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April 9, 2012
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カテゴリ: 教授の読書日記



 で、大学に行ったら、事務でなぜかヘルメットを手渡されました。校章入りの立派な本格的ヘルメット。何を血迷ったか、大学の執行部が、大学に勤務するすべての人に行きわたるよう、このヘルメットを作ったのですと。

 ワタクシにはまったく理解できない、愚かな公費の使い方だと思いましたが、まあ、これは大学が私に誕生日プレゼントとして、ジョークとしてくれたんだと思って、まあ、もらっておいてやる(by 田中氏)かと。

 というわけで、今年度初のゼミは、新品のヘルメットをかぶりながら挙行したのでありました。新ゼミ生には大ウケでしたけどね。



 さて、今日は小川隆夫さんが書かれた『ブルーノート・コレクターズ・ガイド』を読了しましたので、ここでちょっとご紹介しておきますね。

 小川隆夫さんは本業はお医者さんですが、ジャズ関連の著作も多く、何と言っても世界で最も有名なジャズ・レーベル、「ブルーノート」から出されたレコードを全種類集め、ブルーノートの創立者アルフレッド・ライオンからお墨付きをいただいた世界で唯一のコンプリート・コレクターとしても名高い方。本書はそんな小川さんがいかにしてブルーノート・レコードと出会い、そのコレクターとなったか、その辺りの事情を綴った半生記であります。

 となると、中年ジャズファンであり、また根っからの古本好きとしてコレクター心理も多少なりとは心得ているワタクシとしては、興味津々の本であることは明らかでありましょう。

 さて、本書によると小川さんがブルーノートのレコードと出会ったのは高校1年の時。渋谷・道玄坂にあったヤマハ渋谷店のバーゲン・セールにて500円で買い求めた『ジ・アメイジング・バド・パウエル Vol.1』だった。あの「ウン・ポコ・ロコ」3連発で有名なレコードですな。

 で、分けも分からず、ただバーゲン・セールの人混みの中、売れ残りの一枚としてようやく手にしたこのレコードの「ウン・ポコ・ロコ」3テイクを聴いて、小川隆夫少年は「こりゃ、ヘンテコなレコードを買って損した!」と後悔するんですな。しかし、小遣いをやりくりして買ったレコードだけに、無駄なものを買ったとは思いたくない。そこでこのレコードを繰り返し聴いて、何とか好きになろうと努力した。



 で、その後もレコードを買ったり、自らギターを演奏して友達同士でバンドを組んだりして、音楽を楽しんでいく小川さんですが、父親を継いで医者になることを決めていた小川さんは、音楽と受験勉強の二束の草鞋をどうにかこうにか履きこなし、1年間の浪人時代を経て、東京医大に合格。

 もっとも浪人時代にも小川さんのジャズ遍歴は続いていて、勉強の傍ら、ジャズ喫茶に出入りしたり、新宿のレコード屋「マルミ」でレコード漁りをしたり、という日々だったようですが、この「マルミ」の店長とのエピソードがなかなか面白い。

 ある日、小川さんが初めてこの店を訪れ、セロニアス・モンクのレコードを買おうとすると、店長が買わせてくれないというのですな。そしてその代わりにデューク・エリントンのレコードを勧めてきたと。つまり、若造のお前なんかにモンクはまだ早い、先に基本となるエリントンで勉強してこい、というわけです。

 で、普通そんなことを言われたら腹を立てる人だっているでしょうが、小川さんは素直に店長の勧めに従ってエリントンを買い、そのレコードを聴きこんだんですな。で、2週間後、再びマルミを訪れた小川さんは、店長からエリントンの感想を聞かれ、「エリントンのピアノがあまり聴けない点が不満ではあるけれど、オーケストラの響きがそれ自体でスイングしているし、それぞれの曲でフィーチャーされるソロにも満足した」と答えた。

 するとその店長、「はい合格」と言って、小川さんにモンクのレコードを(200円引きで)売ってくれたんですって。

 いい話じゃないですか。店はただ品物を売る、客はただそれを買う、というのじゃない、店主と客とインタープレイがあった時代。ジャズだねぇ・・・。

 で、ともかく東京医大に進学して医学の勉強を始めた小川さんは、忙しい勉強の合間にレコードを買い続けるのですが、さすがに理系人間というか、ある程度の量のレコードが溜まってくると、分類して整理したいという欲求が小川さんの中に目覚めてくるんですな。

 で、そうやって自分の持っている400枚ほどのジャズ・レコードを分類してみると、そのうちの100枚程度がブルーノート・レーベルのもので、しかもその100枚はどれもレベルの高い、はずれの少ないものばかりだった。

 ここで小川さんの心に「だったら、ブルーノートのレコードを全部コレクションしてみるか」というほのかな野望が生じてきたんですな。

 ところが今と違って情報も少ない時代で、一体ブルーノートが創立以来、どのくらいのレコードを世に出してきたのか、なんてことは皆目分からない。ジャズの1レーベルのレコードをすべて集めよう、などということを志す人は、当時日本はもちろん、世界にも居なかったので、それを志すことがどのくらい大変なことなのかすら見当がつかない。



 しかし、どうせ集めるならば、後の時代に再販されたものではなく、ブルーノートが最初に出したオリジナル版を集めたくなるのが「コレクター心理」というもの。となると、どれがオリジナル版で、どれが再販版かを見きわめる必要が出てくるわけですが、これもまた難しい問題でありまして。

 これが古本のコレクションの話ですと、なにしろ本自体に「初版」と書いてありますから、どれが初版かを見きわめるのは造作もないことなんですが、当時のジャズ・レコードの出版にそんな決まりはないので、どれがオリジナルかがなかなか分からない。

 例えばレコードに記された版元ブルーノート社の所在地の記載を見て、そのレコードが発売された時、ブルーノート社はその所在地にあったから、多分、それがオリジナル、という程度の見きわめ方はあるのですが、A面とB面でブルーノート社の所在地の記載が異なるものもあったりして、本当にそれがオリジナルなのか、よく分からないことがある。

 何しろ、社長のアルフレッド・ライオンからして、どれがオリジナルか見きわめがつかないというのですから、アメリカ人というのはもともとそういうことに興味がないんでしょうな。

 そこで、他の見きわめ方として、例えばレコードの端の厚みであるとか、レコード中央部の溝であるとか、ジャケットに記載された業務用暗号だとか、そういうものから、「おそらくこれがオリジナル」というのをおおよそ断定して行かざるを得ない。



 でも、その後、NYの大学に留学に行って、現地で本場のジャズメンやレコード店主などと友達になったこともあり、小川さんのブルーノート・コレクションは次第に厚みを増し、コレクションを志した1973年から14年の後、1987年6月21日、ついに小川さんはブルーノートの完全コレクションを達成します。そしてこの14年の間に、小川さんは本業の傍ら、すっかりジャズ業界の人となっていたと。

 ブルーノート・レコードのコレクションという、かつて世界中の誰も試みたことのないことを、ひょんなきっかけから始めたことで、小川さんの人生は大きくコースを変え、またこの上なく充実したものになった。その幸福な幸福な過程を綴ったのが、この本なんですな。

 本書はそんな小川さんの半生記の他に、ブルーノート・レコードの魅力を行方均氏と語り合った対談や、ブルーノート・レコードの完全カタログも収録されております。特に完全カタログの方は、学術的な価値すらもあるのではないかと。

 というわけで、どんなものであれ、モノを集める趣味のある人間にとって、本書『ブルーノート・コレクターズ・ガイド』は非常に面白い読みものでありまして、そんな御同好の士に向って、教授の熱烈おすすめ! と言っておきましょう。

 ちなみに小川さんは1950年生まれ、団塊の世代の最後の方に属しておられる方なんですが、この世代には例えばビートたけしさん(1947年生まれ)とか坂本龍一さん(1952年生まれ)なんかが入るわけですけど、私、この世代の人達に非常に興味がありまして。この世代の才人たちの群像を、色々な本を通じて構築していくというのが、現在のワタクシの趣味になりつつあるような気がしています。


これこれ!
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Last updated  April 9, 2012 09:57:24 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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