知らないうちに勝手に連帯保証人にされていたらどうなるのか?
生活を送る上で借金は付き物です。家や車の購入、教育費の工面など、誰でも何らかの借金をしています。また、事業を運営していれば借金は日常茶飯事と言えます。
そして、少額ならともかく高額な借金ともなると、貸す方も「保証人」を要求します。最近は専門の機関が保証人になるケースが増えていますが、親戚や知人などに保証人になってもらうこともあります。
なお、単なる保証人であれば、貸主から返済請求が来たしても、借金をした当人から返済してもらうように主張できますが、「連帯保証人」だったとするとそれができません。
貸主が返済請求をしてきたら無条件で応じなければなりません。つまり、連帯保証人は借金をした当人と同様の責任を持っているということです。
そんな重い責任のある連帯保証人に、本人の知らないうちに無断でさせられていたということがあります。当然、本人の了解を得ずになされた連帯保証契約は無効であるため、お金を払う必要などありません。かといって、『俺は知らない』の一言だけでは済みません。
借主と貸主の口約束だけならともかく、契約書の連帯保証人欄に連帯保証人の名前が記してあり、実印による捺印がなされていたら、貸主も簡単には引き下がりません。さらに、印鑑証明書が付いていたら、連帯保証契約の有効性を訴えられます。
(最終更新日:平成29年8月18日)
立証責任はどちらにあるのか?
本人の同意もなく無断で決められた連帯保証契約は法律上無効ではありますが、そうは簡単にいかないのが、自分の意思で連帯保証人になったのに、借金の返済を迫られると、『連帯保証人になった覚えはない』と言う人がいるからです。
従って、裁判になった時には連帯保証人になる「意思」が無かったことを証明する必要があります。
●裁判における内心の証明
連帯保証契約は必ず書面による手続きが必要ですが、必ずしも法律で本人の自筆による署名が求められているわけではありませんし、捺印も実印を使う必要がありません。
つまり、代筆や認印であっても本人に意思があれば連帯保証人になれますし、捺印が実印であったとしても本人に意思がなければ連帯保証人にはならないということです。
そうなると、本人の意思次第となりますが、意思は心の中にあるので裁判官には見えません。従って、連帯保証契約の無効を裁判官に納得してもらうには、意思の無いことを裏付けるための立証が必要です。
それができないと、いくら真実は無断でなされた連帯保証契約であったとしても、裁判官の心証がそうならなければ裁判に負けてしまいます。それが裁判というものです。
裁判における立証責任とは?
民事裁判では原則として、事実を主張した人がその事実を裏付ける立証責任を負います。従って、貸主が連帯保証人に返済を請求する裁判を起こした場合は、その契約が連帯保証人の同席の下で行われたもの、あるいは連帯保証人の同意でもって行われたものであることを貸主が証明しなければなりません。
?@契約書の署名が代筆で、捺印が認印の場合
署名が代筆であり、印鑑も認印またはシャチハタ印であれば、その契約書が連帯保証人が同意した真正のものである証明にはなりません。
もちろん、代筆・認印での契約書も有効ではありますが、あくまでも連帯保証人の同意があった場合です。
この契約書の真偽において、連帯保証人になっている人が『そんなものは知らない』と主張すれば、貸主はこの契約書が連帯保証人の同意でもって作成されたものであることを証明することができないため、連帯保証人とされた人が裁判に勝訴する確立が非常に高くなります。
また、筆跡鑑定をすればほぼ間違いなく署名が本人のものではないと判定されます。
?A契約書の署名が代筆で、捺印が実印であった場合
署名が代筆であれば?@と同様、無効と判定される可能性が高くなりますが、実印で捺印がなされていると、本人が捺印したものと「推定」されかねません。
推定というのは、相手側から「反証」がされない限り、証明されたものとみなされるということです(事実上の推定)。反証というのは、裁判官が事実との心証を抱きかねない証拠に対して、反する事実を証明することで、真偽不明の状態に後戻りさせることです。
推定されたまま放っておくと事実と認定されてしまうため、承服できない場合は反証活動をしなければなりません。
例えば、借主と同居していたために実印を持ち出すことが可能なことや、従業員が事務所の保管場所から盗み出せること、また借主との関係から連帯保証人になる必然性が無いことなどで反証をします。
?B他人が勝手に代理人として連帯保証契約を結んだ場合
本人が自分のために代理人に連帯保証契約をする権限(代理権)を与えた場合は当然その契約は有効であり、本人は適法な連帯保証人となります。
ただし、本人から権限を授与されていないにもかかわらず、勝手に実印と印鑑登録証を持ち出して、代理人と偽って本人が連帯保証人となる連帯保証契約を結んだ場合は権限がないため、連帯保証契約は無効です(無権代理行為)。
しかし、無権代理行為であっても、一定の条件が揃うと有権代理行為と見做されて連帯保証契約が有効になります。その代理行為を「表見代理行為」といいます。
例えば、AさんはBさんが行うC業者からの100万円の金銭貸借の連帯保証を承諾してBさんに実印と印鑑登録証を渡しましたが、BさんはC業者から100万円ではなく500万円を借り入れ、Aさんを連帯保証人とする連帯保証契約を結んだ場合が表見代理行為になります。
この場合、C業者がBさんに連帯保証人の代理権が授与されているに違いないと信ずるに値する事情があれば、表見代理が成立して連帯保証契約が有効になる可能性が十分にあります。
表見代理を認めるのは、代理権があると信じたC業者の保護、及び取引の安全性を保持する意味がありますが、それとともにいい加減な性格のBさんに法律行為の手段となる実印と印鑑証明を渡すAさんの過失責任を重く見た結果でもあります。
本人に無断で連帯保証人にさせられた契約は明らかに無効です。しかし、実際の裁判において無効であることを証明するには大変な努力が必要になります。
そのようなことにならないように、実印は誰にも持ち出せないように保管すること、重要な法律行為は自分自身で行うことを常に心がけるべきです。
ちなみに、身に覚えのない連帯保証契約が確認できたら速やかに貸主に連絡をして善後策を講じることです。
なお、その際には絶対にお金を払ってはいけません。1円でも払うと「追認」したことになり、連帯保証契約が成立してしまいます。
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