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この人なら、今の、高校生とか、大学生とかにも、読めるかな? と思いついた先頭バッターが 橋本治 です。
なにがヘンかって?だって、 イラスト とか、 編み物 とかしている 東大出のおニーさん ですからね。まあ、好き好きですから人それぞれでしょうが、たとえば、ボクなんかには、ジャスト・ミートでした。
大きな声じゃ言えないけど、あたし、この頃お酒おいしいなって思うの。黙っててよ、一応ヤバイんだから。夜ソーッと階段下りて自動販売機で買ったりするんだけど、それもあるのかもしれないわネ。家(うち)にだってお酒くらいあるけど、だんだん減ったりしてるのがバレたらヤバイじゃない。それに、ウチのパパは大体洋酒でしょ、あたしアレそんなに好きじゃないのよネ。なんていうのかな、チョッときつくって、そりゃ水割りにすればいいんだろうけどサ、夜中に冷蔵庫の氷ゴソゴソなんてやってらんないわよ、そうでしょ。やっぱり女の喉って、男に比べりゃヤワ出来てんじゃないの、筋肉が違うとかサ。 これが、 「桃尻娘 一年C組三十四番 榊原玲奈」 という、 橋本治 の、一応、デビュー作の書き出しの 第1章 の全文です。
その点日本酒はねえ、いいんだ、トローンとして、官能の極致、なーンちゃって、うっかりすると止められなくなっちゃうワ。どうしよう、アル中なんかになっちゃったら。ウーッ、おぞましい。やだわ、女のアル中なんか。男だったらアル中だってまだ見られるけど、女じゃねえ。今から男にもなれないし、いいけどね。
マ、そんなもんなのよ、高一って。
今日、アレが来た。 まあ、何が来たのか気になる方は、本書をどこかでお探しいただきたいわけですが、なかなか
「ヤルナ!」と思わせる高校1年生の 玲奈ちゃん のお話での始まります。
大学の教授は、「私達に分かるように」と言った。それを聞いた二十一の私は、やっぱり、ひそかに舌なめずりをしてしまった。私の文体的ややこしさは、そこから始まる。私はそこで、「大学教授の理解しうる範囲」を、勝手にシュミレートし始めたのである。だから、私のデビュー作は、「女子高校生の言葉だ」だ。文体がへんであっても、言語の構造が明確で、語られるべき内容があって、「読者に対して説明する」という機能が備わっているのだったら、それは「私達に分かるように」を、満足させているだろうと、私は思ったのである。 大学の教授というのは、彼が在籍していた 東大の国文科 の先生のことですが、東大紛争のさなか、学部に進学してくる学生さんに、論文とか書くときに、ネタは自由だけど、 「私達に分かるように」 とおっしゃったらしくて、学生だった 橋本君 が、それを聞いて 桃尻娘 とか書くわけです。
「女子高生のへんな言葉でも、ちゃんと分かるように書いてあったら分かるだろう」と思ってデビュー作を書いた私は、 というわけ、この作品、50年前の東大の先生には褒められなかったようですね(笑)。
「へんな女子高生の言葉で書かれたものはへんに決まっている」という受け止め方があるとは夢にも思わなかった。
それに気がついてショックだった。「えー、あの時『こっちに分かるように書けばなんでもいい』って言ったのは噓だったの?」と、しばし天を呪った。(P72)
「新しい言葉の世界」 を提示した、ある意味とんでもない傑作が 「桃尻娘」シリーズ だとボクは思いますね。同時代には、 村上春樹 という、もう一人の 「新しい言葉の世界」を描いた人 もいるのですが、二人を並べて批評する話を聞いたことはありませんが、 橋本治 の仕事群のすさまじさをに知らん顔して 村上春樹 は語れないでしょうね(笑)。
今の若い人にでも、面白いのかな? なのですが、今や、新しい 「へんな言葉」 が当たり前なわけで、 桃尻語 なんて古めかしいのかもですね。 思い出の一冊 の 案内 でした(笑)。
追記
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