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「夢十夜と三四郎って、どこかでつながるんですか?」 というヘビーな質問をされて、 「うーん」 と一晩うなって思いだしました。(思い出すのに時間がかかるのは、なんとかならないんだろうか。)
「そうだ、 吉本隆明「夏目漱石を読む」(ちくま学芸文庫) があるぞ。」 漱石 を相手に、作家論を書いて世に出た人は大勢いるに違いないのですが、ぼくが初めて 漱石 を読むべき作家として意識したのは、実は 漱石の作品 を読んでではありませんでした。いや、 「坊ちゃん」 とか、子供用の 「吾輩は猫である」 とかは読んでいたかもしれませんが、文学として出会ったのはというと、 江藤淳 の 「夏目漱石」(講談社文庫) という評論でした。
「渦巻ける漱石」、「青春物語の漱石」、「不安な漱石」、
「資質をめぐる漱石」
と題した四回の講演を一冊にまとめた本だが、それぞれの題目に 「吾輩は猫である」「夢十夜」「それから」、「坊ちゃん」「虞美人草」「三四郎」、「門」「彼岸過迄」「行人」、「こころ」「道草」「明暗」
が振り分けられていて、 漱石
の一つ一つの作品について、当時、 80
歳
にならんとする 吉本隆明
が、それぞれの作品の眼目と考えるところを、 「一流の文学とは何か」
という問いに答えるかたちで、訥々と語っています。
その説得力には
「一人の批評家が一生かけてたどり着いたものだ」
という実感というか、迫力を自然に感じさせるところがあるとボクは思います。
たとえば、 「三四郎」
と 「夢十夜」
の関係について、 漱石
が文学的に対峙した 「宿命」
に対して直接その中に入って物語った 「夢十夜」
に対して、何とか抵抗し、乗り越えようとした青春物語であるところが 「三四郎」
だという考えを述べているが、とても魅力的な読みの対比だとぼくは思います。
余計な感想かもしれないが、この対比は 「三四郎」
の主人公の小説世界における立ち位置ということを思い出させてくれますね。 「夢十夜」
において、語り手は夢を見る当人として小説の中にいるように感じられるのですが、 小川三四郎
は小説中で起こるあらゆる事件に対して傍観者として存在しているようにぼくには見えるのです。それは青年一般のあり方としてリアルな描き方だとも考えられるのですが、 吉本隆明
が言う 「漱石の宿命」
を考える契機が、そこにあるのでしょうね。
今回読み直してみて、
「漱石の宿命」
と 吉本隆明
が語る、彼が最終的にたどり着いた 漱石
に対する持論、作家自身の資質としてのパラノイアとそれを引き起こした乳児期体験に引き付けた考えが評価の前提になっており、例えば、現場の国語の先生方が、一般的な評価として、直接、引用するというわけにはいかないかもしれません。しかし、ぼくに限って言えば、初読以来、ここで語られている 吉本の漱石評価
の口真似で教員生の顔をしてきたことを思い知らされるわけで、人によるともいえるかもしれません。
開き直るわけではありませんが、ぼく程度の教員が、独創的な読解や解釈を手に入れることなど、ほぼ、あり得ないと思ってきました。ただ、誰かが言っていたことを、いかに上手に伝えられるかというのが、例えば教室で配布する 「読書案内」
の意図だったりしたのですが、さほど上手にやれたわけではありません。今回も 「三四郎と夢十夜」
への答えになっているかどうか、心もとないかぎりですが、まあ、こんな答えはどうでしょうかという案内です。
案内の上手、下手はともかく、一度読んでみてください。あなたを 「漱石の方」
へ連れていってくれるかもしれません。(S)
追記2020・01・31
「三四郎」
と 「門」
についての感想は、このタイトルをクリックしてみてください。それから 「夢十夜」
について授業をしている、 高山宏
さんの
「夢十夜を十夜で」
とかも 「案内」
しています。
最近 「それから」
の 代助
について考え始めています。いずれ 「案内」
したいと思っています。
追記2024・10・12
当方は、 漱石
なんか読んだことのない 二十歳の少女たち
に、高校の教員とかになりたくて、 『こころ』
の授業の練習とかするなら、折角だから、 漱石の作品
をもう少し読んでみることをおススメするのを面白がっている 70歳
を越えてしまった老人です。
彼女たち
は 漱石や鴎外
は勿論、 江藤淳や吉本隆明
といった批評家がいたことすらご存じありません。二十歳の頃に 漱石
にかぶれ、山ほどある 漱石論
をかじっていた頃から 50年たった
ことをしみじみと実感します。
江藤淳
が自ら命を絶って 25年
、 吉本隆明
が亡くなって 10年
、この本がまとめられてからだって 20年
の年月がたってしまいました。
まあ、それでも、読むだけの何かがあるのではないかと、 彼女たち
に、その所在を知らせようとあがいている今日この頃です。
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