外界からの刺激の減少が不可逆的な認知症に進展する
隔絶された環境(南極の基地に14ヶ月)が人間に与える影響を明らかにするため、脳のMRI検査で、特に空間認識力と記憶力を司る脳部位の「海馬」を重点的に調べた。
海馬はストレスに弱い一方で、新しい神経細胞を作ることができる数少ない脳部位の一つでもあることが知られている。
定期的にコンピューターを使った認知機能検査と採血で脳の神経細胞の成長を促すタンパク質である脳由来神経栄養因子(BDNF)の値の変化も観察した。
その結果、海馬の容積は平均で7.2%減少し、海馬は大きく萎縮していたことが分かった。
「脳で観察される変化としてはかなり大きいものだ」という。
「この研究結果は、宇宙探査にも同様の危険があることを示唆している。
宇宙旅行を実現させる前に解決すべき課題になりそうだ」と指摘。
また、「人間の脳の一部は、隔絶された環境に対して脆弱であることが示された。
社会的あるいは環境的に孤立することは、そのような部位に影響を与えるストレス要因となる可能性がある」と話している。
萎縮が認められた脳部位は海馬だけでは無く、前頭前野など他の脳部位の容積も減少した。
また、血中のBDNF値も平均で45%低下していたことが分かった。
さらに、脳の萎縮が特に大きかった隊員では、空間認識力や選択的注意力の検査結果が悪かった。
しかも、帰国後1カ月半が経過しても、隊員の血中のBDNF値は通常よりも低いままで、南極での滞在中に受けた影響はその後も残存する可能性が示された。
「脳には可逆性があり、マイナスの影響も受けやすいがプラスの影響にも迅速に反応するはずだ」との見方を示しており、脳は最終的には元の状態に戻ると予測している。
また、脳の回復には、戸外で過ごしてさまざまな感覚刺激を受けることのほか、食事や運動、睡眠も役立つと付け加えている。
別の研究で、遺伝子レベルである因子が減少する疾患として、「うつ病から双極性障害、そして最終的に認知症へと診断が縦断的に転換する患者群を挙げている。
うつ病の早期発症にグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK-3β)の遺伝的変異が関連していることが示唆されていたが、双極性うつ病の可能性のあるサブセットとして、3つのSNP(rs334555、rs119258668、rs11927974)が特定された。
とくに、GSK-3βの他のプロモーターSNP(rs334558)は、うつ病、双極性障害、認知症と関連していることが報告されている。
加えて、GSK-3を阻害することが報告されているリチウムは、一般的に双極性障害に対する効果が認められており、最近では認知症に対する効果も報告されている。
二つの研究結果を組み合わせれば、外界からの刺激の減少が不可逆的な認知症に進展する可能性が予見できる。
>1)隔絶された環境が脳に与える影響は?
提供元:HealthDay News 公開日:2020/01/08
南極は地球上で最も孤独な場所の一つだ。
見渡す限り真っ白な景色は、長い冬の数カ月間は、ほぼ真っ暗闇の世界になる。
極限の環境で、他者との接点も限られた単調な日々が続く——。
このような想像を絶する隔絶された環境での経験は、人間の脳に物理的にも機能的にも甚大な影響を与えることが、米ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院精神医学のAlexander Stahn氏らによる研究から明らかになった。
この研究結果は「New England Journal of Medicine」12月5日号に発表された。
Stahn氏らは、隔絶された環境が人間に与える影響を明らかにするため、南極の基地に滞在する観測隊員に着目した。
厳しい自然環境の中で孤立した状態が、健康な若い男女に与える影響を調べる上で、南極は最適な場所だと考えられたという。
そこで、Stahn氏らは今回、ドイツのノイマイヤーIII南極基地で、14カ月間の任務に当たった男性隊員5人と女性隊員4人の計9人を対象に、任務に当たる前後の脳の変化を調べた。
隊員には、任務を開始する前に脳のMRI検査を実施し、特に空間認識力と記憶力を司る脳部位の「海馬」を重点的に調べた。
なお、これまでの研究で、海馬はストレスに弱い一方で、新しい神経細胞を作ることができる数少ない脳部位の一つでもあることが知られている。
隊員たちには南極で任務に当たる間も、定期的にコンピューターを使った認知機能検査を行った。
また、血液を採取し、脳の神経細胞の成長を促すタンパク質である脳由来神経栄養因子(BDNF)の値の変化も観察した。
さらに、任務を終えて帰国した後にも、MRI検査と血液検査、認知機能検査を実施し、任務前後の検査データを比較した。
その結果、任務開始前に比べて、任務遂行後には海馬の容積は平均で7.2%減少し、海馬は大きく萎縮していたことが分かった。
「海馬の容積があまりにも大幅に減少していたことに驚いた」とStahn氏は振り返る。
同氏によれば、容積が平均で約7%も減少するのは、「脳で観察される変化としてはかなり大きいものだ」という。
この報告を受けて、今回の研究には関与していない米メイヨー・クリニックの脳神経内科医であるAlejandro Rabinstein氏は「この研究結果は、宇宙探査にも同様の危険があることを示唆している。
宇宙旅行を実現させる前に解決すべき課題になりそうだ」と指摘。
また、「人間の脳の一部は、隔絶された環境に対して脆弱であることが示された。
社会的あるいは環境的に孤立することは、そのような部位に影響を与えるストレス要因となる可能性がある」と話している。
今回の研究で、萎縮が認められた脳部位は海馬だけではなかった。
帰国後には、前頭前野など他の脳部位の容積も減少した。
また、血中のBDNF値も平均で45%低下していたことが分かった。
さらに、脳の萎縮が特に大きかった隊員では、空間認識力や選択的注意力の検査結果が悪かった。
しかも、帰国後1カ月半が経過しても、隊員の血中のBDNF値は通常よりも低いままで、南極での滞在中に受けた影響はその後も残存する可能性が示された。
Stahn氏らは、現在も隊員を追跡しているという。
同氏は、「脳には可逆性があり、マイナスの影響も受けやすいがプラスの影響にも迅速に反応するはずだ」との見方を示しており、脳は最終的には元の状態に戻ると予測している。
また、同氏は、脳の回復には、戸外で過ごしてさまざまな感覚刺激を受けることのほか、食事や運動、睡眠も役立つと付け加えている。
[2019年12月4日/HealthDayNews]Copyright (c) 2019 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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Stahn AC, et al. N Engl J Med. 2019; 381: 2273-2275.
>2)うつ病から双極性障害、認知症へ診断転換する患者像
提供元:ケアネット 公開日:2020/01/07
大分大学の寺尾 岳氏らは、うつ病と診断された後、双極性障害、最終的に認知症と診断が転換される患者の特徴について、関連文献の定性的レビューを行った。Bipolar Disorders誌オンライン版2019年11月19日号の報告。
主な結果は以下のとおり。
・うつ病患者は、かなりの割合で躁および/または軽躁エピソードを発現し、その結果、診断が双極性障害へと転換されていた。
・さらに、双極性障害患者の多くは、認知症を発症していた。
・これまでの研究では、うつ病の早期発症にグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK-3β)の遺伝的変異が関連していることが示唆されていたが、双極性うつ病の可能性のあるサブセットとして、3つのSNP(rs334555、rs119258668、rs11927974)が特定された。
・とくに、GSK-3βの他のプロモーターSNP(rs334558)は、うつ病、双極性障害、認知症と関連していることが報告されている。
・加えて、GSK-3を阻害することが報告されているリチウムは、一般的に双極性障害に対する効果が認められており、最近では認知症に対する効果も報告されている。
著者らは「うつ病から双極性障害、そして最終的に認知症へと診断が縦断的に転換する患者には特徴があり、GSK-3がこれらの疾患や診断転換の原因である可能性が示唆された」としている。
(鷹野 敦夫)
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Terao T, et al. Bipolar Disord. 2019 Nov 19. [Epub ahead of print]
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