小説「アリとギリギリデス」(その3)


 呆れた事だが、彼が部屋の中を見られたくなかった理由はこれだったらしい。しかし、一人暮らしの部屋に男が女の裸の写真を貼ったりしているのは、決して特別な事でもないであろう。むしろ、独身の男なら健全な行動のような気もするのだが、この男、なかなかのウブだったようである。
「あ、あのポスターは、そんなヘンなものじゃないんですよ。ボク、このいずみが好きで、これってアングルが・・・」
 彼は慌てて弁解したのだが、その言葉に逆に私はムッとさせられたのだった。

「帰ります、あたし!」
 勝手に想像が暴走してしまった私は、急いで彼の部屋の玄関から立ち去る事にした。
 私が急に不機嫌になった事は彼にも分かったらしく、私の後ろで彼がオロオロしていたのは私にもよく感じ取れたのだった。    (つづく)

「ルシーの明日とその他の物語」

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