「何が鳴いてるのかな」 あまりにも気持ちが悪いので、私は思わずそう口にした。
「何のこと?」 と、妻が私に訊ねた。
「お前にも聞こえているだろう。まるで人が笑っているみたいな鳴き声が」
「そうかしら。私にはそうは聞こえないけど」
「もっと耳を澄ましてごらん。絶対、笑い声に聞こえるよ。一体、何の動物なんだろう」
「まあ、うるさいのは確かね。発情期の鳴き声なのかしら。でも、笑い声には聞こえないわよ」 妻もなかなか強情なのだった。
「カワセミが笑い声っぽく鳴くって話は聞いた事があるけど」
「バカねえ。それはワライカワセミの事よ。日本にはいないわ」
妻の美来はたびたび、私の事を見下したような態度をとる。そのへんもあまりカワイくないのだった。
「もしかすると、お化けの笑い声かもしれないぞ」 さりげなく、私は言ってみた。
「お化けですって」 妻が呆れたような顔になった。
「そうさ。この坂にはお化けが出るってウワサがあるんだ。それなら、地獄から舞い戻った幽霊が笑っている可能性だってあるだろう」
妻は鼻でせせら笑った。
「あなたって、つくづく子どもね。お化けなんて本当にいるはずがないじゃない。全く、話にならないわ。そんなもの、世の中のどこにいると言うのよ」
「お前がその幽霊なんだよ!」
私は大声を張り上げて、いきなり妻の首を両手で絞め上げたのだった。
(つづきは 「ルシーの明日とその他の物語」 で)
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タグ: お化け坂
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