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April 7, 2012
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カテゴリ: 教授の読書日記



 本書は、アメリカ映画、それも1960年代末から1970年代末にかけての話題作(時に難解作)を9本ほど取り上げ、それら一つ一つを読みほどいていく、というような趣向の本です。で、その取り上げ方も、形而上的な解読を試みるのではなく、個々の映画の制作過程を詳らかにするということに主眼を置いているんですな。つまり、ある意味では非常に下世話な話にもなってしまうのですが、その下世話な事実を知らないで、映画史に名を刻む映画をただ神格化したって意味がないじゃないか、というのが町山さんのスタンスなのでしょう。

 例えば本書第一章で取り上げられる『2001年宇宙の旅』。原始、いわゆる「モノリス」との接触によって猿が道具を使うことを覚え、進化していく過程を描いた長い冒頭シーンですが、あの退屈であり、かつ難解なシーンがなぜ退屈で難解なのか。

 町山さんによると、その答えはごく簡単なことでありまして、何と、映画が制作された当初、あのシーンには「ナレーション」が付いていた、というのです。つまりあのシーンは解説つきだったと。ところが監督のスタンリー・キューブリックが、それだと映画が理屈っぽくなってしまうと考えて、解説ナレーションを最終的に削ってしまった。だからあの映画は、冒頭からして「難解」になったわけ。

 あらま、そうだったの?

 ってなわけで、本書ではこんな感じの「目からウロコ」の話が次々と明らかにされていきます。

 例えば人類の進化を促した黒い岩・モノリスにしても、あれ、最初は「異星人」にするはずだったんですって。異星人が地球の生き物に進化を与える、というシーンをキューブリックは撮りたかった。ところが当時の技術では本物らしい異星人を映像化することができなかった。そこで仕方なく、黒い岩、ということにしちゃったのだそうで。だから、あのモノリスに何か深淵な意味を求めても意味がないんですな。あれは単なる「大人の事情」なんですから。

 もう一つ例を挙げるならば、映画の最後の方、木星の軌道上に浮かぶもう一つのモノリスに接近したボーマン船長が体験するあの光のシャワー。あれは「ワープ」していることを示す(ま、それは何となく分かる)のですが、ワープの過程でボーマン船長は超新星の爆発から新たな星が生まれ、そこに生命が生まれて進化するまでの膨大な時間の経過を短時間のうちに目撃することになる。で、この映画の冒頭で描かれた猿から人間への進化のシーンは、本来はここに挿入されるはずだったんですって。だけど、進化シーンを冒頭に持っていくことにしたため、惑星の生成過程だけを示す光のシャワーだけが残された。

 で、その後にボーマン船長の「スター・チャイルド」への変身が起こるわけですが、もし猿から人間への進化のシーンが当初の計画通りワープ・シーンの中に組み込まれていたならば、船長の謎の胎児化が、人類のさらなる「進化」であることがもっと明確に観客に伝わったはず・・・。



 面白れぇ~! けど、身も蓋もねぇ~!

 その他、本書には面白くて、時に身も蓋もない話がわんさか。中でも私が映画論の授業中に使えそうなネタとして心のメモに書き付けた話題を箇条書きで紹介すると・・・

○『卒業』の主役は最初ロバート・レッドフォードだったが、彼には女性に奥手な青年役が無理だったので、ユダヤ系のダスティン・ホフマンが抜擢され、結果としてユダヤ系家族がスクリーンに上ることとなり、これが後の『ゴッドファーザー』はじめ、非アングロサクソン系の家族の物語がハリウッド映画の主題となる突破口を開いた。

○『卒業』の中で主役のベンが歩くシーンでは、必ず彼は右から左へ歩き、背景の群集は逆に左から右へ移動する。これは「世間の逆を行く」という意味でベンを「カウンター・カルチャー」の象徴とするため。

○『猿の惑星』の原作者、フランス人のピエール・ブールは、かつてビルマでアジア人を使ってプランテーションを経営していたが、第二次大戦で日本軍に占領され、逆に日本人にこき使われるという体験を持つ。この逆転現象が、彼をして『猿の惑星』を書かせた。
 これがアメリカで1968年に映画化された時、アメリカでは公民権運動(黒人問題)の最盛期でもあり、黒人の暴動が頻発していた。『猿の惑星』がもともと持っていた「逆転現象」のテーマは、アメリカにおいて「黒人に支配される白人」というテーマに代わり、それが「猿に支配される人間」という形で映像化された。(その意味でこの作品は1933年の『キングコング』と同様のテーマを持つ。)

○『地獄の黙示録』は、ジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』だけでなく、実在のCIAエージェント、トニー・ポーの実話やベトナム戦争時の「レアルト大佐事件」なども下敷きにしている。原作者ジョン・ミリアスはベトナム戦争に行きたかったが行けなかった人物で、彼のオリジナル脚本は映画版とは異なり、非常に好戦的だった。『Apocalypse Now!』というタイトルも、当時のベトナム反戦スローガンである「Nirvana Now!」へのあてつけだった。

○『黙示録』でカーツ大佐を演じるマーロン・ブランドは、当時太り過ぎていてアクションが出来ない状態だったので、仕方なく急遽キャラ設定を変更することに。それに伴い、フレイザーの『金枝篇』、ウェストンの『祭祀からロマンスへ』、T・S・エリオット『荒地』などからの引用がちりばめられたセリフが埋め込まれることになり、作品はさしたる意味もなく難解なものに。

○『ロッキー』の筋書きのモデルとなったのは、モハメド・アリ対チャック・ウェプナーの試合。これを見て感動した売れない俳優シルベスタ・スタローンは、冴えない自らの姿を冴えないボクサーに重ねた脚本を一気に書き上げ、自らメガホンをとることに。最後のアポロとの試合シーンでは、予算がないために、フライドチキンを食わせるという対価で観客役に町のホームレスを動員。長い撮影時間では暴動が起こると見たスタッフは、最初に腫れ上がったメークをした15ラウンドのシーンを撮り、順にメークを落としながら1ラウンドまで逆に撮って行った。

○ロッキーではアポロ側、すなわち黒人側が常に贅沢な暮らしをし、ロッキーなど白人側が底辺の生活をしている。これは『猿の惑星』と同様の構図。一方、『タクシー・ドライバー』では、底辺の生活をしている白人のトラヴィスが、白人少女を囲う黒人のポン引きを銃殺する話で、1976年のアカデミー賞を分け合った両作は、同じ構図のネガとポジ。

 とまあ、こんなところかな?



 というわけで、まあ、確かに本書は面白いですし、勉強になるところは多いのですけれど、見方を変えると、なんだ、ただの裏話じゃん? というところもあって、これを読んだために特定の映画のことがすごく愛しくなってくる、というものでもない。その辺がね、「絶賛おすすめ!」とはならない所以であります。

 が、読んで損するというものでは決してなく、取り上げられている映画についての正しい知識は身に付きますから、この時代のアメリカ映画に興味がある向きには間違いなく「教授のおすすめ!」であります。『2001年宇宙の旅』に挫折した方など、是非!


これこれ!
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Last updated  April 7, 2012 03:57:14 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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