2005年02月19日
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カテゴリ: BALLET
NHK-hiのノイマイヤー特番を見た。
1、椿姫。
椿姫のイリとヘザーのPDD。鳥肌ものだった。
あわててリスカとマルシア・ハイデの椿姫を見直したが、イリ・ヘザー版の方がはるかに良かった。
なぜだろう。
リスカとハイデのは映画なので中途半端なのだね。全編に亘ってダンスのテンションが高い。これはやはり舞台で見たい。
ノイマイヤーの眠りを見て思ったが、常に振り付けがアレグロなのだ。スピーディでこれでもかと踊らせる。
これを映像で見ると単調に感じ眠くなる。
場面転換も早くてほんとスピーディ。舞台魔術。これはユルゲン・ローゼの力なのだろう。


有名な懇願のPDD。
一晩過ごしてアルマンが寝ている間に辞去したマルグリット。アルマンはしょせん遊びだったのかと思い、次の舞踏会で公衆の面前で娼婦扱いして侮辱する。
そしてオペラ版ではヴィオレッタが死ぬ前に和解のシーンがあるのだが、(アシュトン版でもある)ノイマイヤー版ではなく、救いがない。老いて病魔でぼろぼろになっていくマルグリット、それでも美に執着し、真っ赤な頬紅をぬって人々の前に、マノンのバレエに現れる。アルマンを探すが、アルマンはいない。
そして失意にうちに死ぬ。(そのシーンはない)
ほんと救いがない。やはりノイマイヤー、我々を慄然とさせて置き去りにする。

ノイマイヤーがマルシアの顔を見て「椿姫」だと思った、と語っていたが、これはなぜだろう、と私は思っていた。
もう既にこの時マルシアはかなりのお年だ。
ノイマイヤーが作りたかった「椿姫」は、美しい薄っぺらい悲劇ではなく老醜、病気の醜、死への恐怖、それでも生への執着。これだったのだ。
オペラのヴェルディの「椿姫」もアシュトンの「マルグリットとアルマン」も単なる美しいだけの薄っぺらい悲劇であることは間違いない。
ヴェルディの「椿姫」はめちゃくちゃ美しいが、深みがない。ヴェルディはこのあと進化していき、傑作を生み出すわけだが。

特番収録の第1のPDD.

大恥をかかされたアルマン、それでも懲りずに、マルグリットの屋敷に出かける。そこではマルグリットにしつこく言い寄る男がいる。
その男がマルグリットの座るソファに近づくとマルグリットはさっと足を上げて男が座れないようにする。
なんとも残酷な女の仕打ち。
次に近づいていったアルマンにはソファに座らせる。
それでもしつこく言い寄る男をマルグリットは平手打ちしてしまう。

マルグリットは病気のせいもあり、疲れ切っている。
ひとり自室でソファの上で休むマルグリット。アルマンはこらえきれず私室まで押しかけてしまった。
力なく垂れているマルグリットの手を触ると、びくっとマルグリットが跳ね起きる。ついでに咳き込む。
でもアルマンの前では気丈に振舞う。小僧扱いする。
アルマンはそんなマルグリットをそっと抱き上げ、ソファの座り位置をずらして自分の座るスペースを作る。マルグリットの手にキスしようとするが軽くかわされる。アルマンは傷ついて立ち上がる。
マルグリットはとりなすように自分の横のスペースを扇でぽんぽんと叩き、「ここにお座りなさいな」
リスカ版。いきなり緊張してこける。マルグリットは大笑いする。
イリ・ブベニチェク版。さっきのお返しか、大仰にソファの下に倒れる。マルグリットは大笑いする。
マルグリットはこの若者に惹かれている自分に次第に気づかされていく。あまりにも一途で、純粋で、邪険にできない。
マルグリットとアルマンは口づけする。
自分の愛の証よ、とマルグリットは白い椿を彼に贈る。
もちろんマルグリットにそんなことは日常茶飯事、たいしたことではない。しかしアルマンにとっては雲の上の人が降りてきた感覚。マルグリットにもう帰りなさいと促され、辞去するが、マルグリットの部屋の戸口に座り込んでしまう。そしてその花に口づけする。
マルグリットは部屋の鏡を見つめる。
ノイマイヤー作品では鏡が重要なファクター。
鏡は入り口であり出口。(眠り)
自分を映すもの。
マルグリットは自分の容貌が衰えていくことを自覚している。なので刹那的に生きている。この若者と出会ったことが自分にどういう運命をもたらすのかまだ知らない。
マルグリットは運命に抗いたい。楽しく、美しく生きて死にたい。この時はそれしか思っていないのだ。

普通の「椿姫」では盛り上がった二人が田舎に遁走して愛の蜜月を二人っきりで過ごす。
しかしノイマイヤー版は違う。マルグリットはえんえんパリで遊び続ける。毎夜毎夜、男をとっかえひっかえ。
アルマンはしょせんつばめ。家に居候しているつばめ。マルグリットは社交界の女王であり続けた。
田舎のマルグリットの別荘に団体で遊びに行って踊り狂う。
そりゃ、アルマンの父ちゃん、怒りますよね。
そのへんが納得できる展開。

アルマン父のためにアルマンを捨てたマルグリット。
街でほかの女、しかもマルグリットの友達の女性を連れたアルマンに遭遇する。
アルマンは見せつけるように踊る。
その日の夜、マルグリットはアルマンの家を訪れる。
ここが有名なパドドゥ。
椅子に茫然と座り込んでいるアルマン、突然の来訪に驚く。
すぐに立ち去ろうとするマルグリットを引き止める。
憎しみは愛の裏返し。愛すれば愛するほど憎くなる。憎めば憎むほど、堰を切ったときは愛が止まらない。
久しぶりの再会で愛を確かめ合ってしまった二人。
眠り込んだアルマンを見て激しく後悔するマルグリット。黒いショールを忘れてあわてて帰る。
翌朝、何もかも元に戻ったと思ったのは自分の勘違いだったと気づくアルマン、また自嘲にとらわれる。舞踏会での愚行につながっていく。

アルマンと最悪の別れ方をし、しかも病気はどんどん重くなっていく。ひとりぼっちで、過去の美に、栄華に執着する。また「マノン」を見に行けばアルマンに会えるかと、出かけるがアルマンがいるはずもない。
マルグリットははっと気がつくとマノンになっている。
最初のほうのマノン、マノンは馬鹿な女で富や宝石のために自分の体を売っている。その姿はぴったりとマルグリットに重なっていた。
そして今度のマノンは、愛のためにすべてを失い、アメリカの荒野で死にかけているマノンだ。
このマノンもぴったりマルグリットに重なる。あたしを待つ運命はやはりもう死しかない。それを自覚するマルグリット。
マルグリットはせめて真実を知って欲しいと日記を書き、あたしが死んだらアルマン様に渡して、と侍女に託す。
アルマンがその日記を手に立ちすくんでいるところでお話が終わる。

イリとヘザーのPDDがすばらしいのはその時のマルグリットとアルマンの年齢だから。
ヘザーにはマルグリットが乗り移っているようだ。
この二人の全幕の椿姫が見たいものだ。

今回のハンブルクの公演で、ヘザー・ユルゲンセンには驚嘆した。
彼女は女性のダンサーには珍しく、内省的なタイプに見える。
ニジンスキーのときは女優かと思ったくらいロモラそのものだった。
すばらしいダンサーには2タイプあり、役柄に憑依するタイプと、そのひと自身でありつづけるタイプだ。
今回、リアブコやヘザーは完全に憑依タイプ。
後者の例ではバリシニコフ、アンヘル・コレーラ、イリ・ブベニチェク。イリはどこまで行ってもイリなのだ。
しかしヘザーはロモラだったし、リラの精だった。単なるリラの精ではなく、なんかもっと全能の存在、まさに『善』そのものである表現力があった。
リアブコは青い鳥になって最初に出てきた時、顔つきが違った。パッチンとスイッチが切り替わる音が聞こえたような気がしたぐらい。どこにもあのコミカルな式典長はいなかった。ちょっと、ぞ、ぞーっとした。
手をパタパタ上下に何度も動かしていた。ゆっくり。目が人間じゃなくて人間を超えたものになっていた。





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最終更新日  2005年02月20日 21時08分54秒


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