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January 14, 2019
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カテゴリ: 教授の読書日記
ジェラルディン・ブルックスという人の書いた『ケイレブ』という小説を読了したので、ちょいと心覚えをつけておきましょう。

 これ、簡単に言うとですね、アメリカの最古の伝統を誇る名門大学たるハーバード大学(1636年創立)がまだごく小さい学寮だった頃の1665年、その卒業生の中に「ケイレブ」という名の一人のネイティブ・アメリカンが居た、という史実を元にした小説でございます。史実を元にしているけれど、何しろ300年以上前のことですから、そこはそれ、相当部分、想像力をたくましくして物語に仕立てられている。

 で、物語の舞台となるのは、今でいうマサチューセッツ州の沖合に浮かぶ「マーサズ・ヴィニヤード島」。時代は1600年代前半ですから、まだアメリカはイギリスの植民地でありまして、マサチューセッツ植民地ではジョン・ウィンスロップが知事を務めていた頃。なにせウィンスロップはゴリゴリのピューリタンだから、結構、厳しいのよ。

 で、そんな厳し過ぎる統治に嫌気がさしたメイフィールドという男が、本土からちょいと離れた小島に移住し、一応、そこに住んでいる先住民のワンパノアグ族にキリスト教を宣教するって名目で特許状を獲得、で、その男の息子がこれまた熱心な宣教師だったものだから、なかなかキリスト教に帰依してくれない先住民たちに手を焼きながらも、一生懸命、頑張っていると。

 で、その男の娘がベサイアといって、本作の語り手でございます。

 ベサイアは兄貴のメイクピースと違って聡明な娘なんですな。しかし、父親は息子であるメイクピースのことを後継者にしようと思っているから、彼に聖書のことやラテン語などを仕込むんだけど、それを傍で聴いているベサイアの方がよっぽど早く吸収しちゃう。でも、当時のアメリカですから、女は学問なんか要らない、ってことで、正式には教えてもらえない。あくまで、兄貴が勉強を教わっているのを、家事をしながら立ち聞きする体でこっそり学んでいるわけ。

 さて、そんなことをしているうちに、ベサイアの一家には色々不幸が襲います。まずベサイアの弟が事故で死に、ベサイアの母親が産褥で死に、その時に生まれた妹のソレスも事故で死んでしまう。

 それでガックリ来た父親は、もう仕事に専念して悲しみを忘れるしかないってんで、今まで以上に先住民教化に努めちゃう。でまた、折も折、先住民たちの間に天然痘か何かが流行して、みんなバタバタ死んでしまい、その病気を先住民の呪術師が治せなかったことから、先住民の信仰がぐらつくわけ。で、今がチャンスじゃってわけでベサイアの父親は攻勢をかける。

 で、その一環として、先住民の族長の次男にして、有力な呪術師の弟子でもあったケイレブを自宅に留め置いて教育し、ゆくゆくは本土のハーバード大学に送り込み、そこでケイレブをキリスト教の宣教師に育て上げて、この知の先住民の教化を完成させようとするわけ。



 ベサイアが12歳の頃、家から少し離れたところで貝でも拾おうとしていた時、彼女はケイレブに出会い、仲良くなるんですな。で、互いに互いの言葉を教え合ったりする。で、二人はすっかり意気投合していたんですけど、ケイレブが呪術師の弟子として、ある危険な儀式を受けるってんで、しばし離ればなれになってしまうわけ。でも、先に述べた天然痘騒ぎのごたごたで、ケイレブも考えるところがあり、自分たちの部族の神より強いキリスト教の神の何たるかを知ろうと思い始める。それで、ベサイアの家に来ることに同意するわけ。

 で、ベサイアの家で勉強し始めたケイレブは、ベサイアの兄貴をはるかにしのいで、どんどん進歩していくと。

 で、こりゃいいってんで、ベサイアの父も喜んで、この分なら先住民教化が進みそうだ、ついてはイギリス本国からさらなる寄付を集めよう、とか言ってイギリスに向おうとするんですけど、船が沈んで死んでしまう。

 でも、せっかくここまで頑張ってきたのだから、ベサイアの兄貴のメイクピースとケイレブの教育は続けなくちゃならん、でもお金がない、ということで、ベサイアの祖父メイフィールドが一計を案じ、とりあえず本土にあるハーバード大学の受験予備門とでもいうべきコールレット先生の学寮に二人を送り込むことにし、その教育費の代わりに、ベサイアがこの学寮の召使いに出されることになるわけ。

 まあ、要するにベサイアが自分の労働で、兄貴とケイレブの学費を賄うわけですわなあ。

 で、ここでもあれこれあるんですけど、結局、ベサイアの兄貴のメイクピースは、ここでの勉強について行けず、脱落して島に帰り、ケイレブ(とその同郷の友人ジョエル)が残って学問を続けるんですな。で、ケイレブとジョエルは優秀な成績でハーバード大学に入学を許可される。そして二人は大学でも色々人種差別を受けるのですけれども、そこは頭の良さに物を言わせて、二人とも最終的には同級生たちの称賛を勝ち得ながら、卒業の資格を取る(ただし、その段階でジョエルはある事件に巻き込まれ、死んでしまう)。

 で、ケイレブはついにハーバード大学を卒業した先住民第一号になると。

 一方、ベサイアは女の身であるために、そういう学問的な道には踏み込めず、ただハーバード大学の寮の住み込み家政婦としてケイレブを支えることになるのですが、そこでハーバードのフェローだったサミュエル(コールレット先生の息子)と知り合い、彼と結婚することになります。

 ところがケイレブは、予備門や大学での学業に身を入れ過ぎたのが元で結核を患い、卒業して1年も経たないうちに死んじゃうの。

 で、この小説の最後の章は、70歳代になってひ孫に囲まれるまでになったベサイアが、そういう過去を振り返ったところで終ります。


 何コレ?


 ううむ。これ、どういう種類の小説と言えばいいのだろうか?

 なにせ最初のうち、ボーイ・ミーツ・ガールで始まるからね。こりゃ、先住民のケイレブと、白人の娘ベサイアの恋の物語(あるいは悲恋?)、アメリカ植民地版の『嵐が丘』になるのかと思ったら、全然そうならないというね。ま、ケイレブの方はどうか分からないけれども(物語はベサイアの視点で語られるので、ケイレブの本心は判らない)、ベサイアの方にはまったくその気がない。彼のことは親友、あるいは双子の兄妹みたいな感じでしかとらえてない。

 じゃあ、ケイレブがハーバードを出て、そこから活躍するのかと思ったら、すぐ死んでしまう。

 じゃあ、ベサイアが、ケイレブの意を継いで何かことを起こすのかと思ったら、一生、平凡ないい奥さんで終っちゃう。

 じゃ、何なの? っていう・・・。インディアンの若者が、一生懸命、白人向けの勉強をして大学にまで行きました、けど、すぐ死にました、で終っちゃう話じゃないの。



 となると、この小説のどこに意味を見い出せばいいかっていうと、「crossing」というところに目を向ける以外ない。

 この小説、原題は『Caleb's Crossing』というのですが、この「crossing」というのは、境界を突っ切る、という意味ですよね。で、300年以上前のアメリカ植民地のみならず、誰の身にも、人生の中で何度かはこの境界に出くわすだろうと。

 ある人はその境界を突破するかも知れない。ある人は突破できず、その前で引き返す以外ないかも知れない。

 でまた、突破したから良かった、ということになるかも知れないし、ならないかもしれない。突破できなかったから幸せになれませんでした、ということになるかも知れないし、むしろその方が良かった、ということになるかも知れない。

 ま、境界ってそういうもんだよね、と。

 ちなみに、この小説が書かれた2011年って、オバマさんが大統領の時ですよね。それを考えると、この「境界」という概念は少し面白い。

 オバマさんは、人種の境界を越えて大統領になりました。

 その後、ヒラリー・クリントンさんは、性別の境界を越えられず、大統領になれませんでした。

 そのヒラリーに勝ったトランプさんは、今、メキシコとの国境に、物理的な境界をぶっ建てようとしております。

 っていうね。

 ・・・あんまり面白い見立てでもないか・・・。

 ま、とにかく、一体この小説の何に感動すればいいのか、イマイチ分からないまま、終わってしまったのでありましたとさ。

 あ、それはあくまで私の意見であって、世間は大絶賛よ。多分。


 あと一つ、翻訳の問題点について、指摘しておきましょう。

 この小説は、語り手であるベサイアの15歳の時(第1章)、17歳の時(第2章)、70歳の時(第3章)の手記、という体裁で書かれております。だから、当然、女の子(女の人)の一人称の語りで構成されるのね。

 問題は、女の子、ないし女の人が一人称で語る時、どういう言葉遣いをするか、です。

 本作の訳者の方は、この点に関して、「女言葉で語る」というのを選択したんですな。つまり、「○○だわ」とか、「○○なのよね」とか、「○○なんじゃないかしら」とか、そんな感じ。

 私は、これがすごく気になる。すっごい違和感。

 で、ついに私は家内に尋ねました。「自分が日記とか、手記を書くとして、こういう言葉遣い、する?」と。

 家内は言下に答えましたね。「否」と。

 そうでしょう、そうでしょう。

 女の子/女の人は、日記/手記を書く際、女言葉は使わないだろうと私は思うし、家内もそう言っております。

 となると、この小説の奇妙な文体は何なの? っていう話になるわけよ。何なの? 

 というわけで、すっごく気になるのよね。その辺り、変えた方がいいんじゃないかしら。その方がいいと思うわ。



ケイレブ ハーバードのネイティブ・アメリカン [ ジェラルディン・ブルックス ]





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Last updated  January 14, 2019 06:25:43 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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