自分なりの内容の見直しも終わったので, 解いた問題について概要をまとめておく.
以下の通り:
問題.
($a$) 圏 $\mathscr{C}$ の $A$ 上の対象からなる圏 ${\mathscr{C}}\,\big/\,{A}$ おいて, 射 $h : f \rightarrow g$ が同型射であるための必要十分条件は, $h$ が $\mathscr{C}$ における同型射で $g \circ h = f$ を満たすことである. これを示せ.
($b$) $\mathscr{C}$ の対象 $A, B, C$ と射 $f : B \rightarrow A$ と $g : C \rightarrow A$ で $B$ と $C$ は $\mathscr{C}$ 内で同型だが, $f$ と $g$ が ${\mathscr{C}}\,\big/\,{A}$ 内で同型でない例を与えよ.
注: ${\mathscr{C}}\,\big/\,{A}$ を $\mathscr{C}$ の $A$ 上のスライス圏と呼ぶ. $f : B \rightarrow A$ と $g : C \rightarrow A$ を ${\mathscr{C}}\,\big/\,{A}$ の対象とするとき, $\mathscr{C}$ の射 $h : B \rightarrow C$ で図式
\[
\begin{xy}
\xymatrix@=48pt {
B \ar[d]_{f} \ar[r]^{h} & C \ar[dl]^{g} \\
A &
}
\end{xy}
\]
を可換図式にするものをスライス圏 ${\mathscr{C}}\,\big/\,{A}$ における $f$ から $g$ への射 $h : f \rightarrow g$ と呼ぶ.
($a$) はスライス圏 ${\mathscr{C}}\,\big/\,{A}$ の射 $h : f \rightarrow g$ が同型射であるということと, 圏 $\mathscr{C}$ における 3 つの射 $f : B \rightarrow A$, $g : C \rightarrow A$, $h : B \rightarrow C$ の関係とを照らし合わせてみることによって解ける.
($b$) は以下のような例を作った.
(i) 集合の圏 $\mathbf{Set}$ を考える. $\mathbb{Z}$ を整数全体の集合とし,
\[
A = B = C = \mathbb{Z}
\]
とおく. 写像 $f : B \rightarrow A$ と $g : C \rightarrow A$ を
\[
\begin{alignat}{2}
f(n) &= 2n & \quad & (n \in B), \\
g(n) &= 2n + 1 & & (n \in C)
\end{alignat}
\]
により定義する.
このとき, $\mathscr{C}$ における任意の同型写像 $h : B \rightarrow C$ に対して $g \circ h \neq f$ となる.
したがって $f$ と $g$ はスライス圏 ${\mathscr{C}}\,\big/\,{A}$ において同型ではない.
(ii) 可換体 $k$ 上のベクトル空間の圏 $k$-$\mathbf{Vect}$ を考える.
$B \in \mathrm{Ob}(k$-$\mathbf{Vect})$ を $k$ 上の任意の有限次元ベクトル空間, $C$ を $B$ の双対ベクトル空間とする. すなわち
ベクトル空間 $B$ と $C$ は互いに他の双対ベクトル空間となっているので $k$-$\mathbf{Vect}$ においてこれらは同型である.
$n = \dim(B) = \dim(C)$ とし $\{\, v_1,..., v_{n} \,\}$ を $B$ の基底, $\{\, v^{*}_1,..., v^{*}_{n} \,\}$ を $\{\, v_1,..., v_{n} \,\}$ に対する $C$ の双対基底とする.
$k$ 上の $2n$ 次元ベクトル空間 $A$ を任意にとり, $\{\, w_1,..., w_{2n} \,\}$ を $A$ の基底とする.
線形写像 $f : B \rightarrow A$ を $f(v_i) = w_i \; (i = 1,..., n)$ により定義し, 線形写像 $g : C \rightarrow A$ を $g(v^{*}_i) = w_{n+i} \; (i = 1,..., n)$ により定義すると, 任意の線形写像 $h : B \rightarrow C$ に対して常に $g \circ h \neq f$ となる. したがって $B$ と $C$ は $k$-$\mathbf{Vect}$ において同型だが, $f : B \rightarrow A$ と $g : C \rightarrow A$ はスライス圏 $k$-$\mathbf{Vect}\,\big/\,{A}$ において同型ではない.
(iii) 群の圏 $\mathbf{Grp}$ を考える.
集合 $B$ を
\[
B = \left\{\, \left(\cos\left(\frac{n}{3} \pi\right),
\sin\left(\frac{n}{3} \pi\right)\right) \,\Big|\,
n \in \mathbb{Z} \,\right\}
\]
と定義する.
各 $i \in \mathbb{Z}$ に対して
\[
a_{i} = \left(\cos\left(\frac{i}{3} \pi\right),
\sin\left(\frac{i}{3} \pi\right)\right)
\quad (i \in \mathbb{Z})
\]
とおき, $B$ 上の 2 項演算 $\cdot$ を
\[
a_{i} \cdot a_{j} = a_{i+j}
= \left(\cos\left(\frac{i+j}{3} \pi\right),
\sin\left(\frac{i+j}{3} \pi\right)\right)
\quad (i, j \in \mathbb{Z})
\]
により定義すると $B$ はこの 2 項演算を積, $a_{0} = (1, 0)$ を単位元として Abel 群になる.
混乱の恐れが無い場合には $\cdot$ を省略して
\[
a \cdot b = a b \quad (a, b \in B)
\]
と書く.
$B$ の定義より, 任意の $i \in \mathbb{Z}$ に対して $a_{i} = a_{i+6}$ が成立するので, 代表元をとることによって群 $B$ は
\[
B = \left\{\,a_{0}, a_{1}, a_{2}, a_{3}, a_{4}, a_{5}\,\right\}
\]
と表わされる.
集合 $C$ を
\[
C = \mathbb{Z} / 6 \mathbb{Z}
\]
により定義する. $C$ には整数環 $\mathbb{Z}$ から導かれる加法が定義される. この加法と単位元 $0 = 0 \bmod 6$ によって $C$ は Abel 群となる. $C$ の定義により, 代表元をとることによって群 $C$ は
\[
C = \left\{\, 0, 1, 2, 3, 4, 5 \,\right\}
\]
と表わされる.
$B$ と $C$ は $\mathbf{Grp}$ において同型である. 同型射としてたとえば射 $h : B \rightarrow C$ を
\[
h(a_{i}) = i \quad (i = 0,..., 5)
\]
と定義すればよい.
集合 $A$ を
\[
A = \mathbb{Z}/12\mathbb{Z}
= \left\{\, 0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11 \,\right\}
\]
により定義する. $A$ には整数環 $\mathbb{Z}$ から導かれる加法が定義されるが, この加法と単位元 $0 = 0 \bmod 12$ によって $A$ は Abel 群になる. これより群の圏 $\mathbf{Grp}$ において, $A$ 上のスライス圏 ${\mathbf{Grp}}\,\big/\,{A}$ を考えることができる.
群の準同型写像 $f : B \rightarrow A$ を
\[
f(a_{i}) = 3 i \bmod 12 \quad (i = 0,..., 5)
\]
と定義する.
また, 群の準同型写像 $g : C \rightarrow A$ を
\[
g(i) = 4 i \bmod 3 \quad (i = 0,..., 5)
\]
と定義する.
このとき, 任意の群の同型写像 $h : B \rightarrow C$ に対して, 常に $g \circ h \neq f$ となる.
同型写像 $h$ の任意性により, $B$ と $C$ は圏 $\mathbf{Grp}$ においては同型だが, ライス圏 ${\mathbf{Grp}}\,\big/\,{A}$ においては $f$ と $g$ は同型ではない.
(iv) 位相空間の圏 $\mathbf{Top}$ を考える.
$\mathbb{R}^2$ 内の半径 1 の単位円周
\[
B = S^1 = \left\{\, (x, y) \,\big|\,
(x, y) \in \mathbb{R}^2, \; x^2 + y^2 = 1 \,\right\}
\]
と, 半径 $\sqrt{2}$ の円周
\[
C = \left\{\, (x, y) \,\big|\,
(x, y) \in \mathbb{R}^2, \; x^2 + y^2 = 2 \,\right\}
\]
に $\mathbb{R}^2$ から導かれる位相を入れる. このとき, $B$ と $C$ は $\mathbf{Top}$ において同型である. 同型射となる同相写像として, たとえば $h : B \rightarrow C$ を
\[
h(x, y) = \left(\!\sqrt{2}\,x, \sqrt{2}\,y\right) \quad
((x, y) \in B)
\]
と定義すればよい.
$A = [-1, 1]$ とおき, $A$ に $\mathbb{R}^1$ から導かれる位相を入れることによって $A$ は $\mathbf{Top}$ の対象となる.
写像 $f : B \rightarrow A$ と $g : C \rightarrow A$ を
\begin{alignat*}{2}
f(x, y) &= x & \qquad & ((x, y) \in B), \\
g(x, y) &= \frac{1}{2} (x^2 - y^2) & ~ & ((x, y) \in C)
\end{alignat*}
と定義する. 定義より $f$, $g$ は共に連続写像, つまり $\mathbf{Top}$ における射である.
このとき, $h : B \rightarrow C$ で $g \circ h = f$ を満たす任意の連続写像に対して, $f$, $g$ の定義から $h$ が常に全射ではない連続写像であることが導かれる. よって $g \circ h = f$ を満たすような同型写像 $h : B \rightarrow C$ は存在しない.
以上より, 位相空間の圏 $\mathbf{Top}$ において $B$ と $C$ は同型であるが, $g \circ h = f$ を満たす同型射 $h$ が存在しないことからスライス圏 ${\mathbf{Top}}\,\big/\,{A}$ においては $f$ と $g$ は同型ではない.
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