濫読屋雑記
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みなさま、暑い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか?更新がずいぶんととびましたが、これは先月の教員採用試験のお勉強と、書道の展覧会の作品作り、そして授業の準備で時間が取れなかったからです。学校司書時代は、横で授業の準備や試験の答案作り、採点に成績入力等々をしている先生を見ていましたが、実際に自分でやってみるとものすご~く大変な仕事だと骨身にしみてわかりました。そんな次第で、本や漫画を読む時間も必然的に限られていたのですが、8月に入りひと段落ついたので、今日簡単に雑誌の読み切り漫画を紹介したいと思います。この作品は、タイトルにあるように講談社の『イブニング』8月13日号に載っていた私の好きな絵描きさん、速水螺旋人さんの「聖女の砲声」という漫画です。 この「聖女の砲声」ですが、舞台はナポレオン戦争下のロシア、1812年という設定です。ナポレオンはロシアに侵攻し、モスクワめがけて突き進む際中、小さな奇跡が起こった、というお話です。ナニガシスキイ修道院(もちろん架空の設定です)は、フランス軍の包囲を受けていましたが、辺境の修道院によくあるように要塞化されていて辛うじてフランス軍の包囲に耐えていました。しかし、分厚い城壁もフランス軍の砲撃でそろそろ危なくなりかけた頃、修道院の中ではロシア正教の修道士が「ああ~、死にませんように。死んでも命がありますように。おそろしい。おそろしい。」と十字を切ってお祈りしていました。そこに、砲弾が着弾した振動でイコン(イエス・キリスト、聖人、天使、聖書における重要出来事やたとえ話、教会史上の出来事を画いた画像(多くは平面)のこと。)が壁から落っこちてしまいます。修道士は「ひぃ、凶兆。」と怯えますが、落ちたイコンから「ぼふん」と煙が上がって出てきたのは、若い女性。で、なんとこの女性が「イリオポリの聖大致命女ワルワラ」だったのです。(大致命者(だいちめいしゃ)とは、致命者のうち、大きく長い苦しみを受けた者に付される、正教会の聖人の称号の一つだそうです。)最初、「ワルワラ」と書いてあるのをみて「?」と思ったのですが、これは正教会読みだそうで、カットリックでは「聖バルバラ」と読むので納得しました。この「ワルワラ」は、3世紀に小アジアで父親の手にかかって拷問を受け、殉教した乙女です。十四救難成人の一人で、発熱や急死から人々を護り、鉱山や火を扱うなど危険な場所で働く人々、建築家や石工、砲手、消防士、鉱夫、囚人の守護聖人だそうです。蛇足ですが、私の持っている『大砲の歴史』という本によると、イタリアおよびスペインでは船や砦の弾薬庫での暴発事故を避けるため、聖女バルバラの像をおき、弾薬庫自体を聖人にちなんで「サンタ・バルバラ」と呼んだ、とあります。フランスでは現在でも、トンネル工事の際に聖バルバラの像を置くそうです。話が横道にそれましたので、戻します。 修道士は、早速「奇跡です。奇跡ですぞ。」と守備隊のロシア兵のところに「ワルワラ」を連れて行きますが、反応は「…は?」です。まぁ当然の反応でしょう。で、大砲を見つけた「ワルワラ」は、「おおー。ええもんがあるやないの♪」と言いますが、ロシア軍の将校、グリーシャ・グリンカ大尉に「素人がいじるな」と止められてしまいます。そこで「ワルワラ」は「ひさしぶりのシャバやしなー。はらぺこや!」と言いますが、大尉は籠城中だと言って「余計な食い物はないの!」といいます。ところが、正規の砲兵が食あたりで倒れ、素人の歩兵が大砲を撃っていたので、グリンカ大尉は「本当に聖ワルワラ様ならこれを撃ってみろよ」といいます。「よっしゃ、よっしゃ!まかしとき!」と答えた「ワルワラ」ですが・・・。一方のフランス軍は、城壁に砲撃で裂け目を作ることに成功。歩兵部隊が着剣して太鼓の音も勇ましく、「前進ン」「皇帝陛下万歳」と攻撃に入ります。そこへ、火薬と砲弾を装填し終わった大砲に跨った「ワルワラ」が「われらの口、なんじが栄誉(ほまれ)をあらわさん」と叫んで「撃てえッ」とぶっぱなします。そしたら砲弾は、歩兵を指揮するフランス軍の少佐の頭を吹き飛ばして、攻撃を頓挫させます。こうなったらロシア軍の態度は180度転換。「聖ワルワラ様にごちそうをお出ししろーッ」ということになります。ところで、この場面の「撃てえッ」のルビが(アミーゴ)となっていたのですが、書店で立ち読みしたとき私「?」と思いました。古い映画になりますが東映の『二百三高地』という映画で、冒頭、日本人の工作員がロシア兵に銃殺されるシーンがあるのですが、その時将校が「アゴーイ」と叫んで銃殺隊が発砲したので、これは誤植では、と思って買って帰って迫水さんのHPをみたらやっぱり誤植で本当は「アゴーニ」というそうです。語尾が少し違いますが、私の耳に前者のように聞こえただけなのか、ロシア語の格変化などの加減なのかわかりませんがとにかく間違えだったという訳です。一方、ロシア軍に大砲の聖女さまがいることにフランス軍もすぐに気づき(伝令を凹って吐かせた)ます。そこで、フランス側のベルトラン砲兵大尉は、「ワルワラ」が美女であることも手伝って、得意の口説きとフランスのワインを使って、「ワルワラ」をフランス軍に寝返りさせることに成功します。そこから両軍の「ワルワラ」への貢物合戦が始まるのですが、そのあとのことは、書店で立ち読みでもして読んでみて下さい。一応この『イブニング』の迫水さんのマンガはシリーズ化して、不定期連載という形をとるそうなので、単行本になるには時間がかかるみたいです。軍事というかミリタリーや歴史に関心のある方は、買ってお家でゆっくりと楽しまれた方が良いと思います。
2013年08月01日
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