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2024.03.19
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第1話

西炎(セイエン)山の頂に見える朝雲(チョウウン)殿。
ここは西炎(セイエン)国の王后の寝宮で、西陵纈祖(セイリョウケッソ)は静養しながら前庭で遊んでいる2人の孫を見守っていた。
静かに書を読んでいるのは王孫の瑲玹(ソウゲン)。
片や鳳凰木の鞦韆(ブランコ)で遊んでいるお転婆な娘は外孫の小夭(ショウヨウ)だ。
すると瑲玹は出征した父がいつ帰るのか祖母に尋ねた。
その時、突然、西炎山の空に暗雲が垂れ込める。
西陵纈祖はそれが悲しい知らせだと気づき、衝撃から気を失ってしまう。


瑲玹は父の突然の訃報に呆然と立ちすくんでいたが、墓を閉じる時間になっても王妃・濁山昌僕(ダクザンショウボク)の姿はない。
西炎国王は仕方なく墓を閉じるよう命じたが、瑲玹が止めた。
すると九王子・西炎夷澎(イホウ)が祖父に口答えした甥を叱責する。
その時、ついに真紅の衣をまとった昌僕が現れた。

濁山昌僕は夫が九皇子の裏切りで死んだと暴露した。
西炎夷澎が私怨で軍報を止めたせいで援軍が間に合わず大敗、夫と6000人に上る若水族の兵士が犠牲になってしまう。
しかし国王も夷澎も昌僕が悲しみのあまり錯乱していると取り合わなかった。
思い詰めた昌僕は夫と一族の敵を討たねば顔向けできないと訴え、隠し持っていた短剣でいきなり夷澎を刺し殺してしまう。
「瑲玹、お別れよ…」
すると昌僕は髪に挿していた花を息子に渡した。
「いつか愛する人にこの若木(ジャクボク)花を贈りなさい…父上の所へ行くわ」


小夭の母・西陵珩は王后に育てられた愛弟子で、王姫に封じられて皓翎(コウレイ)王に嫁いだ。
師匠の看病で西炎国に戻っていたが、このまま朝雲峰に留まって玱玹と小夭を育てるという。
「皓翎に戻らないと?」
「私と皓翎王は別れました、もはや皓翎王妃ではありません」
するとついに西陵纈祖は喀血、死期を悟った西陵纈祖は2人の孫を呼んだ。


今後の苦難の道を思うと胸が痛んだが、小夭は自分が必ず従兄を守ってみせると安心させる。
「お前たち2人はお互いを大切にして助け合って生きていくのよ
 ここで誓ってちょうだい、生涯お互いを信じ、その誠意を疑わないと
 そしてお互いを思い合い、決して裏切らない…」
瑲玹と小夭が復唱して誓いを立てると、王后はその言葉を聞いて静かに息を引き取った。

瑲玹は朝雲峰を任されたものの、祖母も両親も失い、裏山で途方に暮れていた。
すると従兄弟たちが現れ、後ろ盾を失った瑲玹は寄ってたかっていじめられてしまう。
しかしそこに小夭が駆けつけた。
「やめなさい!父上に捕らえさせるわよ!」
「何が父上だ!お前の母親は皓翎王と別れたんだぞ?!」
両親が別れたことを知らなかった小夭は激怒、母譲りの武功で従兄弟たちをボコボコにして追い払った。

小夭と瑲玹は鳳凰林で2人だけの約束を交わした。
「女子は大きくなったら嫁ぐ、そうなれば離ればなれになるな…」
「そうだ、私はずっと妹妹でいる」
「じゃあ私は哥哥だ、何があろうと一緒にいよう!」
「私たちは永遠に離れない、約束よ?」
「約束だ!」



そんなある夜、ふいに目を覚ました瑲玹は書卓で泣いている姑姑に気づいた。
実は西陵珩は王姫大将軍として出征するよう命じられたという。
瑲玹の父の戦死後、西炎国は敗北を喫し、辰栄(シンエイ)軍が城下に迫っていた。
「国を守り民を守るのは王姫として当然の務めなの」
西陵珩は必ず戻ると安心させ、濁山昌僕が自害に使った短剣を形見として瑲玹に渡した。
この短剣は皓翎王が瑲玹の両親の成婚祝いに贈ったものだという。
「朝雲峰はあなたたちだけになる、自分と小夭の身は守れるわね?
 小夭は…あの子はあなたと少し″違う″、だからしっかり面倒見てやってね」
翌朝、西陵珩は自分の持つ知識を収納した首飾りを娘に渡し、すぐ戻ると約束した。
小夭は指切りして母を見送ったが、結局、西陵珩も戦死してしまう。

西炎王は小夭を玉(ギョク)山へ送り、王母(オウボ)を師として修行させると決めた。
玉山は世俗を離れ独立した世界、王母も霊力が強く、亡き祖母の友でもあるという。
瑲玹は涙ながらに小夭と離れたくないと叩頭したが、西炎王は小夭の身の安全のためだと言い聞かせた。
「今のお前では小夭を守れぬ、ひざまずいてはこの座にたどり着けぬぞ?!」

小夭との別れの日、瑲玹は必ず小夭を迎えに行くと約束した。
そこで小夭は肌身離さず持っていた九尾狐の尾の飾りを贈り、再会を願って旅立つ。
「できるだけ早く迎えにいくよ」
「分かった、待ってるから」
小夭は瑲玹の前では決して涙を見せなかったが、馬車が出発するとあふれる涙を止められなかった。



そして300年後。
清水(セイスイ)鎮では村人が集まり、石妖(セキヨウ)の霊石に映る幼い王孫と王姫の悲しい物語に耳を傾けていた。

…上古の時代、人間と神と妖が一緒に暮らす世界
皓翎国は最も豊かで国力に富み、辰栄国は肥沃な地にして最も民が多く、西炎国は厳格な法と最強の兵力を誇っていた
この三国は三大神族として天下の勢力を三分していたが、300年前、西炎と辰荣が戦となり、西炎王姫大将軍と辰栄国大将軍・赤宸(セキシン)が血戦、共に相果ててしまう
結局、敗れた辰栄国は西炎国に下り、これを機に三国鼎立の世は二国の対峙へと様変わりした
この時、朝雲殿に残されたのが哀れな2人の遺児
しかし2人も離ればなれになってしまう…

その時、医者の玟⼩六(ビンショウリク)がやって来た。
すると小六は薬を買ってくれる客を待ちながら、講談の続きを聞き始める。

…朝雲峰の西炎王の后には子供が3人、弟子が1人
いずれも文武両道の傑物だったが全て戦場で国に殉じ、残された孫2人も西炎国を追われる運命だった
西炎王の王孫は玉山で修行することになった皓翎国の王姫を見送る
王姫は別れの形見に玉佩を贈り、再会を願って別れたのだった…

「渡したのは玉佩じゃない九尾狐の尾だ…」
講談を聞いていた小六はなぜか王姫が王孫に渡した品が違うと知っていた。



…王姫は玉山で再び王孫に会える日を待ち続けた
しかし王孫は叔父たちの排斥を受け、人質として皓翎国へ送られてしまう
とは言え豊かな皓翎の地は他郷ながら王孫にとって第二の故郷となり、今は二王姫を連れて遊歴しているという…

ちょうどその頃、清水鎮に九尾狐の尾を持った青年・軒(ケン)の馬車が到着した。
一見、平凡に見える清水鎮。
しかし善悪混交の地と呼ばれ、西炎国からも皓翎国からも支配を受けない化外(ケガイ)の地だという。
すると面紗で顔を隠した妹・阿念(アネン)は、何が現れても五神山で飼い慣らしてみせると自信を見せた。

軒は市場にいた娘の額にある花鈿(カデン)を見て慌てて追いかけた。
「失礼、人違いでした…」
ふと気がつけばその娘だけでなく、市場にいる若い娘は皆、額に小夭と同じような花鈿があった。



つづく





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最終更新日  2024.07.28 18:01:03
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