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平成28年2月18~28日に国立新美術館1~2階で開催された五美大展(東京五美術大学連合卒業・修了制作展)。 注目した3人の女流日本画家をご紹介しましょう。 (武蔵美油絵の横田晶洋さんについては別途 こちら に書きました。)■ 中嶋彩乃 (女子美・日本画) 「佇む光の行く先は」 港に停泊する船舶、ゆったりとたゆたう波、それらを浮かび上がらせる光の諸相を、絹本の大画面に岩絵具で描いて日本画の正統をしっかり引き継ぐ人としてデビューした。 日本画のいのちである輪郭線が直線も曲線もしっかりしている。色塗りも、筆あとが残っているわけではないけれど筆のちからが伝わってきて、見ていて飽きさせない。 夜景ながら、色が濁っておらず、きれいだ。中嶋彩乃「佇む光の行く先は」 これほどの逸材は、女子美の日本画では10年に1人いるかいないかだろう。腕前は東京藝大級だ。 なまじっか東京藝大の日本画に行くと指導教官に歪んだのがいるから、色が濁った暗い絵を描かされる。間違って女子美に入ってしまったような感じもするが、ご自分の好きなモチーフを追究して天分のままに技を磨けたのは良かった。 中嶋彩乃さんのホームページを見ると、やはり船の絵だ。人物は描かないひとのようだが、これだけの写実力をもってすれば人物をどんなふうに描くだろうかと興味津々。 ご本人にメールを送ったところ、返事が来た:≪「佇む光の行く先は」では、港の風景をベースに日が沈みきる直前の海の青と光のゆらぎの美しさを表現することを大切に制作しました。満足いく作品がまだ多くないことや、小作品などは載せていないためHPの作品数が少ないのですが、こうして作品を見ていただける機会の大切さを胸に、精進したいと思います。この先も絹本の美しさを生かした海や船舶の作品を描き続けていきたいと思っています。≫ 中嶋彩乃作品を見ていると、多摩美日本画 院修了の青木香保里さんにつながる。青木さんもやはりオーソドックスに絹本に岩絵具で、ひたすらに水母(くらげ)の諸相を描く作家だ。 厚塗りの岩絵具で洋画を描いて日本画と称する作家があまりに多い今日、青木香保里さんや中嶋彩乃さんのような正統派の日本画家はじつに貴重である。■ 伊藤友美子 (武蔵野美大・日本画) 「秘密」 少女と木馬、天井から吊るされたおもちゃ。各種の技法をとりまぜて展開し、おもしろい画面をつくった。伊藤友美子「秘密」 目もと、口もと、手の指の表情が気に入った。メリハリのきいた絵が描けるひとだ。拡大してみよう。伊藤友美子「秘密」[部分] 平270417~0516に八丁堀二丁目の画廊「アート★アイガ」で4人展に参加しているようだ。そのとき わたしも伊藤友美子さんの小品を見ているはずだが、さすが五美大展の作品は ぐんとレベルアップした。■ 都筑良恵 (武蔵野美大・日本画) 「ケモノ道」 この「おどろ」の世界にどんなストーリーが息づいているのか、作家の語りを聞きたくなってくる。都筑良恵「ケモノ道」 人物も植物もしっかりと描けるひとだ。 たんに「おどろおどろしい」絵は、世の中に数知れずある。しかし本作は、静寂の次の瞬間に何かとんでもなく大それたことが起こりそうな怖さがある。 光の表現が劇的。一見したところ色数が少なく見えるが、モノクロではなく、多様な闇の色を駆使している。都筑良恵「ケモノ道」[部分] これだけ描ける人なら、小品もストーリー性のある人物画をいろいろ描いてくれそうで楽しみだ。作品を買いたくなる作家である。
Feb 29, 2016
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平成28年2月18日から今日28日まで国立新美術館1~2階で開催の五美大展(東京五美術大学連合卒業・修了制作展)。武蔵野美大の油絵チームに勢いを感じました。 注目した作家・作品をご紹介します。まず本欄では、注目度ナンバーワンのこの作品。■ 横田晶洋(あきひろ) (武蔵美・油絵) 「末法之図」 足をとめて見入っている人が多かった作品。この絵はぼくも買いたい。 現代カリカチュア絵巻とも言うべく、古典的な意味での「漫画」である。コミックスふうの量産マンガとは全く異なるタッチで、画面に次々と出来事を作り出している。 日本の絵巻なら右から見ていくのだが、油絵絵巻は左から見ていくべきなのかな。画面上の役者たちの動きも左から右に向かっているようだ。 横に随分と長い作品なので、左部分から順を追って画像紹介します:横田晶洋「末法之図」[左部分]横田晶洋「末法之図」[中央部分]横田晶洋「末法之図」[右部分] そこここで あるまじきことが起きている。画面全体がひとつの演劇空間として作り込まれ、個々の「事件」に照明を当てて のぞき見させてくれる。見る者は、作家と秘密空間を共有する共犯者となる。 部分を拡大してみましょう。横田晶洋「末法之図」[部分1]横田晶洋「末法之図」[部分2]横田晶洋「末法之図」[部分3]横田晶洋「末法之図」[部分4] 横田晶洋さんは、武蔵野美大・油絵の修士課程を今年3月で修了します。 他の作品をこちらで見ることができる。安定した画力の持ち主です。横田晶洋展 “What's?!” @ アートギャラリー絵の具箱 (平250528~0602)横田晶洋展 “Are you a real friend???” @ アートギャラリー絵の具箱 (平260617~22)横田晶洋展 “Create Soul” @ アートギャラリー絵の具箱 (平270623~28) 今年の個展、ぜひ見に行きたい。ぜひ引続き多くの作品を描いて、アート界にポジションを築いてほしいものです。 横田晶洋さんに注目しているブログがありました。「金田治のスケッチ日記」(平280222)から:≪五美大展は日大、女子美、造形、多摩美、ムサビの都内五美大の卒業作品の展示をする展覧会です。いつもは現実のメディアと教育との乖離を嘆いていたのですが、今年は少し様子が変わってきたように思えます。五美大展の中でムサビ即ち武蔵野美術大学だけに熱気を感じました。他の大学は現在の情報の混乱をそのままに、「現代美術」風という50年ぐらい前のモダンアートを真似て底の浅いアバンギャルドを演じています。モダンアートを生み出したポロックらの 新時代への期待 といった熱気がなければ、反芸術は全てスクラップです。今回の卒業生も4年前は皆 美術大学を目指す学生として共に学んでいたのでしょうが、大学が異なるだけでこれほどに結果が異なるのかと驚くとともに、教育の意義をあらためで感じました。ムサビの教育では主任教授の画家 水上泰財 や 遠藤彰子 の存在を強く感じます。ハッキリとした教育目標が示されれば「末法の図」を描いた横田晶洋のような卒業生も生まれるのだなと感心して会場を後にしました。≫ 卒業生のなかでひとり横田晶洋さんの名のみ挙げておられます。 武蔵美の専任教員をつとめる水上泰財(みずかみ・たいざい)(昭和37年生まれ)さんと遠藤彰子(あきこ)(昭和22年生まれ)に言及があるが、なるほど水上さんや遠藤さんなら若い横田さんを大いに鼓舞することでしょう。 武蔵美にのみ熱気を感じた、と金田治さんは書きます。 たしかに今年の五美大展は、武蔵美だけ突出して良かった。というか、多摩美が壊滅し、日大芸術学部や東京造形大と区別がつかなくなった。これが、ぼくの印象でした。
Feb 28, 2016
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