令和4年度概算要求書が登場する時期となり、合わせていろんな開発品も登場してきました。
そんな中で、EMP弾構成システムの研究が所要部品の調達が不可能となり研究中止となりました。
供給停止部品の発生による、装備品の部品供給に影響を及ぼすことは今後も多々あるでしょう。
本気でサプライチェーンの整備が、必要な時期になってきているかもしれません。
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(1)悲報!EMP弾開発中止
平成30年度から防衛装備庁で研究開発が行われていた、EMP弾構成システムについて研究中止となったことが分かりました。
必要部品の供給停止により入手不可能となったためです。
1.1 EMP弾構成システム研究って何?
平成30年度から研究が始まったもので、EMP効果を発生させることにより直接的な破壊によらず敵システムの機能破壊を狙うものです。
図1 EMP弾要素
引用URL:https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11591426/www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/29/pdf/jizen_06_sankou.pdf
開発に成功すれば、電磁波領域の戦いにおいて優位に立つことのできるゲームチェンジャーとなるはずでした。
核兵器に頼らない、EMP弾の開発は各国がしのぎを削っています。
図2 防衛省EMP研究
引用URL:https://www.mod.go.jp/atla/img/rikusouken/img2019_rikusouken01.png
基礎研究を踏まえて、装備化に向けて開発研究へと進んでいました。
1.2 何が発生したか?
今回発生したのは、平成30年度から始まっていたEMP弾構成システムの研究試作(その1)において、試作品に必要不可欠な部品が入手不能となったためです。
官側と 契約受注会社(プライムメーカー)ともに、必要部品は汎用品(カタログ品)であると認識していたのですが、 部品供給会社(サプライメーカー)から 「供給できない」 との回答となってしまったのが原因です。
Vircator:Virtual Cathode Oscillator (仮想陰極発振器) と呼ばれる、パルス発振発生装置を使う予定だったようです。
図3 仮想陰極発振器原理
引用URL:http://www.kobe-kosen.ac.jp/activity/publication/kiyou/Kiyou12/Data/Vol51Letter179-182.pdf
装置そのものは、電力パルス研究でも使われているものでありそれほど目新しくないものです。
しかしながら、どこかで齟齬(そご)が出てしまったのでしょう。
見積もり段階では供給できるとなっていたところが、発注の段階で供給拒となってしまったようです。
その結果、研究試作(その2)では入札に応募する会社が現れず契約不成立となり令和2年に研究試作(その1)も契約解除願いが出されて研究中止となってしまいました。
1.3 別計画での研究が始まった模様
EMP弾については、今後のクロスドメインオペレーションに必要な装備であることから別計画にて研究の再開を目指していることが判明しています。
しかしながら、今回の部品入手困難による研究中止や現有装備品の部品供給停止問題はもっと問題になってもよいかもしれません。
現状の防衛関連産業について、官側の大幅な意識改革がなければさらに頻発するでしょう。
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感想(1件)
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(2)防衛関連事業が儲からない状況を何とかすべき!
私ペンギンも、技術整備部門にて企業と交渉したり商談の中で、いろいろな内情を雑談で話す機会がありました。
官(防衛省側)が大幅に意識改革をしないと、企業がどんどんと防衛関連事業から撤退してしまうと感じていました。
2.1 防需の旨味は金払いの良さだけ!
企業との商談の中で印象的だった発言は、
「防衛関連事業は旧海軍からの付き合いがあったから続けているだけ」
「現在では防衛関連事業を続けることに対して、株主への説明が苦しくなっている」
「防需を行う利点は、すぐに支払いをしてくれるということだけになってる」
かなりキツイ発言ですが、企業にとって防衛関連事業は儲からないものとなってしまっています。
多数の書類作成や、監督検査・急な仕様変更など企業側に負担を強いているものが結構あります。
図4 監督検査
引用URL:https://www.mod.go.jp/rdb/tokai/toukaibouei/soubihin/image3.jpg
2.2 長い運用期間と製造中止部品対策
防衛省装備品は、長い運用期間により部品の製造中止が発生したりします。
契約企業は、長い間保守点検や製造中止部品対策を行う必要に迫られます。
図5 あさぎり型護衛艦
引用wiki
海自だとようやく「はつゆき型」護衛艦がほぼ退役しましたが、あさぎり型護衛艦についてはまだ退役の見込みが立っていません。
何回も製造中止部品の発生による、ECP(技術変更提案書)での部品交換工事を行った苦労が絶えない護衛艦でした。
企業も製造中止部品により、何度も振り回されることになります。
それなのに各種修理費などが抑えられ、企業側に負担がかかってきます。
2.3 サプライチェーンに無関心すぎた防衛省
防衛省の問題の本質は、サプライチェーンに対する無関心ではないかと思っています。
図6 サプライチェーン
引用URL:https://frontier-eyes.online/wp-content/uploads/2020/02/サプライチェーン.png
「防衛という国家事業だから企業は協力するだろう」
という思い込みを防衛省側がいまだに持っていることが問題だと考えます。
企業との商談を通して感じたのは、
・「むしろマイナスのイメージを他の顧客に持たれてしまう。」
・「防衛産業に関わりたくない企業の方が多い」
ということです。
私が補給処で企業と接したとき、
『買収で会社方針が変わり、自衛隊との取引はやらないことになった』
という部品供給会社がありました。
企業方針を捻じ曲げて供給してもらえるわけではないため、装備品製造会社が購入して部品供給を続けるということもありました。
サプライチェーンへの防衛省側の認識をきちんとすべき時期だと考えます。
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(3)ダブルGCIP排除なんて考えは捨てるべき!
防衛費の高騰について、財務省から高コストとなる要因としてダブルGCIPを排除しろ!なんていわれ続けています。
しかしながら、防衛省(防衛装備庁)にサプライチェーンの関心がないのであれば認めるべきでしょう。
3.1 ダブルGCIPについて
GCIPについては、製造原価に企業の一般管理・販売費・利子率・利益率を載せたものです。
1社のみで装備品製造するのであれば問題なのでしょうが、装備品は多くの会社が関わります。
図7 ダブルGCIP
引用URL:https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia291031/03.pdf
航空機・艦船など大物になれば、各社のGCIPに加えて主契約者のGCIPもかかってきます。
税金の有効活用という面では、ダブルGCIP排除という考えは正しいかもしれません。
しかし、製造という観点から考えるとダブルGCIPを計上してでもプライムメーカーとの協力態勢を取るべきでしょう。
3.2 ボーイング787という失敗を見るべき!
ボーイング787という革命的に見えた航空機プロジェクトを失敗の見本として考えるべきでしょう。
図8 ボーイング787
引用URL:https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/a/apokaru/20160505/20160505100442.jpg
コスト削減のため部品供給メーカーを並列に活用して、ボーイング本社の管理費削減を狙いました。
結果的には、開発期間の延長に次ぐ延長・目標費用の大幅な超過を招いてしまう結果となりました。
小手先の費用削減を狙うと、かえって計画の大幅な費用増大を招く結果となりました。
今回のEMP弾構成要素研究など、今後の装備品開発製造において部品供給リスクを甘く見るべきではないでしょう。
部品供給停止対策など、普段からの企業との付き合い方を考える時期に来ているといえます。
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韓国の消磁作業実施と施設が完成していたんだ!と結構驚きの情報をいただきありがとうございます。
潜水艦の消磁方法「フラッシング」まで可能になったのであれば、一応の能力を兼ねそなえたということですね。
消磁というマイナーな分野なのでなかなか情報が出てこないので、見逃していました。
(米軍との共同使用なのか気になるとことです:横須賀消磁所は米軍との共同使用施設に指定されてるけど、米軍消磁データは見せてもらえないのよね〜)
しかし彼方の国の人も本ブログを見ていたとは驚きです。
貴重な情報をありがとうございました。
ただ前回の記事に関してはネットの方で彼方のマニアの方からちゃんと設備作ってるわ!的な指摘もあったようなので一応
ttps://togetter.com/li/1391440
ttps://twitter.com/zpdldlfrkwl/status/1158387977044631552?s=19
……10年代以降にやっとこさ設備が完成した、と考えると突っ込みどころしかないのも確かなのですがね
K国のSLBMについては、新しい記事を上げてみました。
水中からのミサイル発射技術を含めて、ロシア式のAPCC(緩衝ロケット発射システム)の技術を丸ごと導入しているのではないかと考えています。
元々のノーズフェアリング強度が水中発射(水深15m〜20m)の水圧に耐えられないのかもしれません。
海自の場合だと、K国の用意は「対象国」の考慮には入れていますが正面装備よりも、特殊部隊潜入やゲリラ扇動が主攻撃となり海自の出番はあまりないと考えていた部分があります。
(近距離なのでいざというとき相手港湾に機雷敷設で対処できるという考えがありました。)
SLBM搭載潜水艦が出てきたことから、今後は潜水艦狩りや巡航ミサイル対処に力を入れることになるかもしれません。
やはり昔から、ソフトウェアの更新や保守管理についてはどこも苦労しているんですね。
適切に保守と更新を行う体制と予算付けについては重要な部分ですが、なかなか理解されにくいのがもどかしいです。
なおkeenedge1999先生は、いろいろなことがありました。
(この記事コメントを参照):
> https://fanblogs.jp/sstd7628/archive/251/0
あまり大々的に拡散すると、また「OHANASI」となってしまい、本当にkeenedge1999先生の貴重な経験や技術情報が聞けなくなってしまうので、先生の安全を確保するため「適切な節度」をもって対応することをお願いします。
昔陸で運用していたOS/2のコンピュータも民に予算が回せなくなり廃止だったり、最近では某所は通信の更新しようとしたら内部でなぜかIEのごにょごにょ…
更新すべき時期に更新できる体制と、必要な時に部品供給してもらう体制は、ハードもソフトも結局はお金ということですね。
「ミサイルには血と汗と涙が詰まっている」
装備品開発の苦労がよく分かる言葉ですね。
装備品開発には、いきなりなんでも開発できるわけじゃなく人を育てる部分も多くあります。
そんな人育てもコストカットの波にのまれてかえりみられていないですね〜。
本当に必要なところに金をかけてほしいものです。
立川は一応は昔よりは隊員食堂の質が良くはなってきているようです。
陸自業務隊ももっと頑張ってほしいものです。
以前聞いた民側の言葉ですが、コスト抑制を聞くたびに思い出します。
部品枯渇も重要ですが、ヒトの枯渇も問題なように感じます。
ASM経験者とその部下の方が現役の頃は、試験に高揚感があり民も出血覚悟で参加、年度末3月60日納期で帳尻を合わせていました。
仕様書の行間に含まれる様々なコト、契約手続・各種申請・受検・試験などは属人性が極めて高いです。
結局、アイテムが異なっても、現場で手を動かすのは結局同じヒトでしたが、それもそろそろ限界です。
ヒトとそれを支えるコトに対してカネを認めてほしいです。
ますは立川の食堂はおいしいメニューを増やしてヒトを支えてくださいw
>部品供給に関するこの手の問題ってやっぱり日本だけのものなのかな。
米国でも、結構製中止部品で悩むことは結構あるようです。
海軍での話だと、部品単位であまり全世界まで波及しないものはFISC(海軍補給センター)で代替品を製造する会社と契約、換装をするそうです。
大物で契約額も大きいと、DLA(アメリカ国防兵站局)で対応するそうです。
やはり「あのシステム」を搭載していくのは理に適っているのですね〜。
頭を悩ませていた問題を、将来的な整備まで考慮された革新的システムとしてもっと取り上げられてもいいかもしれませんね。
ここまで考えて実行している「あの計画」は本当にすごいと思います・・・・
私は「アレはサブシスじゃないよ。実態は統合整備計画」と言ってます・・・・
一時期もてはやされたCOTS品についても、ハード面の話ばかりが先行して、カスタム品と作動させるソフトウェア(ファームウェア)についてほんとに顧みられないところがありますね。
日本で内製すればいいだろ!なんて簡単に言ってくる人もいますが、専門部品のソフトウェアだけはどうにもならないところがあります。
国内に維持基盤がない部品をどう確保していくかが、今後の課題でしょう。
最新のP-1でも某社がカスタムボードの供給を止めてしまいましたね。もっとやっかいなのはカスタムのソフトウェアです。ハードが古くて更新したいのにソフトウェアの関係で更新できないことも多々あります。カスタム品(特に国内で作れないもの)は維持が大変だと思います。