私訳・源氏物語

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佐久耶此花4989

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July 8, 2018
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カテゴリ: 源氏物語
御仏名会も今年だけとお思いになるからでしょうか、
常よりもことに錫杖の声々などがしみじみと御心に沁みます。

導師が長寿を祈願なさいますのを、
仏がどのようにお聞きになるかとお思いになりますとおかしくてたまりません。

雪がひどく降りまして、本格的に積もりました。

導師が退出なさいますのを御前に召して、
お盃などいつもの作法よりも特になさって禄などを下されます。

長い間六条院に親しくお出入りし、内裏にもお仕え申し上げて
見慣れている御導師の頭が白く変わっていますのをご覧になって、
哀れにお思いになります。

例の宮たちや上達部などがあまたお越しになりました。

わずかに咲きだし始めた梅の花が雪に引きたてられて趣ある風情ですので、
管弦のお遊びなどがあってもよさそうなのですが、
やはり今年いっぱいは楽の音がむせび泣きのような鳴り方になりそうで、
時にふさわしい朗詠だけをおさせになります。そういえばお盃のついでに、

「春までの 命も知らず雪のうちに 色づく梅を 今日かざしてむ

(来年の春まで命があるものかどうか私には分からないが、
雪の中で色づく梅を、せめて今日は挿頭にしましょう)」

導師のおん返し、

「千世の春 みるべき花といのりおきて 我が身ぞ雪と ともにふりぬる

(千年後の春にもみることのできる花であるようにと、
あなたさまの長寿を祈り申しておきながら、
白髪頭の私は降る雪とともに年老いてしまいました)」。

人々も多く詠んだようですが、書き洩らしてしまいました。

その日だけ、大殿は人々にお会いになります。

お姿は昔のおうつくしさの上にもさらにまた多くが添いて、
ありがたくめでたくお見えになりますので、
この年寄りの僧はわけもなく涙が流れて止めることができないのでした。

大殿は『今年も暮れたのだな』とお思いになりますと心細いのですが若君が、

「鬼やらいをするには、何で高い音を出すといいでしょう」

と、走り回っていらっしゃいます。

『出家すると、この可愛らしい様子も見られないのだな』

と、何事につけても忍び難くお思いになります。

「物思ふと 過ぐる月日も知らぬまに 年も我が世も 今日や尽きぬる

(亡き御方を偲びながら、過ぎていく月日も知らずにいるうちに、
今日で今年も終わりになってしまった。
私の世も今日で縁が尽きてしまうのではあるまいか)」

正月朔日のご準備は、「例年よりも特別に計らえ」とお命じになります。

親王たちや大臣へのご祝儀、その他の人々にも、
身分に応じて禄など格別に用意なさいましたとか。





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最終更新日  July 8, 2018 12:52:49 PM
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