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可愛らしい恰好でお前に座っていらっしゃる姫君をご
『このような姫を授かるのだから、この女君とはよくよく深い宿縁なのだな』
とお思いになります。
この春から伸ばし始めた御髪が肩のあたりまでになり、ゆらゆらとみごとで、
ふっくらした頬、目元のほんのりとにおい立つようなうつくしさなど、言いようもありません。
この愛らしい姫を手離して、遠くから思いを馳せる『親の心の闇』を思いますと
ひどく気の毒で、夜が明けるまで繰り返し説得なさいます。
「どうして悲しいことがございましょう。私のような低い身分の娘を、
大切に養育してくださるのでございますもの」
と申し上げながらも、堪え切れず泣く気配があわれなのです。
姫君は無邪気に早く御車に乗りたがっていらっしゃいます。
車を寄せてあるところへ母君自らが抱いて出ていらっしゃいました。
たいそう可愛らしい声で、
「お乗りなしゃい」
と母君の袖を引くのがひどく悲しくて
「末遠き 二葉の松にひきわかれ いつか木高き かげを見るべき
(生い先遠い幼い姫と引き別れて、いつになったら成長した御姿を
見ることができるのでございましょう)」
と、最後まで言い切れずひどく泣きますので、
源氏の大臣は『どんなに悲しかろう。可哀想に』とお思いになって、
「生ひそめし 根も深ければ武隈の 松に小松の 千代をならべん
(私たちに姫が生まれたという因縁も深いのだから、
二人でこの姫の将来を大事に見守ろうではありませんか)
その日まで気を長くお待ちなさい」
とお慰めになります。
いつかは一緒に住めるとは思うものの、
明石の女君はとても堪えることができないのでした。
乳母と少将という上品な感じの女房だけが、
御守りの御剣や厄除け人形のような物を持って車に乗ります。
お供の者の車には姿形の良い若い女房や童を乗せて、姫の見送りに遣ります。
道すがら大井に留まる明石の女君の苦悩を思うと、
源氏の大臣は『罪つくりなことをした。どのような報いを受けることか』
とお思いになります。