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など、たいそう若々しく可愛らしいお顔で恨み言を仰せになりますので、にっこりなさって、
「おやおや、私が物の怪の道案内をしたというのですか。
格子を上げなくては私自身が入れないではありませんか。大勢の子の親になられたせいか、
分別臭いことをおっしゃるようになりましたね」
と、見やり給う目元がきまりが悪いほどうつくしいので、
さすがにそれ以上は仰せになりません。
「もうあちらへいらしてくださいまし。見苦しい姿をしておりますから」
と、明るい火影に照らされるのを恥じていらっしゃるご様子を、憎からずご覧になります。
ほんにこの若君はひどく泣いてむずかり、一夜をお明かしになります。
大将の君も先ほどの夢をお思い出しになって、
『厄介な笛を受け取ったものだな。故人の執念が籠った愛用品を私が持つべきではあるまい。
しかし二宮さまに伝授するのは無意味というものだ。
故人の霊はどう思っているのであろうか。生きている間は些細なことでも、
臨終の際に一念の恨めしさが残ると、人情に付きまとわれて無明長夜の闇にも迷うと聞くが。
だからこそ、何事もこの世に執念を残したくないものだ』
とお思い続けになって、
火葬された愛宕の念仏寺や衛門督が帰依なすった寺に追善供養をおさせになります。
『この笛は、故人ゆかりの品としてわざわざ引き出物に賜ったのだから、
尊い供養のためとはいえ今すぐ寺に寄進するわけにいくまい』