窓辺でお茶を

窓辺でお茶を

September 8, 2007
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カテゴリ: 舞台
 国立劇場小劇場にて「夏祭浪花鑑」を観ました。団七が悪人の舅を殺し、夏祭にまぎれて逃げる場面で終わることが多いように思うのですが、今回はその後まで上演されます。けれんというのか、一瞬で屋根の上のたちまわりに場面が転換します(人形と人形遣いが屋根にのって降りてくる)。

 最初は武家の家来に手傷をおわせて牢にはいっていた団七が牢から出るのを妻と幼い息子、人情家の釣り船屋の三婦が出迎える場面です。「江戸を知らぬものと牢へ入らぬものとは、男の中の男ぢやないと言ふ。」えーっそうなんだ、とちょっとびっくり。慰めと励ましのつもりで言ったのでしょうけれど。
床屋でさっぱりしてあかぬけたデザインの浴衣に着替えた団七。悪役めいて登場するけれど同じ主君の磯之丞を一緒に守ることになった一寸徳兵衛は涼しげな麻の着物。この場の大夫さん、三味線も漉ける生地の唐草模様の肩衣でコーディネートしています。

 けれども、この磯之丞ときたら、芸者琴浦という女がありながら、手代に身をやつしてかくまわれてたら、その道具屋の娘お中とも恋仲になり、詐欺にあってお金を騙し取られたあと、詐欺師のひとりを殺してしまい、心中しようと一緒に家出するのです。なんと団七の舅義平次も侍になりすまして詐欺に加わっていました。
それにしても、文楽歌舞伎に登場するお坊ちゃまは、どうしてこう、まわりが苦労して奮闘しているのに、浅はかでぼんくらでふらふらしているのでしょう。こういうのって日本の伝統なんでしょうか。「据え膳とふぐ汁食わぬは男の恥」なんて言って。
それにひきかえ、磯之丞を落ち延びさせるのに送ってほしいと頼まれた徳兵衛の妻お辰は、若い男と同道するには顔に色気がありすぎると言われ、火鉢の鉄球を自ら顔に押し付けます。歌舞伎ではそんな顔になって徳兵衛に嫌われないかと心配するおつぎ(三婦の妻)に、「うちの人が惚(ほ)れたのは顔じゃござんせん。ここでござんす」と胸をぽんとたたくところが格好いいのですが、文楽ではやりません。

 歌舞伎・文楽は常識や現実にひきあわせて見てしまうと、けっこうびっくりする場面があって話が前後しますが、お中が、迎えに来た詐欺とぐるの番頭、伝八にどうやって死ねばよいのか教えてほしいといい、伝八が枝にしごきを輪にしてかけて首を入れてみせたところを、三婦がうしろから突き飛ばして首を吊らせ、磯之丞が書いた書置きを置いて人を殺した罪を着せてしまおうとします。

 団七は義平次のことをずいぶんと我慢していたのですが、琴浦をだまして売り飛ばそうとしたうえに、みけんに傷をつけられ、人殺しと騒がれてついに殺してしまいます。そのとき履いていた雪駄の片方をひろった徳兵衛は自分が罪を着るつもりでふところに入れて持ち歩いたり、徳兵衛が親殺しで捕まった場合、義平次の娘である妻のお梶と幼い息子が徳兵衛を竹ののこぎりで引かなければならなくなるからと、離縁させようとしたりします。けれども、雪駄が団七のものであることが知れてしまい、徳兵衛は団七を自分が捕らえるといって逃がす、というところで幕です。「義平次に意趣のない者は大阪中にひとりもいない」というのもすごい。

 めりはりがあるストーリーとダイナミックな動きのある演目で、夏の風情もよくて楽しめました。祭囃子を背景に惨劇が行われる場面がなんといっても有名です。





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最終更新日  September 9, 2007 12:07:25 AM
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