ニュートン別冊 ゼロからわかる心理学 知れば知るほど面白い!心と行動の科学 から
監修 横田正夫 2019年3月5日発行 ニュートンプレス
なぜ、こんなに悩んでしまうのだろう
どうしていつも、こんな振る舞いをしてしまうのだろう
私たちの何気ない行動や判断には、心が大きく関わっています。
目には見えない心の働きを研究する学問が『心理学』です。
目に見える「行動」から、目に見えない「心」を探る
心は見ることも触ることもできないため、仕組みを理解することが難しいものです。
古代より、哲学や医学の分野で、
心の探求は行われてきました。
古代ギリシアやローマでは、人の体は4種類の体液で構成されており、
その体液の割合によって人の生まれつきの気質も4パターンになる
と考えられていました。
ただし、これらの理論は、哲学者や医者個人の経験や思考によって生み出されたものです。
(血液型の4パターンの分類もこれに由来するとする人もいます)
一方、心理学は、科学的な方法を使って心の仕組みを捉えようとします。
心そのものは測定することができないため、
目に見える形で現れる「行動」を観察・測定し、
その行動を生み出した背景にある心の仕組みを推測するのです。
心とは何であるかを
一言で説明することはできません。
そこで、心理学では、心を幾つかの要素に分けて考えます。
心を構成する要素には、
知覚、記憶、学習、思考、感情などがあります。
心の仕組みを解明するためには、
それぞれの要素が現れる行動を観察・測定し、
要素ごとに性質を明らかにしていきます。
例えば、数字の配列を覚えさせ、
覚えている数字を回答させるような実験を行うことで、
人は数字の配列を7つ程度までしか覚えられないという
記憶の性質がわかっています(前頭前野、ワーキングメモリー)。
行動の観察・測定は実験室のような場に限りません。
臨床の場においても、
心理カウンセラーが、
クライアント(患者)の話を聞いたり、
カウンセラーへの態度を観察したりすることで、
クライアントの性格や考え方の偏りを
推測しながら、治療を進めていきます。
このように、観察や測定で得られたデータを元に
仮説と検証を行い、
統計の技術を使って
人々に共通する性質や傾向を明らかにしたり、
個人個人の性格を理解したりすることが、心理学だと言えます。
世の中に「心理学」と名のつくものは数多く見られますが、
主要な研究分野としては、
次のようなものがあります。
「実験心理学」は、実験を通じて心を構成する要素の性質を明らかにしていきます。
「性格心理学」は、個人の性格(パーソナリティ)の成り立ちやパターンの理解を深めます。
「社会心理学」は、集団の中での人の振る舞いや考え方の癖などを明らかにしていきます。
「発達心理学」では、年齢ごとの心や性格の発達・変化についての理解を深めます。
「臨床心理学」では、心の病や社会への不適応の悩みを解決するために、
研究で得られた知見を用いながら、治療技法を生み出していきます。
他にも、「犯罪心理学」や「産業心理学」など、
特定の状況における人の心を探求する分野や、
「神経心理学」や「生理心理学」など、
体や脳の機能と心の仕組みの関係を調べる分野があります。
こうした分野でえらえた知見は、
一般の人が自分の性格を理解しようとするときや、
心の病を持つ人の治療に役立つだけでなく、
学校でのカウンセリングや
被災者のストレスケアなど、
社会の多くの場面で役立っています。