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2016年11月11日

小説「新釈・漁師とおかみさん」(その11)

「お、お前、それだけはいけないよ。神様にだけは、絶対になりたいなんて言ってはいけない」
「どうして?これ以上、納得のいく結論はないわ。神様になれば、あとは私の自由じゃない。あなたもいちいちヒラメさんのところへお願いにいく必要も無くなるのよ。私自身が、自分の望みは全て自分で叶えるわ」
 妻の決心は変わりそうになかった。恐ろしい事になりそうな不安でいっぱいになりながら、男は岸壁へと向かったのだった。
『そろそろ来る頃だと思ってましたよ』
 男が岸壁に着くなり、すました感じで物体は海中から現れた。
『願い事の内容も分かっています。そして、これが私の叶えてあげる最後の願いです』
 話は思った以上にあっさりと進んでいった。
 いつものように男は目をつぶらされ、男が目を開いた時、最悪の状態に陥っていた海は、以前のような美しい青い海にと戻っていた。海だけではなく、辺りの様子も不思議と安穏としていた。
『私の命の恩人さん。おうちにお戻りください。全ては願いどおりになっていますよ』 海面から顔を出した物体は、男の方を見ながら、飄々と言った。
「あ、あの、君」 と、まごついていた男は、何とか、物体に声をかけた。 「一つ、聞きたい事がある。もしかして君は私の妻なんじゃないのか?神様になった妻が、こうして過去に戻ってきて、私を通して妻の願いを叶えていたのではないのかい?」
『さあ、どうでしょうね?』 答えた物体は、何となく笑っているようにも感じ取れた。物体は、そのままポチャンと海中へと沈んでいった。そして、それっきり姿を現わさなかった。
 男は、まるで何もかもがウソであったかのような合点のいかない気持ちで、自分の家の方角へと帰っていった。
 事実、全てが夢か幻であったかのごとく、何もかもが最初の状態に戻っていたのである。彼の豪邸や総統府があったはずの場所には、以前どおりのマンションが建っていた。当然ながら、今の彼はただの小さな水産工場の社員の一人に過ぎず、その住居もマンションの一角だけなのであろう。
 それでは妻はどうなってしまったのだろうか。
 男は、自分のマンションの部屋へと入ってみた。    (つづく)


「ルシーの明日とその他の物語」

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