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「あら、この本ならあるわよ。」 というわけで、巻末に新しく所収された 永井玲衣 という、若い女性の 哲学者 の 「解説 ためらう詩人」 から読み始めました。 「鳥羽」 という詩の冒頭の引用からのエッセイでした。
「うん、知ってる。けど、若い人が解説を書いているようだから。」
何ひとつ書く事はない とまあ、こういう書き出しで、 「そうか、六十歳か、」 とちょっと詠嘆して、 「概念ねえ」 と、ちょっとためいきをつきましたが、結論はこうでした。
私の肉体は陽にさらされている
私の妻は美しい
私の子供たちは健康だ
谷川俊太郎は「何ひとつ書く事はない」と言って、詩を書く。「本当の事を言おうか」と書いて「私は詩人ではない」と、詩人として言う。
まあ、こんな書き出しです。残りが気になる方は本書を手に取っていただきたいのですが、ボクが面白かったのは
わたしと谷川さんは六十歳年が離れている。それが何を意味するかといえば、谷川さんはわたしたちにとって、生まれたときから「おじいさん」で(これは、わりとどの年代のひとも言っている気がする)、言葉の「達人」であり、国家とか社会とか、そういったものを超越しているような、もはや概念のような存在であるということだ。
「散文」で、何とか言葉をこちらにたぐりよせている谷川さんは、概念ではなく、現実の世界を生きている生身の人間の谷川さんだ。とまどい、矛盾、ためらい、罪深さ、ためらい、恥、居心地の悪さ、それらをごまかさないで、そのまま書いている。「本当の事」を書こうとしている。それはとてつもなく、すごいことだ。谷川さんのもとにぴょんぴょんと駆け寄ってくる言葉たちも魅力的だが、谷川さんがいろんな場所をめぐりながら、汗を流して何とか手を伸ばしてかき集めて言葉たちも、なんだかうれしそうにしている。 まあ、 ボクらの世代 にとって、目の前にあった 「詩」 や 「散文」 こそが 谷川俊太郎 であって、あくまでも
どこまでも言葉に誠実であろうとしたひとりの詩人の文章を受け取ることができる私たちは、このうえなく幸福なのだと言わねばならない。(P317)
「個人的な体験!」 だったわけですから、 「概念」 という言葉にはたじろぎました。若い人たちが、初めて 谷川俊太郎のことば と出会うことがあるのであれば、 「幸福」 とかいう概念でまとめないで、 「みみをすます」 ことから始めてくれたらいいなと思いました。

鳥羽1
谷川俊太郎
何ひとつ書く事はない
私の肉体は陽にさらされている
私の妻は美しい
私の子供たちは健康だ
本当の事を云おうか
詩人のふりはしているが
私は詩人ではない
私は造られそしてここに放置されている
岩の間にほら太陽があんなに落ちて
海はかえって昏い
この白昼の静寂のほかに
君に告げたい事はない
たとえ君がその国で血を流していようと
ああこの不変の眩しさ
追記
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