2006年05月27日
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カテゴリ: BALLET
ウィリアム・タケット ストーリー


「プロット・ホールにご用心」




(中略)

タケット自身も認めることだが、1988年にロイヤル・バレエ・スクールを卒業した時、彼は、背がひょろっと高すぎ、青い瞳は鋭すぎ、ちょっときかんぼうの雰囲気で、とても将来、古典バレエの王子様役をやれる資質を備えているとは言いがたかった。それでも他のバレエ団が違う目のつけどころをする暇もなく、彼はサドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエ(現バーミンガム・ロイヤル・バレエ)、そしてロイヤル・バレエという出世コースに入った。彼は悪党役、おばちゃん役、主役の3枚目の友人役といった英国の伝統的なストーリー・バレエには欠かせない役柄を踊るのに理想的な、活き活きとした創造性豊かな知性を備えていて、それが彼の売りだった。18年以上にわたって、タケットは、ほとんどサイコパスのようなティボルトから、「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」のデカパイ・ハチャメチャ・オバタリアンのシモーヌ未亡人に至るまで、自分の役に天才的な役作りをしてきたのだ。

英国のバレエ界にとってはもっと重大なことだが、タケットは、大胆な実験的な興味を持って、自分独自のダンスを作ろうとした。この能力は確立するのに時間がかかった。完全に自分のものと呼べる振付の方法を確立するまでいくつか壮大な失敗作を生んでしまった。「ザ・クルーシブル」の舞台化(*アーサー・ミラーの戯曲「坩堝(るつぼ)」を原作として2000年4月にコヴェントガーデンでプレミア)は、無慈悲にもくそみそに批評され、これは彼を長年苦しめた。苦笑いしながらタケットは言った。「まるで死んだ猫の襟巻きをしてるみたいだったよ。」

タケットにとって非常にありがたいことに、それでもロイヤル・バレエはタケットの潜在能力を信じ続けた。「ロイヤルは僕が不遜な態度でも許してくれた。僕が自分がいったい何をやっているかわからなくて、事故って炎上していても見過ごしてくれた。」ロイヤルは彼に振付の機会を与え続けただけでなく、外部からの仕事の依頼を受ける時間の余裕も与えてくれた。それが映像作品や芝居といった彼にとって初めてで心もとない実験的な作品であってもだ。

しかし、ここ数年の一連の作品でついにその信念は報われたのだ。それらの作品は大胆で、しばしば、タケットのほかに類を見ない経験豊かな創造性に裏打ちされた輝かしいほどのオリジナリティーに満ちた独自の世界だ。タケットは、優美な雰囲気に富んでいる「ねじの回転」、そして「ピノキオ」「ウィンド・イン・ザ・ウィロウズ」の2作のファミリー向きの作品、加えて、ウィットに富んだ大人向けの作品で、ミュージカル作品と融合した舞台化をしたストラヴィンスキーの「兵士の物語」で成功を収めた。これらに続く作品が、最近製作依頼を受けた大変話題の2作品、イングリッシュ・ナショナル・バレエのオスカー・ワイルドの「カンターヴィル・ゴースト」の脚色作品とロイヤル・バレエの2006-07シーズンのクルト・ワイルの「七つの大罪」の新作である。

タケットは「カンターヴィル・ゴースト」の製作依頼は驚きを禁じえないものだったと語る。その当時ENBの監督だったマッツ・スクーグが子どもを連れて「ウィンド・イン・ザ・ウィロウズ」と「ピノキオ」を見に行って、うちのバレエ団にも同じような(ファミリー向けの)レパートリーが欲しいと思ったのがきっかけで、依頼が来たのだ。タケットにとって物語が決まってないで依頼が来るのはあまりないことだったが、彼は45冊もの子供向けの本を読破し、彼の想像力をかきたてる台本を徹底的に探した。オスカー・ワイルドの「カンターヴィル・ゴースト」に行き当たるや、おあつらえ向けの作品だと悟った。「これは子どもにも大人にも楽しめるストーリーだし、筋立てに抜けてる部分があるので、そこにダンス・シーンを盛り込めると思ったのです。」

この教訓的なお話は、オスカー・ワイルドのあまり知られていない作品で、騒々しいアメリカ人一家がイギリスの壮麗な邸宅に越してきて、もともと住みついていた貴族の幽霊達と大騒動を繰り広げるストーリーだ。タケットは、通常だったら、ワイルドの言葉の紡ぎだす絢爛たる世界は、バレエの題材としては不向きであると考えたに違いないと言う。彼をひきつけたのはストーリーが「すごくおかしくて、おもしろくて、浮かれていて「アメリカ人嫌い」なものだったから。」でも、変わり者のタケットが、一番気に入ったのは、ストーリーが「すごくいい加減」なことだった。「娘のヴァージニアが幽霊の国に連れて行かれるシーンがあるのですが、そこで何があったか、ワイルドは書いていないのです。ワイルドは単に細かく書いたりするのがわずらわしかったのでしょう。でもこれは私にとってはすばらしいことです。自分でそのギャップを埋められるからです。古典作品の第2幕にあたる部分を加えました。すなわち、「お化けの舞踏会」です。」

自分でも驚いたことに、タケットは古典的で伝統的な振付ができることを大いに楽しんだ。「私は長いことトウ・シューズやその詰め物から遠ざかっていました。でもいったんやらねばならないとなったら古典バレエの振付に戻るのがとてもすばらしいことだとわかったのです。ほんとに驚くべきことです、自分で新しい振付を作り出さなくてもよいなんて。」そうは言っても「カンターヴィル・ゴースト」は旧来のタイプのバレエではない。ストーリーの一部はマイムで表現するのが難しいとタケットは考えたので、アイルランド人の劇作家、マイケル・ウエストに依頼して、ナレーションを書いてもらった。ナレーションは録音で流される。(「待ちきれないよ」タケットは興奮して語る。「ドクター・フー(**)はホラーにはぴったりのすばらしい声ですからね。」)

これもすぐに再演される作品になりそうではないか? ロンドンのアルメイダ劇場で予定されているクリスマスのショーとか、ROH2でのスティーブン・ソンドハイムの「イントゥー・ザ・ウッズ」の新制作版のように。タケットは演出家としても必要とされている。次のロイヤルとの作品での彼の役目は厳密に言うと振付ではない。「七つの大罪」は、彼の言い方を借りれば、「バレエ・シャンソン」で、もっとも大きな挑戦はステージの上で歌手を演出する方法を見出すことだ。これはケネス・マクミランやジョージ・バランシンといった著名な振付家が失敗してきたことだ。タケットとデザイナーのレズ・ブラザーストンはそのような依頼は断るところだったが、タケットにとって「家族」であるロイヤルとの仕事を無下に断ることはしたくないことだった。

タケットは今でもロイヤルバレエで、長年慈しんできたキャラクター・ロールを選んで踊っている。「この間の夜、カルロス(アコスタ)とマリアネラ(ヌニエス)が主役の「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」でシモーヌ未亡人を演じていました。ブラをつけて座っていて、彼らの最後のシーンのパドドゥを見ていたら、このような素晴らしい人々といっしょの舞台の一部でいられることは、なんて幸せなんだろうと思ったのです。」タケットの顔は特別な愛情と誇りに輝いていた。「これはおいそれとやめられないですね。」
(了)


 * The Crucible choreographed by William Tuckett premiere April 2000 Covent Garden

 **ナレーターのトム・ベイカーは、BBCの番組「ドクター・ フー」の題名役で有名。

The Guardian
"Beware of the plot holes"
Thursday May 25, 2006
ttp://arts.guardian.co.uk/features/story/0,,1782512,00.html
(without top "h")


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最終更新日  2006年05月28日 08時58分01秒


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