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「人の数にも入らぬとあなたが見下げていらっしゃる大井の明石の君こそ、
低い身分にしてはできた人で、ものの情趣を心得てはいるのですが、
何分受領の娘ですから、他の女人と同列というわけにはまいりません。
その気位の高い様子を、私は無視しているのです。
しかし、どうしようもない身分の女人というものを、私はまだ見たことがありませんね。
とはいえ人並みすぐれた女人というのもなかなかいないものですな。
その中に、東の院に所在なくしておいでの花散里の君こそ、
変わることなくいつも可愛らしいご性質でいらっしゃる。
変わらぬ態度というものは得難いものだが、
そういった面でよくできたお人としてお世話するようになってから、
ずっと遠慮勝ちで慎ましく暮らしていらっしゃるのです。
今ではお互いに離れることができそうになく、しみじみと愛おしく思っているのですよ」
など、昔や今の御物語をして夜が更けていきます。
月はますます澄みわたり、お庭はしんと静かで風情があるのです。紫の女君、
「こほりとぢ 石間の水は行きなやみ 空すむ月の 影ぞながるる
(庭石の間を流れる鑓水の流れは凍りついて滞るけれど、
空に住む澄んだ月の明かりだけは西の空に流れていきますのね)」
と、身を外に乗り出していらっしゃいます。
少し頭が傾いていらっしゃるあたりが、似るものがないほどうつくしいのです。
髪の様子や面ざしが、忘れ難く恋こがれていらっしゃる藤壺の宮の面影に
ふと重なってうつくしく、朝顔の姫宮に対する御心も薄れるのでしょうか。
折しもお池に鴛鴦(おしどり)が鳴きましたので、源氏の大臣、
「かきつめて 昔恋しき雪もよに あはれを添ふる 鴛鴦(おし)のうき寝か
(恋しい昔の事があれこれとかき集めたように思い出される雪の夜に、
哀れを誘うように鴛鴦が鳴いている。鴛鴦も憂き寝をしているのであろうか)」