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すると典侍は、何ともいえない絵の描かれた扇子で顔を隠して振り向きました。
目つきはたいそうな流し目なのですが、
瞼がひどく黒ずみ落ちくぼんで、髪の毛はぼさぼさとけば立っています。
源氏の君は『年不相応な扇だな』とお思いになり、
ご自分の扇とお取り換えになってよくご覧になりますと、
顔に映えると思うほど濃い赤色の紙に、金泥銀泥で塗り隠すように
木高い森の絵が描いてあります。
「森の下草老いぬれば」と、下品な歌を何気ないふうに書きすさんでありますので、
源氏の中将は『やれやれ、もっと他に上品な歌があろうに』と、にやにやなさいます。
「おや、『森こそ夏の(あなたの宿は大勢の男が来るらしいね。といった意)』
と、私は見ましたよ」
なにやかやお話しなさるのも不似合いで、人目も気になるのですが
典侍はそんな事に思いいたらず、
「君し来ば 手なれの駒に刈り飼はん さかり過ぎたる 下葉なりとも
(あなたさまがおいで下さるのでしたら、お手慣れした馬として、
草を刈って歓迎いたしましょう。女盛りの過ぎた私ではございますけれども)
と言う様子が、ひどく好色めいています。