PR
カレンダー
キーワードサーチ
「お庭に雪の山を作る遊びは古くからありましたが、
先年、藤壺中宮が御前のお庭に作られた時は、面白い趣向を工夫なさったものです。
お隠れあそばされたことが残念でなりません。
私とは遠く隔てを置いていらしたので、
はっきりお姿を拝見したことはありませんでしたが、
内裏にいらした間は私を安心できる相手とお思いでいらっしゃいました。
私も中宮を頼みに思い申し上げて、
折に触れてどのような事でもご相談申したものですが、
表立って才気ばしったところもお見せにならなかったけれど、頼りになり、
ちょっとしたことにも趣あるように工夫をお見せになる御方でいらっしゃいました。
あのような御方は、もうこの世にはいらっしゃらないでしょうね。
優しくゆったりしていらしたが、並々ならず奥ゆかしいところがおありだった。
あなたは藤壺中宮の姪でいらっしゃるから、さすがによく似ておいでだが、
少し厄介なところがあって、きかぬ気の多い点が困りものですね。
前の斎院・朝顔の姫宮のご気性は、藤壺中宮とはまた様子が違うように拝見しています。
私がもの寂しい折、特に用事がなくても互いに気心が通じ合い、
しかし気を使わずにはいられない御方としては、
今や朝顔の姫宮お一人だけとなってしまいました」
と仰せになります。紫の女君は、
「朧月夜の尚侍の君こそは何事にも巧みで、
奥ゆかしい点では他の女君に勝っておいででございましょう。
軽率なお振舞いなどおありでない御方ですのに、不思議なことが数々おありでしたのね」
と仰せになりますので、
「まさしく。朧月夜の尚侍の君は、優美で見目麗しい女君の例として、
やはり一番に挙げるべきでしょうね。
そう思いますと、お気の毒で悔しく思う事が多いのです。
まして浮気で好色な男が昔を思い出すとき、年令とともに悔やむことも多くなりましょう。
他の男よりずっと落ち着きのある人間と思っていた私でさえこうなのですから」
と仰せになって、尚侍の君の御身の上話をなさるにつけても、
少しは涙を落とし給うのでした。