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May 19, 2020
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カテゴリ: 教授の読書日記
トム・ウルフ著『クール・クーール  LSD交感テスト』(原題:The Electric Kool-Aid Acid Test, 1967)を読了しましたので、心覚えをつけておきましょう。

 まあ、訳者である飯田隆昭氏の杜撰かつ奇天烈な訳業(日本語タイトルからして変!)、蟻二郎氏の手になる解読不能な解説、さらには誤字・脱字のオンパレードとも相俟って、天下の奇書と言っていいのではないかと思うのですが、ヒッピー・ムーヴメントの西の雄、作家ケン・キージーと、彼の下に集まったいかれた集団「メリー・プランクスターズ」が、蛍光塗料DayGloを塗りたくった中古スクールバス「Further号」(1500ドルでキージーが入手した1939年型インターナショナル・ハーヴェスター)に乗り込み、伝説の奇人ニール・キャサディを運転手として、各地でLSDパーティ「アシッド・テスト」を催しながらニューヨークを目指した大陸往復の旅の記録、およびその前後譚が本書の内容でございます。

 というわけで、全編にわたってLSDでぶっ飛んだ連中のドタバタを記しているだけなので、ハッキリ言って何が何だかよく分かりません。著者のトム・ウルフはニュージャーナリズムの旗手として『ザ・ライト・スタッフ』とか『虚栄の篝火』とかを書いている人ではありますが、本書に関しては彼のノンフィクション手法も、あまり成功しているようには見えません。ま、ドタバタの雰囲気だけは伝わりますが。

ちなみにプランクスターズがニューヨークを目指して旅に出たことには、1931年に書かれたヘルマン・ヘッセの『東方への旅』(これはキージーの愛読書で、プランクスターズたちにとっての必読書でもあったとのこと)の影響もあったようで、ある意味、これは「巡礼の旅」でもあったんですな。しかし、それと同時に、 この大陸横断の旅には映画撮影という具体的な目的もあった。というのも、そのちょっと前、アンディ・ウォーホルが1963年に、6時間にわたって眠っている男をひたすら撮影した映画『Sleep』を発表していて、これに触発されたキージーには、プランクスターズご一行の旅の模様や、アシッド・テストの様子などを延々と撮影して映画にしようという意図があったらしい。実際、それは後に『Magic Trip』という映画になったようですけれども(未見)。

 で、とにかくド派手なバスとド派手なご一行のご乱交で、道々、人々を驚かせ続けた彼らはニューヨークに辿り着き、そこでキージーはニール・キャサディを介してジャック・ケルアックと面会する。

 この場面は、アメリカ文学史的にはちょっと痺れる瞬間ではあるわけですよ。1950年代のビートニク・ムーヴメントを率い、1957年にニール・キャサディを主要登場人物に据えた小説『On the Road』を著したジャック・ケルアックが、そのニール・キャサディを運転手としてはるばる西海岸からやってきたヒッピー・ムーヴメントの新しいスポークスマン、『One Flew Over the Cuckoo's Nest』と『Sometimes A Great Notion』を出してまさに時代の寵児となっていたケン・キージーと会うというのですから。

 しかし、古いスターと新しいスターの歴史的邂逅は、不首尾なものに終わったらしい。それについてトム・ウルフは「ケーシィもケルーアックもたがいにあまり話しを交わさなかった」の一行で済ませていますからね。この辺に、ビートニクとヒッピーの似て非なるというか、同族嫌悪的な側面が垣間見られると言ってもいいのかも知れません。両者の間の10年の時間差は、案外、大きなものなのかも知れない。

 で、それはまた、キージーやプランクスターズのやっていることと、ヒッピー・ムーヴメントの東の雄、ティモシー・リアリーとの違いにも通じるものがあったようで、リアリーはハーバードを首になった後、ニューヨーク州ミルブルックに独自の研究所を作ってLSD研究を続けていたわけですけれども、ニューヨークでリアリーに面会を求めたキージーは、リアリーから拒絶の返事をもらって失望うことになる:



 リアリイは邸宅の二階にいて、三日にわたる重要な実験に従事してい、わずらわすことはできないという言葉が伝えられた。
 ケーシィは怒らなかったが、ひじょうに失望し、傷つけられさえした。信じられないのだーーここがミルブルックだとは。つまり、俗世間的なものがいっぱい便秘したところなのだ。(101頁)


 ティモシー・リアリーの盟友、「ラム・ダス」ことリチャード・アルパートはキージーと面識があり、プランクスターズのアシッド・テストに参加すらしたことがあるようですが、リアリーとキージーはまったく性格が合わないんですな。もっともそのリチャード・アルパートにしても、「リチャード・アルパートもアシッド・テストをよろこばなかった」(238頁)とありますから、ケン・キージーたちとは一線を画していたらしい。
 リアリーにしてもアルパートにしても、東海岸系のLSDユーザーたちは、超インテリであることに起因するのかどうか、もともと秘教的なところがあって、LSDを使うにしても、あたかも何等かの秘儀を行うかのようにそれを使う環境(東洋的な雰囲気を盛り上げるなど)に気を使ったりしていたわけで、キージーたちのアシッド・テストのような、大音量の音楽やストロボ・ライトなどの現代的な機器を使って集団陶酔を導くような方向性とはまるで違っていた。そのあたりの両者の違いについて、本書は次のように記しております:


 彼ら(キージーとバッブス)はバスの上から見おろし、大衆の上に立つ。アメリカの十億もの眼が電気の心のようになって彼らをギラギラ見つめる。プランクスターズはこのワイドスクリーンのアメリカにこころを奪われ、アメリカの国旗をバスからたなびかせ、太陽熱からエネルギーをとるように、アメリカの馬力から、ネオンから、エネルギーをとって、アメリカの流れとともに行くのだ。アメリカの旅に行き止りはない。進め!--そのとおりだ!--リアリイとそのグループについて困ったことは、連中が後退したことだった。むろん、そういうことになったのだ! 連中はあの古臭いニューヨーク的な知性とやらに後退し、アメリカ的な経験から逸脱し、ロマンティックな過去に逆行していった。ニューヨークのインテリーたちは、つねにもう一つの国、精神の父なる国をもとめていた。その国はすべてがベターで、哲学的で、純粋で、道具だてがいらず、シンプルで、血統書つきだ。フランスやイギリスのように、ああフランス人の生き方を見よか。そんな国をもとめていたのだ。リアリイ・グループも同じなのだった。ただ彼らにはーーインドーー東洋がつきまとっているーー白かびがふいているゴータマ・ブッダやリグ・ベーダのむかしのたわごとにいかれ果てている。リアリイはニューヨークの街路にみどりの草が生えるのを願い、人はみな、ブッダ自身が西暦紀元前四百八十五年以来こころをくつろがせることのできた、古風で素朴な棲家、わらくずとペイズリー織の壁かけのなかでくつろげる棲家をもたねばならぬと説くのだ。どうかお願いですから、静かにしてください、こんな道具だてーー録音テープ、ヴィディオ・テープ、TV、映画、ハグストロム社製のエレクトリック・バス、バリアブル・ラグ、星条旗、ネオン、ビュイックエレクトラ、マッドなぶすっつらしたガソリン・スタンドーーなんか願いさげです、気ちがいバス、ダブル・クラッチ、ダブル・クラッチで西部の果てまで疾走するなんておことわりですーー(107頁)


 で、ニューヨークへの旅からサンフランシスコに戻ったキージーとプランクスターズの一行は、さらに南に下ってビッグ・サーにあるエサレン研究所にも立ち寄るのですが、東海岸の連中のお高くとまった気どりというのは、エサレン研究所にもあって、ここでもキージーたちとの差異が目立つ結果となります。そのあたりの記述は以下の通り:


 救済のためなのか? ケーシィは宣言する、ふたたびバスへとーーまた出発だーー南に向かって四時間ドライブする、ビッグ・サーのイサレン協会に行く。イサレンは<生の実験所>といわれ、太平洋にのぞんだ、およそ千フィートの絶壁にある簡易な保養施設の一種だ。(中略)簡単にいえば、イサレンは教養る中産階級の大人が日常性から脱し、すこし尻でもたたいて生活にアクセントでもつけるために夏やってくる場所なのだ。
 イサレンにおけるおもな理論的指導者はフリッツ・パールズというなの形態(ゲシュタルト)心理学者だった。りっぱな山羊ひげをはやした七十代の男で、テリ織りの青いジャンパーを着ている。彼はとても学のある、威厳にみちた、権威ある陰気な武骨者といった風姿をしていた。彼は<NOWトリップ>の父であり、たいていの人間は幻想の生を生きている、というのが彼の理論となっていた。たいていの人間は完全に過去か、未来に期待をよせて生きている、だからこそふつうの恐怖を感じているというのだ。彼はイサレンにいる自分の患者や弟子たちに、変化をもとめるなら「NOW」、「現在」に行き、肉体と感覚がもたらすあらゆるインフォメーションを自覚し、恐怖を捨て去り、瞬間を捉えよ、と教えようとした。
(中略)
 ケーシィは「トリップ・ウィズ・ケーシィ」というタイトルのゼミナールをやるようイサレンに招かれていた。しかし音響電気装置のかもしだす全体的効果は全然誰も信じなかった。イサレンの常連客連中は数週かかって遠くからやってきていた連中で、日常性の極致とやらをのぞき見はじめていたが、<自由の国>ではそれが空恐ろしいのだ。プランクスターズは友好的な態度で接したが、プランクスターズは、暗闇で光るような存在だった。イサレンの常客は静かな温泉で狂人のようにふざけた。ゼミナール形式でさえ、貴重な少数者しかケン・ケーシィとの経験に加わらなかった。(113-4頁)


 要するに、キージーたちのやり方は、東部の連中とも、西部のイサレン研究所とも、全然違っていたと。

本書の原題はここから取られている。ゆえに邦訳タイトルの『クール・クーール』はまったく意味不明) を振る舞って、とにかくその効果を体験してもらう。まさにLSD体験の大衆化ともいうべきイベントであったわけ。

 しかし、やがてLSDが非合法化されると、もちろんこの種のイベントも非合法となるわけで、ケン・キージーもFBIに目を付けられ、名目上はマリファナの不法所持で逮捕されることになる。

 しかし、キージーもさるもの、逮捕劇をたくみにかいくぐって地下に潜り、相変わらずイベントを主催したり、その後、自らの事故死を装ってメキシコに逃亡したりもするのですが、結局アメリカに戻ってきて逮捕され、5か月ほど服役することになる。その服役後、刑務所を出ることになったキージーを、プランクスターズが迎えに行くシーンから本書は始まっていますので、本書は実は終わりから始まるような倒置描法で書かれているんですな。

 だけど、キージーが娑婆に戻ってきた頃には、既にヒッピー・ムーヴメントも終わりかけていた。で、キージー自身も、アシッド・テストからの「卒業」を口にするようになり、その最後のイベント、卒業イベントを計画することになる。



 で、そうした動揺のせいか、計画していた大規模イベントは中止になり、小規模な、彼らのねぐらとも言うべき「倉庫」でのイベントになるのですが、これもあまりぱっとしないまま、線香花火の最後の小さな爆発のように、これを機にキージーをリーダーとするムーヴメントは終わりを告げることになる。そして、その後、プランクスターズも散り散りになり、立役者の一人であったニール・キャサディも、何らかの事故にあったようで、メキシコの鉄道線路わきで死体となって発見されると。

 ま、そんなことがあれこれ書かれた本が、本書『クール・クーール LSD交感テスト』でございます。

 とはいえ、上に述べたのは、本書のほんの一部分でありまして、一番最初に述べたように、本書にはわけのわからない描写が延々と続きます。それを等しい興味をもって読み続けるのは、うーん、プランクスターズ的なメンタリティの持ち主なら分かりませんが、普通の人間にはちょっと苦痛かな・・・。

 でもそんな中で、同じLSD体験を重視するいくつかのグループの間の、かなり大きな違いというか齟齬というか、そういうものが描かれているところが、私としては非常に勉強になったところ。また、例えば『ホール・アース・カタログ』の創始者スチュアート・ブランドとか、グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシア、あるいは後にジェリー・ガルシアの妻になるマウンテン・ガール(本名キャロリン・エリザベス・アダムズ。彼女はケン・キージーと相当深い仲だったらしい)、さらには後に「オルタモントの悲劇」を巻き起こすことになる非合法バイカー集団「ヘルズ・エンジェルズ」など、おなじみの名前が随所に出てくるところなど、面白いといえば面白い。

 ま、そんな感じかな・・・。


 というわけで、私にとっては研究上、読む必要のある本ではありましたが、今が今、これを多くの人におすすめするかというと・・・ちょっと?かも。でも、奇書好きにはたまらない本かも知れませんので、ご紹介はしておきます。


これこれ!
 ↓
『クール・クーール LSD交感テスト』





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Last updated  May 19, 2020 05:06:07 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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