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January 26, 2019
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カテゴリ: 教授の読書日記
昨日、アルヴァ・アアルト展を見た後に、『ライ麦畑の反逆児』という映画を観に行ったんですわ。

 この映画、サリンジャー生誕100年を記念して作られたのだろうなあと思うのですが、サリンジャー映画数あれど、唯一、サリンジャー本人を主人公にした映画っていう意味で、画期的だったのではないかと。それまでのサリンジャー映画ってのは、「サリンジャーに会いたい」と思っている若者を主人公にした映画ばっかりでしたからね。

 で、そうなりますと、誰がサリンジャーを演じるか、ってのがかなり重要になってくるはず。誰もが、それぞれ頭の中にサリンジャーの映像、サリンジャーのイメージを持っているわけですから、それらの最大公約数でなければならないわけだから。

 で、この映画におけるサリンジャー役のニコラス・ホルトですが・・・

 一見、濱田龍臣っぽけど、まあ、合格じゃね? 

 サリンジャーは背が高いのですけど、ホルトも相当高いので、その点も合格。で、肝心の顔の造作ですが、若い時のサリンジャーの顔に似てはいないけど、似ていなくもないという。まあ、いいところなんじゃないでしょうか。あまり似過ぎた人を連れてきても、逆にそれが目につきすぎてしまうこともありえますからねえ。

 で、物語は史実に忠実に、若き日のサリンジャーがウィット・バーネット教授の下、コロンビア大学の創作コースで頭角を現し始めるところから始まって、いよいよ作品があちこちの雑誌に掲載され出したところで第二次世界大戦勃発。兵隊として派兵され、ヨーロッパの激戦地で生死の狭間をさまようと。

 で、そんな中、気を確かに保つために『ライ麦』の原稿を書き続け、戦後、アメリカに生還するのですが、今度は『ライ麦』の原稿を書こうとすると戦争の忌まわしい思い出が頭をよぎるようになって、書けなくなってしまうんですな。今でいうPTSDという奴。

 それで、過去に書いた短編をまとめた短編集でも出れば気も晴れるかと、かつての師匠、ウィット・バーネット教授も奔走するのですが、あいにく、この試みは失敗し、サリンジャーはこれを教授の押しが足りなかったせいと決めつけ、一方的に縁を切ってしまう。



 で、これが評判を呼んで一躍、サリンジャーは時代の寵児になるのですが、そうなると今度は『ライ麦』の熱狂的なファンに付きまとわれるようになり、それが次第にサリンジャーの精神をむしばんでいくわけ。

 で、結局、そういうのを避けるためには、自分が隠棲して、世間から切り離すしかないと。まあ、「瞑想」という行為自体、雑念から己を切り離す作業なわけで、それを生活のレベルで実行し始めちゃうわけね。

 で、それどころか、ついには自分の妻や子供やなんかからも彼は自分を切り離し始めてしまう。

 そして最終的には、自分の書いたものを出版するという行為も、ある意味、不純だ、という結論に至り、彼は「出版」というものから完全に足を洗ってしまいました。

 とさ。

 っていう話。

 まあ、この映画で注目すべきは、最近のサリンジャー研究の趨勢に従って、戦争のPTSDの影響というものを重視していること。それから、仏教的瞑想への傾倒がサリンジャーを救いもしたし、彼を世間から切り離すことにも影響した、というところに重点が置かれていること。この辺のことを取り入れているところが、ナウいのかなと(死語!)。

 あと、ウィット・バーネット教授との師弟関係も大きく扱われていて、「教師が教え子に追い抜かされる悲劇」を、ドラマの山にしているところも本作のポイントかな。『アリー スター誕生』とかもそうでしょ? あとから来る奴に抜かれるという話。

 ちなみに、本作でウィット・バーネット教授を演じているのは、ケヴィン・スペイシーでして、なんか久しぶりに見かけたなと。例のセクハラ事件で自重していたのかも知れないけど、こんなところで贖罪していたのね。それにしても、スペイシー、ちょっと太り過ぎじゃね? 役作りで太ったというより、自暴自棄的なすさんだ生活で太った、という感じアリアリよ。まあ、そこがバーネット教授役にふさわしいといえばふさわしいのだけれども。

 で、トータルで言いますと、うーん、まあ、サリンジャー映画をサリンジャー目線で作ったらこうなるよね、という意味で、レベルには到達していたかな・・・。とにかく、サリンジャー自身を映画化した初の試みなんだから、一応、ほめてあげましょう。

 ただ、これ、サリンジャーとか『ライ麦』にまったく親しんでいない人が観て面白いかって言ったら、それは分からないけどね。



 が、このおっさんたちと私には一つ、違いがある(多分)。

 私はね、この映画に登場する登場人物の一人と文通したことがあるんだなあ。本作に、ロバート・ジルーという有名な出版人が登場するんだけど、研究上、この人に問い合わせたいことがあって、手紙出したことがあるのよ。

 そしたら、ちょっと感動したんだけど、それこそアッという間に返事が来た。やっぱり偉くなる人ってのは、対応がすごいよね。どこの馬の骨か分からない日本人研究者の問い合わせにも、ちゃんと答えるという。そこは、文学というものへの真摯な向き合い方なんだろうね。

 それはともかく、生誕百年を迎えたサリンジャーのためのサリンジャー映画、なるほどね~と思いながら楽しんでおったのでございます。

これこれ!

ライ麦畑の反逆児





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Last updated  January 26, 2019 02:14:43 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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