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左大臣はそれを大宮に御目にかけて、
「言っても仕方のない事はさて置き、
『子に先立たれる悲しい事は世間によくある事なのだから』と諦めよう。
あの子は親子の縁が薄く、『親の心を嘆かせるよう定められていたのだろう』
と思うとかえって辛くて、前世に思いを馳せては心を慰めておりますが、
ただ日が経つにつれてつのる耐え難い恋しさと、この大将の君が
今は他人になってしまわれたことが、何としても無念でたまりません。
娘が生きていた頃さえ一日二日はおろか、
時々にしかおいでにならなかった事をいつも胸の痛む思いでおりましたが、
朝夕の光を失ったような今は、どうして生き長らえることができましょうぞ」
と、憚ることなく声を上げてお泣きになりますので、
大宮のお傍にお仕えする年長の女房などはたいそう哀しくて、
みながいっせいに泣き出してしまいました。
ほんにそぞろ寒い夕暮れの気色なのです。
若い女房たちは所々に集まりながら各々がしんみりと話しをして
「殿が仰せのように、若君の御世話をしてさしあげてこそ慰められもしましょうが、
何と言ってもまだ赤ん坊でいらっしゃいますものね」
「ちょっと里下がりして、また参上することにいたしましょう」
と言う者もありますので、それぞれが互いに別れを惜しむなど悲しい事が多いのです。