再出発日記

再出発日記

PR

フリーページ

お気に入りブログ

体感治安の悪化 New! 七詩さん

「おすわり」2 New! ポンボさん

源氏物語〔12帖 須磨… New! USM1さん

角野隼斗 ピアノリサ… New! はんらさん

『イギリス断片図鑑… New! Mドングリさん

カレンダー

2013年11月29日
XML
テーマ: 本日の1冊(3697)
カテゴリ: 水滸伝



帝に即位しても、制約を受け続けた。その制約にはじっと耐えた。耐えている間に、帝の心の中には、何か暗いものが醸成されていった、と桑弘羊は見ていた。
帝が成長するにしたがって、制約は少しずつなくなっていった。その間、じっと耐えていただけでなく、帝は衛青という武人を見つけ、苛酷な試練の中で、大きく育てあげていったのだ。
帝の非凡さがなければ、衛青という非凡な軍人は育たなかっただろう。
自らの非凡さで未来を切り拓き、匈奴戦に勝利という、輝かしい結果を出したのだ。明るい光に、満ちていた。しかしその明るさの底から、時折、暗いものが頭をもたげるのを、桑弘羊は何度か感じた。
陳皇后が廃されたときがそうであったし、張湯が自裁に追い込まれたのもそうだった。
それでも、泰山封禅という、漢の帝の誰一人もなし得なかったことを、実行したところまで、暗いものは輝きで消されていた。
泰山封禅を終えたころから、帝は、自分が死なないと思いこみはじめた、と桑弘羊はしばしば感じた。天の子なるがゆえに、不死である。いくら思い込もうとしても、死ぬだろうという、自覚は別のところにある。死なないというのは、死の恐怖の裏返しでもあったのだろう。
ほぼ全てのものを手にいれても、それは一瞬で死が持ち去ってしまう。その理不尽を、天の子であろうと受け入れなければならない。
そこから、なにかが曇りはじめている。ただ光に満ちていた人生に、霧のようなものがたちこめてきている。(382p)


大司農になってしまった桑弘羊は、今のところ1人のみ処罰もされないでずっと帝の側にいる。その桑弘羊から観た劉徹論である。実は桑弘羊は、司馬遷「史記」には記述されていない。司馬遷の亡くなったのちに死んだからである。しかし、一巻目からずっと桑弘羊から見た世界がこの「史記 武帝紀」を彩っている。よって私は、桑弘羊こそが筆者(北方謙三)の分身かもしれないとさえ思うのである。

全七巻のちょうど真ん中。遂に北方版「史記」の主要人物が、歴史の舞台で活躍を始める。

司馬遷は、父親司馬談の「私の仕事を受け継ぎ、歴史を書きあげてくれ」という遺言ともいえる言葉に出会う。しかし、「史記」にある「憤死」は、司馬遷の主観であったという描き方になっていた。

李陵は「霍去病に並ぶ軍才がある」と衛青に認められていた。しかしこの巻では戦は起きない。

蘇武が終に匈奴の囚われの身となる。

ずっと北方謙三版中国歴史物語を読んで来て、桑弘羊にしろ、司馬遷にしろ、蘇武にしろ、ここまで文官が主要人物として登場して来た物語はない。しかし、当たり前といえば当たり前、歴史は戦争によって紡がれるものではない、むしろ政治の延長の上に戦争があるに過ぎない。これは北方謙三の新たなる「挑戦」というべきなのだろう。
2013年11月13日読了





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2014年02月04日 16時15分21秒
コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ

利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

キーワードサーチ

▼キーワード検索

コメント新着

ヒフミヨは天岩戸の祝詞かな@ 自然数の本性1・2・3・4次元で計算できる) ≪…三角野郎…≫は、自然数を創る・・・  …
永田誠@ Re:アーカイブス加藤周一の映像 1(02/13) いまはデイリーモーションに移りました。 …
韓国好き@ Re:幽霊が見えたら教えてください 韓旅9-2 ソウル(11/14) 死体置き場にライトを当てたら声が聞こえ…
韓国好き@ Re:幽霊が見えたら教えてください 韓旅9-2 ソウル(11/14) 死体置き場にライトを当てたら声が聞こえ…
生まれる前@ Re:バージンブルース(11/04) いい風景です。 万引きで逃げ回るなんて…
aki@ Re:書評「図書館の魔女(4)」(02/26) 日本有事と急がれる改憲、大変恐縮とは存…
北村隆志@ Re:書評 加藤周一の「雑種文化」(01/18) 初めまして。加藤周一HPのリンクからお邪…
ななし@ Re:「消されたマンガ」表現の自由とは(04/30) 2012年に発表された『未病』は?
ポンボ @ Re:書評「図書館の魔女(4)」(02/26) お元気ですか? 心配致しております。 お…
むちゃばあ@ Re:そのとき 小森香子詩選集(08/11) はじめまして むちゃばあと申します 昨日…

バックナンバー

・2024年11月
・2024年10月
・2024年09月
・2024年08月
・2024年07月
・2024年06月
・2024年05月
・2024年04月

© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: