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2016年11月07日

小説「新釈・漁師とおかみさん」(その5)

「やれやれ、やっぱりあなたは頭が足りないわね」
「どうして?私は言われた通りにやってきたよ」
「ヒラメさんは、この程度のお金の支払いぐらいは大した事ないって言ったんでしょう?だったら、なぜもっと吹っ掛けなかったのよ。これまでのマンションの支払いだって任せてしまっても良かったぐらいだわ」
「おいおい。あまり図々しい事を言うものじゃないよ」
「図々しくないわ。あなたはバカ正直すぎるのよ。相手がまだまだお金を出せると言うんだったら、とことん出してもらえばいいのよ。そうだ。こんな狭いマンションなんかで納得したくないわ。ヒラメさんに願いを変更してもらって、自分たちの一軒家を建ててもらいましょうよ。それも立派な豪邸を!このマンションが建っている土地を私たちで買い取っちゃってさ、ここに建てるのはどうかしら」
「おい、お前。無茶は言うもんじゃないよ。そんな事、できるはずが無いだろう」
「物は試しよ。あなた、さっさとヒラメさんのところへ行って、頼んできてちょうだい」
 妻の意見に、男は頭っから反対だったのだが、妻の勢いには相変わらず押されっぱなしで、逆らい切れなかったのだった。
 結局、男は、一時間も経たないうちに、また岸壁へと足を向けていた。男がやって来ると、待ち構えていたように、海面にあの物体が現れた。
「本当に済まない。どうしても、女房が分かってくれないんだ。確認しにきただけだよ。出来ないなら出来ないと、素直に言ってくれたらいいんだよ」 男は、申し訳なさそうに物体へと告げた。
『いいえ、無理ではありませんよ。願いを叶えてあげましょう。しかし、少しだけ時間をいただけませんか』
「ああ、もちろん構わないとも。本当に出来るのかい?済まないねえ」
 男は、物体が言う<時間>とは一月ぐらいの期間だろうと思っていた。土地を買収した上で、そこに新築の家を建てるとなると、当然そのぐらいはかかるはずだったからだ。    (つづく)

「ルシーの明日とその他の物語」

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