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ハードボイルド・ミステリーの名作
の紹介が2作続いて、次にどうしようか。血管が切れたせいか、歳のせいか、いやいや元から、根気も続かない。想いはさだまらずに次から次へとフワフワと飛んで元に戻ってこない。次の本もなかなか決まらない。愉しい惑いの日々でした。
―― 『時の娘』 は歴史ミステリ、ベッド・ディティクティヴの分野における嚆矢的存在として著者の代表作となっており、英米だけでなく、日本のミステリー作家にも影響を与えている。また、 グラント物 の第3作 『フランチャイズ事件』 を レイモンド・チャンドラー は気に入っているという。―― チャンドラー に繋がってるやん!
で、いつもの図書館から借りてきたら、文庫本の表紙が変わっていました。以前はロンドン塔の絵でしたが、 「リチャード三世」
の肖像画になっています。この表紙はいいですね。読むときに必要な小道具です。読み手もこの表情、骨格、まなざしを見てどう感じるか考えながら読めますね。
リチャード三世 は、15世紀イギリスで、 ランカスター家とヨーク家 が戦った 薔薇戦争 の、 ヨーク家 側最後の王となった人物。人気のあった長兄 エドワード四世 の急死後、王位継承権のあった エドワード四世 の 王子二人(リチャード三世の甥) をロンドン塔に幽閉して殺し、 次兄ジョージや義姉 らも殺して王位に就きますがわずか2年で、フランスに頼っていた ランカスター家 の傍系の ヘンリー七世(この後、チューダー朝創立) との戦いで敗死しました。(ここまで歴史) (小説に戻って) グラント が考えたのは、 リチャード三世 の悪い噂で得をするのはだれかということ。それは、彼に代わって権力を手にした人間。さっきの ジョン・モートン は、 リチャード三世 の時は不遇で、 ヘンリー七世 時代には取り立てられ、大司教に出世したのですから、その時の チューダー朝ヘンリー七世 を正当化するために、前の ヨーク朝リチャード三世 のないことないことの悪口を並べ立てたという見立てです。そういう推理で物証もある程度揃えたあたりで、実はすでに リチャード三世善人説 は歴史上唱えられているということを知るはめに。 チューダー朝 のあとの スチュアート朝 ころには、彼に関する事実も明らかになった部分もあることが分ったという展開です。でも、一度世間が受け入れた説は、のちに事実が判明しても、なかなか改まらないということにも触れる展開です。
――1 1952年、探偵小説評論家アンソニー・バウチャーは『時の娘』を年間第一位とし、さらに全探偵小説のベストの一つと激賞した。 と、 江戸川乱歩 もべた褒めです。もうちょっと、 小泉氏のあとがき を載せま す。
2 氏(江戸川乱歩氏のこと、以下同様)もまた、それに同感である。
3 氏は昔から「探偵小説は科学と文学の混血児の如きもので、そこに一般文学と全く異る特徴がある」と唱えてきたが、その「科学」とは最新の理化学上の知識を採り入れるという意味もあるけれども、それよりも「学問的な物の考え方」というところにポイントがある。あらゆる学問を研究する興味は、ことに未知の分野を手に入る限りのデータによって解明して行く面白さは、小説上の探偵の推理の面白さと酷似しているという意味においてである。だから、学問上の論文のような純粋に推理だけの探偵小説があってもよい。
4 そういう意味で『時の娘』は史学上の研究論文と言ってもよい。
5 しかし、最後で、この内容の史実がひっくり返る着想が作者の全くの創意でないことが分ってやや失望するが、この説は一般化していないものなので、決してこの作品の価値をそこなうものではない。『時の娘』は純粋の学問とも相わたる小説である。
―― 『時の娘』の特徴は、形式としては安楽椅子(寝台)探偵、内容としては歴史ミステリ、この二つを結びつけてその二重の制約を作品に課したところにあります。 とまあ、翻訳者の解説口調も面白いです。
―― 歴史ミステリの制約と申しますと、提供されるデータはすべて、史書に記載されているものだけを使う、ということになります。作者の創造した事件を扱う場合とはまったく条件が異るわけです。持ち出してくるデータは万人衆知のものでも隠れた珍説でもかまわないが、とにかく、作者のでっちあげでは困る。先人の遺した記録として世上に通用する資料のみを手がかりとするのですから、条件としては歴史学者が研究する場合と同じです。
それでは史学の研究論文と同じかと言うと、とんでもない。歴史ミステリの生命は、“歴史を見つめるに学者の眼をもってしてではなく、あくまで推理作家の眼をもって眺める”ところにあります。
歴史を歴史学者の眼で眺めるのは歴史学者にまかせておけばいい。推理作家には独自の〝眼“があるはずです。(中略)推理作家のセンスをもって史家の石頭をみごとに笑い飛ばしております。(後略)――
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