「じゃ、夕方事務所に来て、はい、これ」
彼女が、名刺を差し出す。
名刺には、事務所の住所と電話番号が印刷されている。
受け取りながら訊く。
「あの、何時に伺いますか」
「そうね、今日は6時には終わってると思うから、その前後にお願い」
「分かりました、では6時に伺います」
エレヴェータが止まり、扉が開く。
彼女に続いて踏み出すと、二人の背中で扉が閉まる。
歩きながら、思い出したように彼女が言う。
「あっそうそう、着替えも用意してきて」
「えっ、着替え?ですか」
「そうね、ひとまず一週間分」
「あの、どういう?…」
ワタシの疑問には取り合わず、彼女が続ける。
「昼間は、秘書と一緒だから、プライヴェイトの時間を一緒にいてほしいの、だから、ウチに寝泊りして」
「寝泊り?ですか」
「本当は、ボディガードなんか要らないって、言ったんだけど、最適な女性(ヒト)がいるって奨められて」
「最適?誰に奨められたんですか?」
それには答えず続ける彼女。
「でも頼んでよかったわ、相性ピッタリのあなたが来てくれて」
「それで誰に?…」
しつこく駄目元でくいさがってみるワタシ。
やはり無視して続ける彼女。
「あなたのこと、あまり気にかけられないし、あなたも、その方が仕事しやすいでしょ」
「それはそうですが、お邪魔じゃありませんか?」
「あなたに会う前ならそうね、そう考えてたわ、でもあなたなら、お互いリラックスして過せると思うわ」
「それならいいですが」
「じゃあ、後でね」
そういい残すと、彼女に近づいてくる男女の秘書と言葉を交わす。
そのまま、連れ立ってロビーの一角に向かう。
一人佇むワタシは、思わぬ依頼に頭を巡らせる。
一週間分って、いったい何を持っていこう。
あれこれ考えながらホテルを出るピンヒール。
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