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「こうなればもう、女の品も見目形も、どうこう言いますまい。
ひどいひねくれ者という評判さえなければ、
実直で落ち着いた性質であることを頼みとして北の方を決めるべきではないでしょうか。
余分の教養や心遣いが具わっていれば儲けもの、それを喜びに思い、
少し劣った点があっても無理に身につけさせることはしますまい。
安心し、ゆったりとした気持ちでいてこそ、
見た目の風情は自然に具わるものではないでしょうか。
思わせぶりに恥じらい、言うべき恨みごとも黙って堪え、表面では平静を装っていても、
胸一つに思いあまった時には、ぞっとするような言葉の和歌を詠み置き、
思い出深い形見の品を後に残して、深い山里や世離れた海辺などに
人知れず隠れてしまうような女がいますがね。
私が子どもだったころ、女房などが物語で読んでいますのを聞きまして、
そんな女を『何と哀れで悲しく、思慮深いことよ』と、涙さえ落としたものでした。
しかし今ではそんな女のやり口はたいそう軽率で、わざとらしい事だと思いますね。
辛い事があったとしても、心ざし深いであろう男を捨て置いて、
人の気も考えず逃げ隠れし、気持ちを混乱させて『本心を見よう』とするうちに
一生の後悔となるなんて、全く馬鹿げた事ですよ。