健康寿命を延ばす
重要なことは「より健康」に「長生き」することだ。
人の寿命は延びているが、
人生の後半は病気や障害に苦しむことが多い。
人口統計学者のファウペル(James W. Vaupel)と
エッペン(Jim Oeppen)が
2002年のScience誌で示したように、
長寿国の平均寿命は1840年代からほぼ直線的に延びてきた
(現在最も長寿なのは日本人女性)。
人間は人類史上買ってないほど長生きするようになった。
しかし、健康寿命(健康な生活を送れる期間)
は、それほど速くは延びていない。
つまり、晩年に病気や障害を抱えて、
衰えていく恐ろしい期間が実際には長くなっている。
ますます長生きするようにつれて変わったのは、
かかる病気の種類だけだ。
がんや心疾患による死亡率が下がり、
アルツハイマー病(日本ではまだ、アルツハイマー型認知症)
になる人が増えている。
65歳以上の米国人の9人に1人はアルツハイマー病などの
認知症を患い、そのリスクは80歳以降急激に高まる。
「アルツハイマー病が驚くほど増えているが、
この疾患が一般的になる70代後半から80代くらいまで
多くの人が生きられるようになった
のだから、当然だと言える」
とイリノイ大学シカゴ校の人口統計学者
オルシャンスキー(S. Jay Olshansky)は言う。
「このままでは事態はもっと悪くなると思う。
これに変わる道は、老化を遅らせて、
病気の期間と終末期を縮めることだ」。
先進国ではがんと心臓病、アルツハイマー病、糖尿病
を合わせて死因の約半数を占める。
100歳超えの人たちは
人生の最後に床に伏す期間が、
70代で亡くなる人よりもかなり短い
傾向が研究で示されている。
抗老化薬の成功には、
単に寿命を延ばすだけではなく、
健康で元気でいられる期間を
延ばすことが求めれると
オルシャンスキーは言う。
しかしごく最近まで、
そのような薬の開発には難しい”壁”があった。
米食品医薬品局(FDA)が老化を病気とみなしてこなかったからだ。
このため老化の過程そのものを
標的とした薬は承認されなかった。
老化を”測定”する客観的な方法はない。
当人の老化が速いか遅いかを知る血液検査はない。
これでは抗老化薬の効果を評価しようがない。
だが、2015年にFDAが
『メトホルミン』
の老化防止効果を評価する
臨床試験を承認したことで、
道が開けてきた。
メトホルミンは1950年代に
英国で2型糖尿病(一般的な糖尿病)
の治療薬として承認され、
米国では1994年にFDAの審査を通過した。
以来、第一選択薬として
数百万人の患者に処方されてきた。
【引用文献】
B. ギフォード(Bill Gifford)サイエンスライター
別冊日経サイエンス 人体の不思議
日経サイエンス編集部 日経サイエンス社 2018年2月17日
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