数学: 基本の復習 (5) ── 普遍元 (universal element)



米田の補題 (The Yoneda Lemma).$\,$ $F : \mathscr{C} \rightarrow \mathbf{Set}$ を関手とし, 写像
\begin{equation*}

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\newcommand{\Tgt}{d^{1,\mathrm{op}}}
\varphi : \Nat{\Hom_{\Ms{C}}(B, -)}{F} \longrightarrow FB
\end{equation*} を任意の自然変換 $\lambda : \Hom_{\Ms{C}}(B, -) \rightarrow F$ に対して
\begin{equation*}
\varphi(\lambda) = \lambda B(\Id{B})
\end{equation*} として定義する. このとき, $\varphi$ は自然な同型である.

なお, 自然同型 $\varphi$ の逆となる自然同型 $\varphi^{-1} : F \rightarrow \Nat{\Hom_{\Ms{C}}(B, -)}{F}$ は任意の $u \in FB$ に対して, 自然変換 $(\varphi^{-1}(u) : \Hom_{\Ms{C}}(B, -) \rightarrow F) \in \Nat{\Hom_{\Ms{C}}(B, -)}{F}$ を
\begin{equation*}
(\varphi^{-1}(u))C(g) = Fg(u) \qquad ((g : B \rightarrow C) \in \Hom_{\Ms{C}}(B, C))
\end{equation*} により与えるものである.

この自然同型 $\varphi$ による対応において, $\Ms{C}$ のある対象 $A$ と, ある自然変換
\begin{equation*}
(\beta : \Hom_{\Ms{C}}(A, -) \longrightarrow F) \in \Nat{\Hom_{\Ms{C}}(A, -)}{F}
\end{equation*} で自然同型になっているものが存在する場合を考える.

つまり, $\beta$ は $\Hom_{\Ms{C}}(A, -)$ から $F$ への自然変換かつ同型射であり, $\Ms{C}$ の任意の射 $f : C \rightarrow C'$ に対して図式
\begin{equation*}
\begin{xy}
\xymatrix@=48pt {
\Hom_{\Ms{C}}(A, C) \ar[d]_{\Hom_{\Ms{C}}(A, f)} \ar[r]^{{\beta C} \\ {\sim}} & FC \ar[d]^{Ff} \\
\Hom_{\Ms{C}}(A, C') \ar[r]^{\large\sim}_{\beta C'} & FC'
}
\end{xy}
\end{equation*} は可換になる.

このとき $FA$ の元
\begin{equation*}
u = \varphi(\beta) = \beta A(\Id{A})
\end{equation*} を $F$ に対する 普遍元 (universal element)と呼ぶ. また $F$ を $A$ によって表現される 表現可能関手 (representable functor)と呼ぶ.

普遍元は次の命題によって特徴付けられる.

命題: 普遍元.$\,$ $F : \Ms{C} \rightarrow \Mb{Set}$ を関手, $A$ を $\Ms{C}$ をの対象, $u \in FA$ とする. $u$ が $F$ に対する普遍元となるための必要十分条件は, 任意の $B \in \Ob{\Ms{C}}$ と $t \in FB$ に対して, 写像 $g : A \rightarrow B$ で
\begin{equation*}
Fg(u) = t
\end{equation*} を満たすものが一意的に存在することである.

普遍元の例を元の本から引用する.

例 1. 1 個の元から生成される自由群.$U : \Mb{Grp} \rightarrow \Mb{Set}$ を群の圏から集合の圏への忘却関手とする. すなわち, 群 $G$ に対して, $UG$ は群の構造を考えない単なる集合としての $G$ であり, 群の準同型 $f : G \rightarrow H$ に対して $Uf : UG \rightarrow UH$ は準同型の構造を考えない単なる集合間の写像としての $f$ である.

$G$ を 1 個の元 $g \in G$ から生成される自由群とする. この仮定より
\begin{equation*}
G = \left\{ g^n \mid n \in \mathbb{Z} \right\}
\end{equation*} と表わすことができる.

任意の群 $H$ に対して
\begin{alignat*}{2}
\beta H : \Hom_{\Mb{Grp}}(G, H) & \qq\longrightarrow\qq & UH \hspace{2mm} \\
(f : G \rightarrow H) \hspace{2mm} & \qq\longmapsto\qq & Uf(g)
\end{alignat*} と定義する. また, 任意の $h \in UH$ に対して
\begin{alignat*}{2}
\gamma H : UH \hspace{1mm} & \qq\longrightarrow\qq & \Hom_{\Mb{Grp}}(G, H) \hspace{2mm} \\
h \hspace{3mm} & \qq\longmapsto\qq & \hspace{2mm} (G \rightarrow H ; g \mapsto h)
\end{alignat*} と定義する. このとき,
\begin{equation*}
\gamma H \circ \beta H(f) = \gamma H(Uf(g)) = \gamma H(f(g)) = (G \rightarrow H ; g \mapsto f(g)) = f
\end{equation*} だから
\begin{equation*}
\gamma H \circ \beta H = \Id{\Hom_{\Mb{Grp}}(G, H)}
\end{equation*} が成り立つ. 逆に
\begin{equation*}
\beta H \circ \gamma H(h) = \beta H(G \rightarrow H ; g \mapsto h) = U(G \rightarrow H ; g \mapsto h)(g) = h
\end{equation*} だから
\begin{equation*}
\beta H \circ \gamma H = \Id{UH}
\end{equation*} が成り立つ. したがって, $\beta H$ と $\gamma H$ は互いに他の逆写像になっていてどちらも全単射である.
$\beta$ が自然変換であることを示すために, 任意の $k : H \rightarrow H'$ に対して図式
\begin{equation*}
\begin{xy}
\xymatrix@=48pt {
\Hom_{\Mb{Grp}}(G, H) \ar[d]_{\Hom_{\Mb{Grp}}(G, k)} \ar[r]^{\beta H} & UH \ar[d]^{Uk} \\
\Hom_{\Mb{Grp}}(G, H') \ar[r]_{\beta H'} & UH'
}
\end{xy}
\end{equation*} を考える. このとき, 任意の群の準同型 $f : G \rightarrow H$ に対して
\begin{align*}
\beta H' \circ \Hom_{\Mb{Grp}}(G, k)(f) &= \beta H'(k \circ f) = U(k \circ f)(g), \\
Uk \circ \beta H(f) &= Uk(Uf(g)) = (Uk \circ Uf)(g) = U(k \circ f)(g)
\end{align*} が成り立つが, これは上の図式が可換であることを意味する. したがって $\beta$ は自然変換であり, 同時に全単射でもあることから自然同型である.
\begin{equation*}
\beta : \Hom_{\Mb{Grp}}(G, -) \stackrel{\sim}{\longrightarrow} U.
\end{equation*}

よって忘却関手 $U$ は自由群 $G$ によって表現され,
\begin{equation*}
u = \beta G(\Id{G}) = U(\Id{G})(g) = g
\end{equation*} が $U$ に対する普遍元である.

これを上記の命題における必要十分条件の記述に合わせて書けば次のようになる.

任意の群 $H$ と任意の $h \in UH$ に対して, $f : G \rightarrow H$ を
\begin{equation*}
f(g) = h
\end{equation*} によって定義される群の準同型とすると, この $f$ は
\begin{equation*}
Uf(u) = Uf(g) = f(g) = h
\end{equation*} を満たす一意的な写像である.

例 2. 冪集合関手に対する普遍元.ある集合にその部分集合の全体からなる集合を対応させる冪集合関手 $\Mb{P} : \Opp{\Mb{Set}} \rightarrow \Mb{Set}$ を考える. ここでは冪集合関手 $\Mb{P}$ を次のように定義する.
$A$ を任意の集合, $f : A \rightarrow B$ を集合 $A$ から集合 $B$ への任意の写像とする (混乱を避けるために, $\Mb{Set}$ の射 $f : A \rightarrow B$ を, $\Mb{P}$ のソースである逆圏 $\Opp{\Mb{Set}}$ の射として明示するときには $\Opp{f} : B \rightarrow A$ のように書くことにする). このとき, 冪集合 $\Mb{P}A$ を
\begin{equation*}
\Mb{P}A = \left\{ A_0 \mid A_0 \subset A \right\},
\end{equation*} 写像 $\Mb{P}f : \Mb{P}B \rightarrow \Mb{P}A$ を
\begin{equation*}
\Mb{P}f(B_0) = f^{-1}(B_0) \subset A \qquad (B_0 \subset B, \,\text{i.e.}\, B_0 \in \Mb{P}B)
\end{equation*} によって定める.
集合 $\Mb{0}$, $\Mb{1}$, $\Mb{2}$ を
\begin{align*}
\Mb{0} &= \varnothing, \\
\Mb{1} &= \left\{ \Mb{0} \right\} = \left\{ \varnothing \right\}, \\
\Mb{2} &= \left\{ \Mb{0}, \Mb{1} \right\} = \left\{ \varnothing, \left\{ \varnothing \right\} \right\} = \Mb{P}(\Mb{1})
\end{align*} により定義すると, 任意の集合 $B$ に対して写像
\begin{alignat*}{2}
\beta B : \Hom_{\Opp{\Mb{Set}}}(\Mb{2}, B) &= \Hom_{\Mb{Set}}(B, \Mb{2}) & \qq\longrightarrow\qq & \Mb{P}B \\
(\Opp{g} : \Mb{2} \rightarrow B) &= (g : B \rightarrow \Mb{2}) & \qq\longmapsto\qq & \left\{ x \in B \mid g(x) = \Mb{1} \right\}
\end{alignat*} は $\Hom_{\Opp{\Mb{Set}}}(\Mb{2}, B)$ から $\Mb{P}B$ への全単射である.
逆写像は各 $B_0 \in \Mb{P}B$ に対して
\begin{equation*}
g(x) = \begin{cases}
\Mb{1} & \qq (x \in B_0), \\
\Mb{0} & \qq (x \not\in B_0)
\end{cases}
\end{equation*} により定まる $g : B \rightarrow \Mb{2}$ を対応させる写像である.
したがって, 冪集合関手 $\Mb{P}$ は集合 $\Mb{2}$ によって表現され,
\begin{equation*}
u = \beta\Mb{2}(\Id{\Mb{2}}) = \left\{ x \in \Mb{2} \mid \Id{\Mb{2}}(x) = \Mb{1} \right\} = \Mb{1}
\end{equation*} が $\Mb{P}$ に対する普遍元である.

これを上記の命題における必要十分条件の記述に合わせて書けば次のようになる.

任意の集合 $B$ と任意の $B_0 \in \Mb{P}B$ に対して, $g : B \rightarrow \Mb{2}$ を
\begin{equation*}
g(x) = \begin{cases}
\Mb{1} & \qq (x \in B_0), \\
\Mb{0} & \qq (x \not\in B_0)
\end{cases}
\end{equation*} と定義すると, この $g$ は
\begin{equation*}
\Mb{P}g(u) = \Mb{P}g(\Mb{1}) = g^{-1}(\Mb{1}) = B_0
\end{equation*} を満たす一意的な写像である.

次の文章では, 自分の理解のために普遍元を特徴付ける上記の命題の証明の概要を与えておく. その後, 極限の定義に進む.
posted by 底彦 at 21:51 | Comment(0) | TrackBack(0) | 数学

2018年09月13日

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