2021年12月19日
死者最多も〔批判なし〕吉村知事を支える大阪メディアの異常
死者最多も〔批判なし〕
吉村知事を支える 大阪メディアの異常
元神戸新聞記者のフリー記者 松本創 2021/07/01 06:00
ウガイ薬の効能を力説する吉村知事 写真 共同通信 12-18-13
関西圏の昼のワイドショー 吉村洋文大阪府知事(46)がカメラに向かって、現在の大阪の感染状況や今後の見通しを語る。大阪のコロナ対策の総責任者で在る吉村知事だが、淡々としたその語り口からは、何処か当事者意識が希薄の様にも見える。
その様子を聞きながら、時々茶々を入れるのが吉本芸人を中心とした番組〔コメンテーター〕達。勿論批判的な質問等は殆ど無く、冒頭の様な声で称える事さえも・・・コレはコロナ禍でお馴染みに為った関西のテレビの現状だ。
「吉村知事と在阪メディアの蜜月振りは兎に角異様です。昨年3月に『大阪と兵庫県の往来を自粛して欲しい』と吉村知事が突然発表した当たりから、吉村知事のテレビ露出が特に増えました。大阪府のホームページに掲載されて居る〈知事の日程〉欄には、吉村知事のメディア出演予定が幾つも並んでいます」
そう話すのは、元神戸新聞記者で大阪維新とメディアの関係に詳しい ノンフィクションライターの松本創さん。 本誌が調べてみると、2020年4月から2021年5月迄の14カ月間で、吉村知事のテレビ出演は143回 多くは地元関西の情報番組だ。
コロナ対応で多忙な時期に週2回は出演して居たのだ。 吉村知事がテレビ出演で忙しくして居る裏で、地獄を見て居たのは、他為らぬ大阪府民だ。
都道府県別の累計死者数は全国最多の2,668人(6月29日時点)12-18-15
■医療崩壊・・・ 「入院した時には母は手遅れで」
都道府県別の累計死者数は 全国最多の2,668人 (6月29日時点) 特に今年3月からの〔第4波〕では医療が崩壊。自宅待機者が1万5千人と為り在宅で亡く為る人が相次いだ。当時の様子を、大阪府堺市に住む50代女性はこう振り返る。
「4月下旬、80代の母と共にコロナに感染しました。入院出来ず、感染した私が在宅で看病しないといけ無い状態が2日続きました。母が入院出来た時は、咳が止まらず話せ無い様な状態で……私も高熱が出て、一緒に病院に行ったのですが、解熱剤だけ渡されて帰されました。
肺へのダメージが大きく、母は暫くして肺炎で亡く為りました。私も症状が悪化して入院。結局、母の死に目に会う事も火葬に立ち会う事も出来無かったんです」
彼女は、前回の府知事選では吉村氏に投票した〔ゆるい維新支持者〕だったが、今はワイドショーに出演する吉村知事を見る度に怒りがこみ上げると云う。
「母が亡く為ったのと同時期に感染した維新の議員さん(中谷恭典府議会議員)は直ぐに入院して居たんですよね。ソモソモ、この1年、大きな事言って居ただけで、何の成果も無いじゃないですか」
前出の松本さんも 「吉村知事の1年半に渉るコロナ対策は、パフォーマンス先行と言われても仕方無いものだった」 と指摘する。
「感染者数が一時的に減った昨夏には、松井一郎市長と一緒に道頓堀の飲食店に出向き〈ドンドン大阪に来てください!〉と吉村さん自ら〔食のまち・大阪〕再始動のパフォーマンスをしました。ウガイ薬で『コロナに打ち勝てる』と言い出したり、年内に〔大阪ワクチン〕の実用化を宣言したり・・・何れも信憑性や実現性に乏しい発言でした」
知事が頻繁に情報番組に出演する伝統を作ったとされる橋下氏 12-18-16
■〔バラエティー〕のノリで知事を出演させる
昨年11月には〔都構想〕の是非を問う住民投票を強行。感染が広がる中、このタイミングで行う事に疑問の声が出た。
「一方で、吉村知事は感染者数が増加すると医療機関に対し『ベッド数を増やせ。増やさない病院は名前を公表する』と、脅しの様な事を言い始めました。結果的に名前の公表には至りませんでしたが、或る民間病院の院長は『場当たり的な対応を繰り返して、最後は医療機関にだけ負担を押し着ける』と憤って居ました」(松本さん 以下同)
3月1日の緊急事態宣言の解除も、吉村知事が政府に働き掛けて1週間前倒ししたものだ。それに伴い、直ぐに対応出来る重症病床の数も縮小したが、再び感染が爆発し〔医療崩壊〕を招いたと指摘されて居る。処が、在阪メディア・特にテレビで、こうした知事の失政が正面から批判される事は少ない。
宣言解除前から変異株の危険性は指摘されて居たにも関わらず、吉村知事は〔医療崩壊〕に陥った理由を 「変異株の感染力が予想以上だった」 からと説明。テレビに出ても、無批判にその声は垂れ流される事が多かったと云う。
「知事が出演して居るのは、主に情報番組。普通、政治を扱うのは報道局なんですが、情報番組はバラエティー番組を造る制作局が作って居ます」
知事が頻繁に情報番組に出演する。ソンな大阪特有の〔伝統〕を作ったのは橋下徹元大阪府知事(52)だと松本さんは指摘する。
「橋下さんは、知事に為る以前からタレントとして頻繁に情報番組に出演して居たので、当時から親しかった制作局が、府知事に為ってからも番組を作る様に為ったんです。
制作局の人間からすれば〔身内〕の橋下さんが知事に為った訳ですから、権力者に対峙すると云うより、タレントに対し〈がんばってや!〉みたいなノリに為ってしまうのでしょう。そんなメディアとの〔共犯関係〕を吉村知事も継承したんです」
そこに批判的な視点等、生まれ様も無い。
橋下氏の時代から知事は登庁時と退庁時の1日2回、庁舎の廊下で“ぶら下がり会見”を開くように・・・12-18-17
■〔恫喝〕よりも持ちつ持たれつの関係を
本来、知事の行う政策を調査し、報道する立場に在るテレビの報道局や新聞記者の仕事の仕方も、維新府政で変わったと云う。
「橋下さんの時代に為ってから、知事は登庁時と退庁時の1日2回、庁舎の廊下で〔ぶら下がり会見〕を開く様に為った。
記者の本来の仕事は、現場に出て市民の声を聞き、それを首長にブツケて問う事でしょう。でも、記者は知事の話を拾う事に必死に為り、市民の声を聞く事が疎かに為った。云わば府庁の廊下が〔現場〕に為ってしまったんです」
知事に質問出来る機会が増える事自体悪い事では無い。だが、肝心の内容は・・・
「橋下さんは以前、自著『まっとう勝負!』に収録された爆笑問題の太田光さんとの対談で〔視聴者は話して居る中身ナンて聞いて居ない〕と云う様な話に賛同した上で〈そうナンですよ。内容は別で、真剣に話してた事は分かったから「ま、好いか」って雰囲気です〉と語って居ます。
要は一生懸命な〔印象〕だけ伝われば好い、と。その傾向は、吉村知事も受け継いで居る。長々と一生懸命に話して居る割には、記者の質問に真面に答えて居ません」
橋下元知事は、気に入ら無い質問をする記者には個人攻撃で応える事も在った。2012年、府立教員の国歌斉唱問題に付いて質問をしたMBSの記者を「勉強不足」「フザケタ取材すんなよ」と20分以上に渉って責め立てた。吉村知事は記者を〔恫喝〕する事は無いが、その手法を引き継いだのが松井一郎大阪市長だ。
「5月13日の記者会見で、大阪市のコロナ対応に何度も疑問をブツケタMBSの記者を、松井市長は『不安を煽る様な事ばっかり言って』『アンタの取材力が無いからや』等と、責め続けました」
19年10月 饗宴の儀に出席した松井一郎・大阪市長 (C)JMPA 12-18-18
■批判する記者を〔ヤヤコシイ奴〕 と見做すマスコミ内の空気
毎日、2回も顔を合わせて居ればシンパシーも生まれる。一方で、批判をすると〔恫喝〕が返って来る事が在る。メディア側に生まれるのは、維新と対立するより、持ちつ持たれつの関係を築いて行こうと云う空気だと云う。
「会見等で厳しく批判すると、周りのメディア関係者から、空気が読め無い奴、突出してヤヤコシイ奴みたいな感じに観られる。極めて不健全な状態です」
その結果、量産されるのが知事や市長の発言を無批判にまとめただけの報道だ。
「基本的に、政治家は批判的な視点や疑問を持って検証する必要が在ります。取材の視点や軸足が権力側と一体化すれば〔吉村さん、がんばった〕と云う事にしか為ら無い。大阪だけ突出して死者が多いのは何故なのか。それを検証するには、維新の言い分だけ聞いて居てもダメなんです」
コロナ禍で1年以上に渉って繰り返されたパフォーマンス先行の場当たり的な対応。失敗を続けても一向に改められ無いのは、維新と〔共犯関係〕に或るメディアに依る〔批判的な視点〕の欠如が一因だと、松本さんは考えて居る。
■批判の欠如が生む 維新関係者の慢心
「維新は不祥事が非常に多い」 と松本さんは言う。
◇ 大阪維新の会から出馬した大阪府 池田市の冨田裕樹市長 は、簡易サウナやトレーニング器具を市庁舎に持ち込んで居た事が昨年10月に発覚し翌月に離党した。
◇ 昨年10月には日本維新の会の 森夏枝衆院議員 が、集めた党員の党費を肩代わりして払った事が発覚。公選法に抵触する寄付行為に当たると指摘されて居る。
◇ 2月には大阪維新の会の 岡沢龍一大阪府議 が弟への傷害容疑で書類送検。
◇ 6月29日には、大村秀章愛知県知事に対するリコール署名の偽造事件で、日本維新の会の 衆議院愛知5区選挙区支部長だった田中孝博容疑者 が、地方自治法違反の罪で起訴された。
維新関係者の不祥事は枚挙に暇が無いと云う。
「松井市長も64回も公用車でホテル通いをして居た事が発覚しました。メディアの批判的な視点の欠如が関係者の慢心に繋がり、体質が一向に改善され無い要因に為って居るのでは無いでしょうか」
政治とメディアの緊張感を持った関係を作り出す必要が或る。
「とは云え、今の大阪の空気は十年位掛けて築かれて来たものなので、急に変わるものでも無い。メディアの中にも、この様な報道の在り方で好いのかと、疑問に思って居る記者は居ます。もし、そう云う視点から作られた記事や番組に接したら、市民の皆さんはエールを送って欲しい」
新型コロナウイルスが日本で流行し始めてから、もう直ぐ1年半。行政が行うコロナ対策を批判的に検証し、可笑しな点が在れば遠慮無く報じる。そんな〔あたり前〕が府民の命を守る為に必要だ。
【PROFILE】松本創 1970年大阪生まれ 神戸新聞記者を経てフリーに 2016年『誰が「橋下徹」をつくったか—大阪都構想とメディアの迷走』(140B)で日本ジャーナリスト会議賞を受賞 2018年に出版された『軌道 福知山線脱線事故JR西日本を変えた闘い』(東洋経済新報社)で「講談社 本田靖春ノンフィクション賞」受賞 その他著書多数
【管理人のひとこと】
管理人は若い頃に10年弱大阪で生活した。高校を出てそのママ大阪へ出て学校を卒業して就職・・・10年弱暮らした経験が在る。云わば私の青春時代は大阪と共に存在した。仕事への緊張や喜び、恋愛も結婚も全てが大坂だった。以来東京・仙台を繰り返し最後に仙台に帰って来た。
だから、大阪は懐かしく思い出もタップリ存在する・・・だが、橋下徹氏以来の大坂は表情が突然変化したように変貌してしまった。表面と口先だけの男達・女達に大阪の人達はコロリと騙され・・・今の様な可笑しな事態へと突き落とされてしまった。早く目を覚まして欲しい・・・大阪万博やIR招致と、マルで安倍晋三の意のママに動く可笑しな集団へと変化してしまった。確かに年々縮小する大阪経済・・・何とかしようと努力したのは理解出来るのだが・・・全てが〔安倍頼み〕なのは軽薄の一つに過ぎなかろう。