すでに、妻が世界統一国家の女王なり皇帝なりになっていた事ははっきり分かっていたが、それでも男は妻の元に戻る事が憂鬱になっていた。あの底無しの欲を持った妻の事だ。世界の頂点に立った現状でも、きっとまだ満足していないに違いあるまい。今度は何になりたいと言い出すのだろうか。太陽系のエンペラーとか、銀河連邦の盟主だとか、とんでもない肩書きが出てくるのではなかろうか。
男は暗い気持ちで、世界統一国家の専制君主の司令塔の中へと入っていった。その最上階で、妻は待っていた。
彼と会った時の妻の態度は思った以上に穏やかだった。
「ねえ、あなた」
「お前、どうだい。今度こそ満足できただろう?もう地球上でおまえ以上に偉い人間は誰もいないんだ」
「そうよね」 と、妻が相づちを打ってくれた。
もしかすると今度こそ妻は身の程を分かってくれたのだろうか。しかし、男のささやかな安堵感は、妻の次の一言でもろく崩れ去ったのだった。
「私、分かったのよ。人間である限りは、どんなに偉くなったって、全てが思いどおりになる訳じゃないわ。今だって、太陽を動かしたり、消したりとかまでは出来ないもの。そう、神様よ!私、神様になればいいんだわ!」
妻のその発言を聞いて、男は激しい衝撃を受けた。そして、なぜか 「神様」の単語から、あの謎の物体の姿が思い浮かんだのであった。 (つづく)
「ルシーの明日とその他の物語」
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