医学賞受賞者（2000年）エリック・カンデル（Eric Kandel）の率いるグループの最近の研究を読んでみました。短期記憶には、脳神経細胞の既存のシナプス結合とタンパク質が変化が使われるが、長期記憶には新しいシナプス結合（一つのニューロンと別のニューロンの結合）とそれを補強するタンパク質が必要になるそうです。そしてこのタンパク質はプリオンのようなものだとあります。

プリオンというとあれです、牛の狂牛病、人間のクロイツフェルト・ヤコブ病（Creutzfeldt-Jakob Disease、略してCJD）などの脳がスカスカになり運動機能が徐々に失われて死に至る病気、これらをまとめて伝播性海綿状脳症（Transmissible spongiform encephalopathy、ＴＳＥ）と呼ぶんだそうですが、その原因がプリオンと名付けられたタンパク質と言われています。

プリオンはタンパク質なのに感染の原因？どういうことなんだろうと思い調べてわかったことが一つ二つあります。

まず、プリオンという名前、これは1982年に付けられていますが、PROtein INfectionもしくはPROteinaceous INfectionの大文字部分からとって、語呂がいいように並べ替えて、PRIONとなりました。名付け親はスタンリー・プルシナー（Stanley Prusiner）、スクレイピー（注）というヒツジに特有の感染病の原因がどうも主としてタンパク質のようだと突き止めた彼は、これをPRIONと名付けたのです。日本語では、タンパク性感染粒子（あるいは感染性因子）と訳されています。

1982年の時点では、このタンパク性粒子の構造は分かっていません、ただヒツジの伝播性の病気の原因は主にタンパク質で、それをとりあえずプリオンと呼ぼうと提唱したのです。タンパク質の外壁に守られて小さな核酸が隠れているかもしれないし、ないかも知れない、この時はまだ断定することはできませんでした。核酸、すなわちＤＮＡやＲＮＡのような増殖するもの、が含まれていればウィルスやバクテリアの可能性があるのですが、そうではないかも知れないということです。

ちょっと脱線ですが、タンパク質とはアミノ酸がたくさんつながったもので、ある推定では人間の体の16パーセントがタンパク質です（他の主要な構成要素は、水、脂質、炭水化物、塩分）。筋肉の収縮に欠かせないアクチンとミオシン、毛や爪にあるケラチン、組織の結合や支持のためのコラーゲン、さまざまな酵素、免疫グロブリン、インシュリン、これらはみんなタンパク質です。タンパク質は生体内で合成されますが、その設計図は遺伝子に載っています。

ここでプリオンに戻りますと、1985年にプリオンの遺伝子が健常なハムスター、マウス、そして人間から発見されました。どういうことなんでしょう、スクレイピーなどのＴＳＥに冒されている生体にも健常な生体にもプリオンが存在するということは？

（注）　スクレイピー（scrapie）という病気は、今では伝播性海綿状脳症のひとつとされていますが、古くから知られていた病気で、痒みのためにヒツジたちが身体を岩や木などにこすり付け（scrape = 擦る、剥がす）、その後運動機能の連携が失われ（運動失調）立って入られなくなり、やがて死亡する、解剖してみると脳が海綿状になっている、というものでした。スクレイピー病原がタンパク質かも知れないという説は1967年ごろからありました。人間にもクール―（Kuru）という運動失調を引き起こす病気が、パプア・ニューギニア高原のフォレ族（Fore）の間で見つかっています、1950年代のことです。クール―とはフォレ族の言葉で「怖れて震える」の意味で、この病気に罹ると身体が震える症状が出てくることからそう名付けられていたようです。女性と子供たちの間で特に発症率が高かったことが観察されていることから、遺伝病ではないかという説もありました。フォレ族は死んだ人間の脳を食べる葬送の習慣があり、この習慣を禁止してから発症率は急激に減りました。今では、クール―も伝播性海綿状脳症のひとつと考えられています。

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