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「大将だ。宮を抱きたてまつりて、あちらへお連れ申せ」
と、ご自分に敬語を使ってたどたどしく仰せになりますのでお笑いになって、
「では、こちらへいらっしゃい。御簾の前を横切るのは失礼ですからね」
「誰も見ていないよ、ぼくが顔を隠してあげるから。早くはやく」
とて、お袖で顔を隠していらっしゃいますので、
たいそう可愛らしくお思いになって明石女御のお部屋にお連れします。
こちらでは二宮と、女三宮腹の若君が一緒に遊んでいらっしゃいますのを、
慈しんでいらっしゃるのでした。
隅の間のあたりにお下ろしになりますと二宮が見つけ給いて、
「あ、ぼくも大将に抱っこされたい」
それを三宮が、
「ぼくの大将だぞ」
とお引き留めになります。大殿がご覧になって、
「おやおや、何と行儀の悪いこと。
朝廷で帝のお側をお守りする近衛大将を、
自分だけの随身にしようと争っていらっしゃるのですね。
三宮こそたちが悪くていらっしゃる。
いつも兄宮に対して競争しようとなさるのですから」
とお諫めになり、お二方の仲をお執り成しになります。
大将も笑って、
「二宮は兄宮としての御心構えがおありで、
何事も弟宮に譲っておあげになるところが、
いかにも聞き分けがよろしいように存じます。
お年のほどよりは恐ろしいまで賢くいらっしゃると拝見いたしております」
と申し上げます。
大殿もにっこりなさって、
どちらも本当に可愛いとお思いになっていらっしゃるのでした。
「そこは公卿のあなたに相応しくない御座だ。あちらにいらっしゃい」
と、お渡りになろうとしますと、幼い宮たちが纏わりついて離れません。
大殿はお心内で、
『女三宮の若君は、この宮たちと同列に扱うべきではないのだ。
なまなか大切にすれば、母宮の良心が咎められて苦しい思いをなさるであろう』
と、こんなふうにお考えになるのも大殿のお心癖で、
お気の毒にお感じになりますので、
たいそう可愛らしい者としてかしづいていらっしゃいます。