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August 1, 2017
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河原理子(みちこ)さんの『フランクル『夜と霧』への旅』という本を読了しましたので、心覚えをつけておきましょう。

 先日、多くの人が自己啓発本の傑作と評するヴィクトール・フランクルの『夜と霧』を読み、色々思うところがあったもので、その関連でこの本も読んでしまったと。

 ちなみに河原さんという方は、私よりちょっと年上ですが、まあ、ほぼ同年代と言ってよく、私と同じ世代の人間が『夜と霧』という本にどういう風に接したか、ということが判って、その意味でも興味深いところがありました。

 っていうか、そもそも河原さんはこの本の著者紹介欄にご自身の生まれ年を明記していらっしゃるところがまず偉い。そんなの当たり前じゃんと思うなかれ、女性ライターで自分の年齢を隠す人は多いんですよ~。そういうことにいつも私は腹が立つのですが、河原さんはそうじゃない。さすが、新聞記者出。事実の報道に重きを置くわけですな。

 で、この本の内容について言いますと、本書の序章を読むと、なんとなく占えるところがある。

 本書はまず元NHKディレクターでNPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」の代表をしていた清水康之氏のことから語り始めております。清水さんは受験競争時代の日本の風潮に嫌気がさし、高校を中退、アメリカに渡るのですが、アメリカでテレビ朝日の討論番組「朝まで生テレビ!」を見、そこで当時国際基督教大学準教授だった姜尚中の存在を知り、ニューヨーク州立大から国際基督教大に編入、姜尚中の指導で「日本脱出マニュアル」というタイトルの卒論を書く。それは、若者に向けて息苦しい日本なんか飛び出して、タフに生きようぜ、と煽った内容だったのですが、それに対して指導教授の姜尚中は「”それでも人生にイエスと言う” いいと思う」という感想を寄せた。これは清水の人間へのポジティヴな思いに対する、姜尚中の最大限の賛辞だったと。

 で、清水康之から姜尚中を通過して、河原理子さんは「それでも人生にイエスと言う」という言葉に出会い、それがヴィクトール・フランクルの言葉であることを知ると。姜尚中氏もまた、フランクルに影響を受けた一人だったんですな。そして、そういう人と人のつながり、人と自分とのつながりの中で河原さんはフランクルに興味を持ち、かつて自分も読んだはずの『夜と霧』を再読、その思想に惹きつけられて、いわば「フランクル詣で」へと旅立った・・・。

 とまあ、ここまでが序章なんですけど、結局、本書に書かれていることってのは、そういうこと。つまり、フランクルの影響を受けた人たちから刺戟を受けてフランクルのことを追究したくなり、フランクルのことを追究しているうちに、さらに彼の影響を受けた人々のことが明らかになり、その隠れたフランクル・ネットワークの大きさ、深さに驚愕しつつ、自らもそのネットワークに連なる形でますます今は亡きフランクルに近づいて行く、その冒険紀行、トラベローグがこの本であると。

 となると、旅の始まりは、最初にフランクルを発掘した日本人、すなわち『夜と霧』を最初に翻訳した霜山徳爾氏のことになるのは、理の当然と言うべきか。



 で、こういうことを、河原さんは単に文献で調べるのではなく、霜山さんの御遺族や新訳を出した池田さんに直に会って話を聞く形で掘り下げていくわけ。このスタンスはその後も変らず、例えば日本を代表する診療内科医にして、やはりフランクルに強い影響を受けた永田勝太郎氏や、エッセイストの岸本葉子氏、世田谷一家殺害事件の被害者の親族であった入江杏氏、次男の自殺という悲劇に見舞われたノンフィクション作家柳田邦男氏・・・といった具合で、次々とフランクル水脈に連なる人々のことを、直接・間接にインタビューしたりしながら知っていく。

 で、そういう作業の末に、今度はフランクル本人の足跡を確かめたくて、河原さんはオーストリアへ、そして、フランクルが収容された強制収容所の跡地を巡る旅を決行、各地でフランクルのつながりのある人たちにインタビューしながら、さらに深く深く、フランクルの人物に迫っていくと。

 で、そういう作業を経て行くうちに、やっぱり今まで見えなかったことが見えてくることがある。

 例えば、世界でこれだけ評価されているフランクルが、案外故郷では批判的に見られていること、とか。

 フランクルは、その著書や講演の中で、全体的批判を避けてきた。つまり、ナチスは全員悪い、という見方を批判し、ナチスの中にもいい人は居たと主張するわけ。人間にはいい人と悪い人の二種類がいるけど、ナチス全員が悪い人であるわけではないので、そこを無視してはいかんと。で、それは強制収容所にいたフランクルが直接知っていた命がけの事実であるのに、そのことをもって「ナチス擁護」と捉える人が沢山居て、フランクルの家の戸に鍵十字のいたずら書きが何度もなされたりしたというのです。

 だから、戦後、名士となった後ですら、フランクルに哀しみは尽きなかったわけですな。

 だけど、それでもフランクルは人生にイエスと言った。強制収容所から解放され、そこでの体験と思索を『医師による魂の癒し』『一心理学者の強制収容所体験』(→『夜と霧』のこと)の二著を著して、他に生きる目的も無くなってしまった時に、エリーさんという女性に出会い、彼女と再婚し、もう一度生きる力を得るんですな。そして以後、エリーさんによれば「誠実な医師」として淡々と人を癒す仕事に従事した。

 そしてそんなフランクルの信念は、どんな状況も、その人が生きてきた歴史・幸福を奪うことは出来ないし、だからこそ、その人生にはすべて生きるに足る価値があると。だけどその価値(=答え)というのは、自分から見い出そうとして見つかるものではなく、逆にその時々の状況が、その人に答を求めているのだと。だから、一瞬一瞬、人生が問いかける問に対して、人間は答えを出していかなくてはならないんだと。

 まあ、こういうフランクルの思想を考えていると、私としては、当然のことながら恩師・須山静夫先生の人生のことを連想せざるを得ません。須山先生は、病気で奥様を亡くされ、事故で息子さんを亡くされ、その絶望の中で生きる意味を探し続けたわけですから。須山先生もまた、人生が問いかける問に、答えようともがいたのですから。


S先生のこと [ 尾崎俊介 ]

 そしてフランクルに影響を受けた人たちに話を聞き、フランクル自身の足跡を辿った河原さんは、最後に自分自身のフランクル体験を振り返るわけ。そして、フランクルの思想が、この本の取材を通して知った無数の人々にとってと同様、河原さんの人生のあちこちで、救いとして機能してきたことを改めて感じるわけ。それこそ「すとん」と腑に落ちるような形で。


 というわけで、この本、フランクルをテーマにした個人的ドキュメンタリーとして、読ませるものとなっております。良質のドキュメンタリーというのは、常に、個人的なものですからね。いい本ですよ。教授のおすすめです。



フランクル『夜と霧』への旅 (文庫) [ 河原理子 ]





 あたかも今が二度目の人生であるかのように、生きなさい。一度目は、今しようとしていることに、まちがって行動してしまったかのように!

 というもの。

 これ、ちょっと良くない?! 

 私も人並みに、「あの時、ああすれば良かった、こうすれば良かった」と後悔ばかりする人生を送っておりますが、これを過去詠嘆に使うのではなく、未来に使えと。「この状況、前は失敗したけど、今度こそうまくやるぞ」というつもりで、今を、未来を生きろと。

 うーん、深い! フランクル、やっぱりあんたは大したもんだぜ!





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Last updated  August 1, 2017 06:13:01 PM
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Comments

釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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