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クリスチャン・マクブライドのビッグバンドの第三弾を聴く。今回は高校時代からの友人であるオルガンのジョーイ・デフランセスコをフィーチャーしている。ギターはマーク・ホイットフィールドが起用されている。コンセプトとしてはオルガン繋がりで、ジミー・スミスとウエス・モンゴメリーの組んだは名作『ダイナミック・デュオ』『ファーザー・アドヴェンチャーズ』(Verb)からのナンバーがピックアップされている。タイトルのオリバーとはこれらのアルバムの指揮とアレンジを担当したオリバー・ネルソンのこと。個人的にはオルガンはあまり好みではないし、CDもほとんど持っていない。今回ベースとなったアルバムも聞いたことがなかった。食わず嫌いということもあるかもしれない。じっくり聞いてみると悪くない。もともとオルガンはシリアスなジャズには向いていないと考えていた。実際今回のアルバムも重量級なものではなく、気軽に聞くという感じのアルバム。この中では「ダウン・バイ・ザ・リバーサイド」がオリバー・ネルソンの攻めたアレンジで楽しめた。この黒人霊歌がこれほど面白く聴けるのも稀だろう。現在でも全く古臭くなく、新鮮に響く。エンディングもスリリングだ。今回の演奏は、オリジナルよりもアンサンブルの精度が高く、キレキレのサウンドが心地よい。最後の3曲はメンバーのオリジナル。「Don Is」はブルーノートの社長ドン・ウォズに捧げられた曲とのこと。最後のトランペットのプランジャー・ミュートのソロから始まる「Pie Blues」は、大地に根を生やしたような、どっしりとしたブルースで、それまでの雰囲気とはだいぶ違っていた。バリトン・サックスのワイルドなソロもいい味出している。フィーチャーされているオルガンとギターは今風の演奏ではなく、オリジナルに近い演奏ぶり。デフランセスコのオルガンのノリの良さが目立つ。バラード「I Want to Talk About You」での意表を突いたアーシーな味わいがハマっているのも意外。ホイットフィールドのギターはよく言えば堅実なプレイ。大人しめのプレイで、バッキングに回っている時も、もう少しオルガンに絡んでほしかった。「The Very Thought of You」のようなスロー・テンポの曲で持ち味が出ていた。クインシー・フィリップスのドラムスはコンボでもビッグ・バンドでも溌剌としたプレイが目立った。バックは重量感はないものの、現代のビッグ・バンドらしくパリッとしたサウンドとスインギーな味わいで、ご機嫌な出来だった。Christian Mcbride Big Band:For Jimmy,Wes,Oliver (Mack Avenue Records MAC1152)24bit 96kHz Flac1.Jimmy Forrest, Oscar Washington(arr.Oliver Nelson):Night Train2.Wes Montgomery(arr.Christian McBride):Road Song3.Freddie Hubbard:Up Jumped Spring4.Miles Davis(arr.Oliver Nelson):Milestones5.Ray Noble:The Very Thought of You6.Trad(arr.Oliver Nelson):Down by the Riverside7.Billy Eckstine:I Want to Talk About You8.Joey DeFrancesco:Don Is9.Mark Whitfield(arr.Christian McBride):Medgar Evers' Blues10.Christian McBride, Joey DeFrancesco:Pie BluesJoey DeFrancesco (Or)Mark Whitfield(g)Christian McBride(b)Quincy Phillips(ds)Christian Mcbride Big Band
2020年10月30日
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ドイツのソプラノ歌手クリスティアーネ・カルクの「思い出」と題されたマーラー歌曲集を聴く。同じプログラムで日本公演が予定されていたが、コロナ禍のため中止になった。これで喝を癒すことができると思っていたが、残念な結果になってしまった。久しぶりに聞いたからか、声が老けて聞こえる。声帯がだいぶ疲労しているのだろうか。ピアノは長年付き合っているマルコム・マルティノー。ピアノの思い入れたっぷりのアゴーギクやテンポの変化が気になる。ブレスの関係なのか、結構パウゼが目立つのも気になるところ。恣意的と言ったら言い過ぎかもしれないが、かえって歌の邪魔をしているようで、あまり楽しめなかったのは残念。例えば恋人たちの会話(男は亡霊?)である「トランペットの美しくなるところ」での男の美しい旋律が滑らかでなく、せっかくの気分がぶち壊しになる。「角笛」はおおむねこの調子であまり楽しめなかった。このピアニストの他の演奏を聞くとまとも?なので、おそらくこれはカルクの指示だろうが、趣味が悪い。もう少し、素直に流すことはできなかったものだろうか。「若き日の歌」から4曲が歌われている。端正な歌唱で、この曲集が最も出来が良かった。なかでもタイトル曲の「思い出」が素晴らしかった。次いで「リュッケルト歌曲集」がまあまあ楽しめた。ただし、「私の歌を覗き見しないで」では、底意地の悪い老婆みたいな声になることがあり、ぞっとする。「私はこの世に捨てられて」が一番最後にきているが、真っ当?な出来で安心して聴くことが出来る。最後にヴェルテ・ピアノを使ったマーラー自身のピアノ・ロールとの共演。マーラーは1905年にWelte-Mignon社のピアノ・ロールを演奏していて、たびたびCD化されている。「ヴェルテ・ミニョン」とは、ドイツのヴェルテ社が1904年に開発した自動ピアノ演奏システムのことで、リ・プロデューシング・ピアノとも言われているとのこと。ロール・ピアノのためか、ギクシャクしたところが散見され、音符もきっちりと再現されていないところがあり、大変聞き苦しい。ドイツのTACET社から2010年にリリースされたスタインウェイを使った「Welte-mignon Piano Rolls: Mahler Reinecke, Grieg」が最も成功している録音らしい。Spotifyにアップされていたので聞いてみたところ、音符は正しく聞きとれて、聞き苦しさはだいぶ軽減する。ただし、元の演奏自体テンポがコロコロ変わって落ち着きがない。なので、この2曲を入れたことにより逆にクオリティが下がってしまったのは疑問。特に「天上の光」はかなり聞き苦しい。ピアノにばっかり気を取られたが、歌はマーラーのぐしゃぐしゃなテンポに良くついていて、破綻はない。ということで、良いところと悪いところが混在する困った?アルバムだった。コロナ禍で少しはのどを休めることが出来たろうから、また昔の清純な声が戻ってくることを期待したい。ヴェルテ・ピアノとの録音風景(天上の光)ヴェルテ・ピアノのメカも映されていて大変興味深い。Christiane Karg:Mahler Lieder(Harmonia Mundi France HMM905338)16bit44.1kHz Flac1. ラインの伝説(子供の魔法の角笛)2. だれがこの歌を作ったのだろう?(子供の魔法の角笛)3. ハンスとグレーテ(若き日の歌)4. 夏に小鳥はかわり(若き日の歌)5. 別離と忌避(若き日の歌)6. むだな骨折り(子供の魔法の角笛)7. 魚に説教するパドヴァの聖アントニウス(子供の魔法の角笛)8. この世の生活(子供の魔法の角笛)9. 美しいトランペットが鳴り響く所10. 私の歌を覗き見しないで(最後の7つの歌 リュッケルト歌曲集)11. 私は快い香りを吸いこんだ(最後の7つの歌 リュッケルト歌曲集)12. 真夜中に(最後の7つの歌 リュッケルト歌曲集)13. 美しさがあなたを愛するなら真夜中に(最後の7つの歌 リュッケルト歌曲集)14. 私はこの世に捨てられて(最後の7つの歌 リュッケルト歌曲集)15. 思い出(若き日の歌)16. ドン・ファンの幻想(若き日の歌)17. もう会えない(若き日の歌)18. 私は緑の森を楽しく歩いた(若き日の歌)19. 天上の光(交響曲第4番より)クリスティアーネ・カルク(ソプラノ)マルコム・マルティノー(ピアノ:1-17)グスタフ・マーラー演奏のピアノ・ロール(ヴェルテ・ピアノ:18,19)録音:2019年4月30~5月3日、バイエルン放送局スタジオ1(ミュンヘン)
2020年10月28日
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マイルス・デヴィスのドキュメンタリー「クールの誕生」を観る。アメリカでは昨年の公開だったが、日本では今年になってからの公開。まあ、ジャズ・ファンしか行かないのだろうが、入れ物は小さいとはいえ20人以上は入っていたと思う。さすがにマイルスの名前は今でも効き目が絶大なのだろう。タイトルが「クールの誕生」なので、そこらへんの時代の話かと思ったら、マイルスの生涯をたどったドキュメンタリーだった。考えて見れば、クールの誕生の話だけでは短編止まりだろう。管理人が勘違いしたということだ。エピソードを丹念に拾い集めて、ストーリーを作るということは大変な労力と忍耐が必要になる。この映画は見たこともないような貴重な映像もが多数あり、楽しませてもらった。そうは言っても「カインド・オブ・ブルー」やはギル・エヴァンスとの諸作のあたりは、見たことのある映像や資料が多いので、新鮮味はない。ところが、そのほかのシーンは個人的にはお宝映像が満載だった。例えばこの映画ではマイルスと女性たちとの関係がクローズアップされていて、語り手の発言が大変興味をそそる。例えば、マイルスがフランスに行った時の、ジュリエット・グレコやジャンヌ・モローとの関係が彼女たちによって赤裸々に語られているところは大変面白い。グレコは晩年の映像だろうが、しわくちゃでよく撮影が許可されたものだと思う。また「死刑台のエレベーター」のサウンド・トラックの吹き込み映像は初めて見た。なるほどすべてアドリブで吹き込んでいる。マイルスの妻たちの証言も大変興味深い。1番多く出てくるのはフランシス・テイラー(画像も)で、彼女がミュージカルのウエスト・サイド・ストーリーに出演していた時の練習で踊っている映像が出てくる。そこに若き日のバーンスタインがちょこっと出てくるのはお宝映像だろ。有名な警察官による殴打事件(1959)の時の血だらけで、頭に二つガーゼをつけている生々しい写真も出てくる。そこにはフランシスも写っている。マイルスのファッションがどんどん変わっていくのも、その時に関わっていた女性たちの趣味だったということも初めて知った。その中でもファッションのほかにもスライなどを紹介したベティ・デイヴィス(ベティ・メイブリー)(1945-)だというのは初めて知った。アルバム「いつか王子様が」のジャケ写にフランシスが写っているが、黒子はつけボクロだそうだ。このドキュメンタリーでは、今まであまり取り上げられてこなかった、ショーターらとのクインテット以降の音楽についても、結構詳しく描かれている。トニー以外のメンバーのインタビューもあり、実験室と言われた当時のグループの緊張感が伝わってくる。この時代のレコーディングで「Freedom Jazz Dance」のメロディーがとても難しいと悲鳴を上げている場面は、生身のマイルスが感じられる。傑作なのはショーターのマイルスのモノマネが上手いこと。ジミー・コブも真似していたが、彼も上手かった。ロックに接近したのは、金儲けができるからというのには、ずっこけた。「ビッチェズ・ブリュー」や「オン・ザ・コーナー」の音楽も取り上げられていた。ビッチェズ・ブリューの意味が「あばずれ女どもは陰謀をたくらむ」という意味で放送では言えない言葉だというのも笑える。「オン・ザ・コーナー」のコンサートでのメンバーの鬼気迫るような演奏ぶりには圧倒される。その後の長い隠遁生活が耐え難い痛みとそれを紛らわすための飲酒、麻薬、結果として体調を悪化させたという下りは、気の毒でしょうがない。「TUTU」のレコーディングのエピソードやモントルーでのクインシー・ジョーンズとのコンサートの風景も映されている。コンサートではウォーレス・ルーニーのサポートを受けて演奏していたが、痛々しくて見ていられなかった。その後の心臓発作には言及されているが、後はサンタナがマイルスの死を聞いたという話で終わっている。見終わったら、オン・ザ・コーナの音楽が猛烈に聴きたくなった。ということで、マイルスの人となりが分かる、大変面白いドキュメンタリーだった。すぐにもう一度見たいと思ったが、公開中のためか、日本版のDVDはリリースされていない。Netflixで日本語字幕で見ることが出来る。公式サイト
2020年10月26日
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本作は、これまで、スタジオで行ってきたレコーディングの中で、故トミー・リピューマ(1936-2017)がプロデュースした曲の中から、ダイアナ本人が特に「アウト・テイクには程遠くて、放置するにはもったいない」と感じていた2016年から数年間レコーディングを振り返り、録り溜めてきた未公開音源をまとめたアルバム。どの曲も、残りものとは思えない水準の高さだ。夜のムードが漂い、夜のドライブに最適だ。スタンダードが中心で、他はボブ・ディランのタイトルチューンだけ。スローバラードが多く、多彩なミュージシャンが共演している。新しさはないが、少し前のダイアナの音楽が聴かれる。いい意味での安定感があり、聴き手を優しく包んでくれる。1950年代から活躍していて、グラミー賞を21回も受賞しているレコーディング・エンジニアのアル・シュミット(1930-)が担当。彼はリピューマとのコンビでダイアナのレコーディングを数多く残している。彼は彼女の思いが少しでも聴き手に届くよう、「すぐそばで聴こえる声」の演出にこだわったという。殆どが正統的なアプローチだが、「How Deep Is The Ocean」だけが特異なアプローチ。何しろ曲が始まっても、お馴染みのメロディーが出てこない。管理人の勘違いかと思って他の演奏で確認したのだが、間違いではなかった。歌詞はそのまま使われているので、どうしてこういうことになったのか分からない。何か、ヒントがあればいいのだが、生憎ブックレットが付いていないのでお手上げだ。何か遊びのテクニックを使っているのかもしれない。Diana krall:This Dream Of You(Verb)24bit96kHzFlac1. Jimmy Van Heusen, Johnny Burke :But Beautiful2. Alan Brandt, Bob Haymes /Donald Wolf, Wild Bill Davis:That's All / Azure-te3. Vernon Duke :Autumn In New York 4. Alan Lerner, Frederick Loewe:Almost Like Being In Love 5. Billy Rose, Edward Eliscu, Vincent Youmans :More Than You Know 6. Jesse Greer, Raymond Klages :Just You, Just Me 7. Hal Hopper, Tom Adair :There's No You 8. Willard Robison :Don't Smoke In Bed 9. Bob Dylan :This Dream Of You 10. Dorothy Parker, Ralph Rainger :I Wished On The Moon 11. Irving Berlin :How Deep Is The Ocean 12. Arthur Freed, Nacio Herb Brown :Singing In The RainDiana Klrall(vo,p)Recorded 2016–2017,at Capitol Studios,Hollywood Los Angeles Ca.
2020年10月24日
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五嶋みどりがベートーヴェン生誕250年をして録音したベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を聴く。あまり注目していなかったのだがSpotifyで軽く聴いたら、その清冽な音楽に惹かれてしまった。とにかく清冽で、凛とした美しさが感じられる。最近の彼女の演奏は生き方を含め、武士の佇まいみたいな雰囲気が感じられると思っていた。今回の演奏は、それが演奏に前面に出ていると感じられる。全体的には静的というか静謐というか、そのような感じがする。第3楽章のエンディングで少し激しくなるが、他の演奏家の演奏に比べるとそれほどでもない。まず、演奏家の個性があまり感じられない。ただひたすら清く美しいという感じだ。もちろん音は澄み切っている。細かい表情のつけ方など作為的なところはまるで感じられない。最近はやりのHIP的な要素は皆無だが、一昔前のロマンティックな演奏ともかなり違う。そういう分類を考える必要性もないような、他の演奏とは隔絶した演奏だ。こういう演奏は考えてできるものではない。内側から滲み出てくるものだ。これほどの高みに達している演奏家が、どれほどいるだろうか。バックのルツェルン弦楽合奏団もソロの考え方をよく理解していて、決して目立つことはしない。彼女の考えが理解されていないと、こうはいかないだろう。Midori Beethoven Violin Concerto / 2 Romances(Erato)24bit 96kHz FlacLudwig van Beethoven:1.Violin Concerto Op. 61 in D major4.Romance for violin & orchestra in G major, Op. 405.Romance for violin & orchestra in F major, Op. 50Midori(vn)Festival Strings LucerneDaniel Dodds, leader
2020年10月22日
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ジャズ・ギタリストのリオネル・ルエケの一本のギターによるソロ・アルバム。タイトルの「HH」はハービー・ハンコックのイニシャル。ルエケとハンコックがどのような関係か知らなかったが、ルエケにとってハンコックは長年のメンターだそうだ。調べてみたら、2005年にハンコックのヘッドハンターズに参加し、「東京JAZZ2005年」で来日したとのこと。当初bandcampから購入しようと思っていたが、prostudiomastersでハイレゾがリリースされていたので、ハイレゾを購入。C$14.39+3.86/2 プラス税で約1320円ほど。ルエケのオリジナル二曲以外は全てハンコックの作品。予想に反して、ジャズのフレーバーが濃厚だ。ただし、ソロ・ギターからイメージされるサウンドとは、ひと味も二味も違っている。イフェクターを使っている曲もあるが、ヴォイス・パーカッションというか舌を使った効果音やハミング、口から出す効果音などが加わり、賑やかなサウンドだ。ルエケの声が渋く、かっこいいのは意外だった。なのでギター・ソロという感じとはちょっと違っている。原曲がぱっとわかるアレンジは殆どなく、速いパッセージの中でメロディーが浮かび上がってくる。高度なテクニックに裏打ちされたアレンジで、誰でもが出来るものではない。個人的にはアコースティック・ギターで演奏された「Speak Like a Child」や自作の2曲が安らぎを感じさせてくれる。「Speak Like a Child」では、後半子供の声が聞こえる。彼の娘だろうか。最後の「One Finger Snap」は特異なサウンドで、どのようなテクニックを使っているのか、イフェクトなのか不明。オリジナルはハードバップなのだが、ノイジーで不快とまでは行かないにしても、その面影はない。ハンコックの音楽の熱心な聞き手ではない管理人に取って、知らない曲を知ることができたのも嬉しい。原曲を聴いて、今回のアレンジとの違いを知ることが簡単に出来るようになったことも大きい。いつものセリフになってしまうが、いい時代になったもんだ。録音はアメリオによるもので、ギター1本なので、録音には有利だろうが、凄まじく、いい音がする。なお使ったギターは以下の通り。D’Angelico(1963-)、Sadowsky(1979-)、Heeres(1992-)、Schottmueller、Zaletelj、Relish、Godinギター・メーカーの歴史を見ると大変興味深い。このなかではスイスのメーカーのレリッシュ・ギターが最近注目を集めている、革新的なギター工房だそうだ。詳しくは、メーカーのホーム・ページなどを参照してほしい。ところで、世界初のエレクトリック・ギターは、1930年代にスイス生まれアメリカ育ちのアドルフ・リッケンバッカーによって開発された”Flying Pan”が有名だという。レリッシュ・ギターとの不思議なつながりが興味深い。Lionel Loueke:HH(edition records)24bit96kHzFlac1.Hang Up Your Hang Ups2.Driftin'3.Tell Me A Bedtime Story4.Actual Proof5.Cantaloupe Island 04:036.Butterfly7.Dolphin Dance8.Watermelon Man9.Come Running To Me10.Voyage Maiden11.Rockit12.Speak Like A Child13.Homage to HH14.One Finger SnapAll Composed by Harbie Hankock(except track 10,13 comosed by Lioner Loueke)Lionel Loueke(g)Recorded by Stefano Amerio at Artesuono produzioni musicali & recording studios Cavalicco, Udine, Italy, 13th-15th February 2019
2020年10月20日
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オペラのトランスクリプションをアムランが弾いた一枚。ハイレゾはHyperionとPresto Musicでしか販売していないので、いつも通り、少し安いPresto Musicから¥1850で入手。このサイトは円での決済で手数料がかからないのもいいところだ。アムランは折に触れトランスクリプションを録音していたはずだが、徐々に正統的なプログラムに移行しつつある。管理人の記憶だと最後にトランスクリプションを録音したのは、ヨハン・シュトラウスの作品だったように思う。この類の作品は素材が悪いとどうにもならないが、どれも親しみやすく、変奏とテクニックが存分に楽しめる。キワモノ的なところもなく、あくまでも正統的だ。目玉はベルリーニの「清教徒の行進曲」を題材としたトランスクリプションで、俗に「ヘクサメロン」と言われている。これはクリスティナ・トリヴルツィオ・ベルジョイオーソ侯爵夫人の発案で、当時のヴィルトゥオーゾピアニスト達が作曲した作品をリストがまとめたもので約20分ほどの曲。作曲家はフレデリック・ショパン、カール・ツェルニー、アンリ・エルツ、ヨハン・ペーター・ピクシス、ジギスモント・タールベルクの5人。wikiテーマが分かりやすくシンプルなもので、それをヴィルトゥオーゾ達が腕によりをかけて料理している。最終的にリストが手を入れているので、曲としての統一感が出ている。この曲は初めて聞いたが、もっと弾かれてもよさそうな気がする。 discogsで調べてもあまりない。曲が難しすぎるのかもしれない。どの曲も同等とした風格を持つ曲ばかりだが、エルツの「変奏IV」は速いパッセージにのって旋律が表現される曲で、ユーモアも感じられ、特に楽しく聴けた。煌びやかな技巧が目立つ曲にあって、ショパン/ リストの「変奏VI」は夜想曲風のゆったりとした曲で異彩を放っている。個人的には後半のリストの追加したコーダの部分は、くどいので、なくても良かったように思う。最後はリストの堂々たるフィナーレで締めくくられる。あとは、オペラを題材にしたトランスクリプションが4曲。ヘクサメロンでも参加していたタールベルクのとリストが2曲づつ。タールベルク(1812 - 1871)は全く知らない作曲家だったが、存命中はショパンやリストと並び称される大ピアニストだったようだ。気に入ったのはタールベルクの編曲したドニゼッティの「ドン・パスクワーレ」タイトルが「ドン・パスクァーレのモティーフによる大幻想曲」と時代がかったものだが、曲自体は仰々しいものではなく、「ドン・パスクワーレ」の有名な旋律がちりばめられていて、14分ほどの曲があっという間に過ぎていく。リストの編曲による『エルナーニ』より演奏会用パラフレーズはもともとがシリアスなオペラなので、ドラマティックではあるが、旋律が地味であまり面白くない。ロッシーニの「『エジプトのモーゼ』よりモーゼの主題による幻想曲」はパガニーニはじめ、いろいろな作曲家によって取り上げられているようだ「モーゼの主題」自体がとても魅力的で、それを作曲家がどう料理するかが、興味の一つでもある。最後はリストのベルリーニの『ノルマ』より大幻想曲『ノルマの回想』オペラの興奮が伝わってくるような、劇的で熱気にあふれた演奏で、大変すばらしかった。アムランの演奏で熱気を感じることなんて珍しいことだ。wikiアムランの演奏は言うまでもなく文句のつけようがない完璧な物。演奏のスケールも巨大だ。こういう曲をやらせたら、アムランにかなうピアニストはいないだろう。マルカンドレ・アムラン:オペラ・トランスクリプションズ~リスト&タールベルク(Hyperion CDA68320)24bit192kHzFlac リスト:ヘクサメロン S.392(演奏会用小品『ベッリーニの『清教徒』の行進曲による華麗な大変奏曲』) 1.リスト:序奏 2.リスト編:主題 3.タールベルク:変奏I 4.リスト:変奏II 5.ピクシス/リスト:変奏III 6.エルツ:変奏IV 8.チェルニー/リスト:変奏V 9.ショパン/ リスト:変奏VI 10.リスト:フィナーレ11.タールベルク:ドニゼッティの『ドン・パスクァーレ』よりドン・パスクァーレのモティーフによる大幻想曲 Op.6712.リスト:ヴェルディの『エルナーニ』より演奏会用パラフレーズ『エルナーニ』 S.43213.タールベルク:ロッシーニの『エジプトのモーゼ』よりモーゼの主題による幻想曲 Op.3314.リスト:ベルリーニの『ノルマ』より大幻想曲『ノルマの回想』 S.394【演奏】マルク=アンドレ・アムラン(ピアノ)【録音】2019年5月15日-17日、テルデックス・スタジオ(ベルリン)
2020年10月18日
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2週間ほど前に、突然スピーカーから音が出なくなった。見たら、スピーカー・ケーブルがアンプから外れていた。スピーカーの端子がショートすると、保護回路が働いて音が出なくなる。この状況から、おそらく猫の仕業だ。壁とラックの間に猫が通れるくらいの隙間があるので、そこに侵入していたようだ。前にも、ルーターが動かなくなったことがあり、その時も同じ猫の仕業だった。この猫だけが、自分の部屋に入ってきて悪さをする。それもラックの上で寝ているのだ。猫が悪いわけではなく、全ては飼い主が悪いのだ。それですぐ復旧すればいいのだが、今回は接続し直しても音が出ない。プリ・アンプのプリ・アウトからは出力されているようなので、パワー・アンプの中を覗こうと思ったが、蓋が固くて開けることができない。何しろ25年ほど使っているアンプなので、修理するにしても、パーツがなかったり、修理代がかかりそうだ。大体にしてスピーカーのダミー負荷を買おうとしても、近場にパーツ屋さんがない。早々と諦めて、最近のアンプに交換することにした。狙った型落ちのアンプが、メルカリで新品で売っていたので購入した。ところが、なかなか来ない。やっと来たと思ったら、電源ケーブルが入っていない。最初からトラブル続きだったが、やっと今日音を聞けた。やれやれ。。。。アンプが来るまではアクティブ・スピーカーで聴いていた。ところがが、細部がわからない。やはり、ちゃんと音楽を聴くには、それなりの環境がないとダメなことを痛感した。壊れたパワー・アンプはそのうち何とかバラして修理してみようと思う。それにしても、自分の怠慢からの事故で、随分と高いものについてしまった。
2020年10月16日
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「Zigzagger」からおよそ3年半ぶりのトランペッターの黒田卓也の新作を聴く。First Word Records(2003-)というロンドンのレコード会社からのリリース。出たのは確か9月ごろだったが、しばらくSpotifyで聞いていて、これはと思って購入したのは今月の初め。ハイレゾがQobuzから出ていたが、高いのでbandcampのロスレスを£7で購入した。ジャケットは日本盤のようなサイケデリックなものではなく、黒田の首から上のイラスト。サングラスをかけて、少し上向き加減のポーズがなかなか精悍な雰囲気を出している。個人的には日本版のデザインよりは好ましい。全般的にソウル色が強く、ジャズはあまり感じられない。強いてジャズ・ミュージシャンの音楽の例えれば、ロバート・グラスパーだろうか。ただし、グラスパーのような細かいビートの曲はない。この類の音楽を日本人が演ると、バタ臭くなるものだが、黒田の音楽はアメリカ人のミュージシャンの音楽と言ってもおかしくない。リズムは強烈だが、サウンドはソフトだ。テンポの遅い曲はなく、全てリズミックでダンサブルな音楽。メロディーがキャッチーで親しみやすい。コンピングで聞こえる、キャッチーなフレーズはトロンボーンとトランペットまたはトランペットの多重録音で、そのハーモニーが何ともいい味出している。アルバムは黒田が自宅で制作したリズムをベースに、曲ごとに異なるミュージシャンを招いてスタジオで録音したものをブレンドしている。曲はオハイオ・プレイヤーズの「Sweet Sticky Things」とハンコックの「Tell Me A Bedtime Story」以外は黒田のオリジナル。つまらないトラックは皆無で、大変充実している。なお、海外盤では日本盤のボーナストラックは付いていない。ブックレットが付いていないので詳細は分からないが、自身のレギュラー・バンドのほかJ-Squadのメンバーや、Corey King、Burniss Travis、角銅真実などが参加しているとのこと。少なくともコーリー・キングとの共作である「Fade」と「Change」のメインヴォーカルはキング自身で間違いないであろう。また「Sweet Sticky Things」のヴォーカルは日本人らしいイントネーションなので、角銅真実かもしれない。ということで、日本人ミュージシャンのジャズ、ロック、ソウル、ヒップホップなどの音楽(bandcampの解説ではこれらのハイブリッドサウンドと言っている)で、これほど優れた音楽は聴いたことがない。黒田は2018年に、それまでと同じようにレコーディングできなくなったことを悟り、そこからの挑戦がはじまったという。その苦労が報われた傑作。今後も大いに期待したい。FADETakuya Kuroda:Fly Me Die Soon(First Word Records FW216)16bit44.1kHz Flac1.Corey King,Takuya Kuroda:Fade2.ABC3.Corey King,Takuya Kuroda:Change4.Do No Why5.Fly Moon Die Soon6.Moody7.Ohio Players:Sweet Sticky Things8.Herbie Hankock:Tell Me A Bedtime Story9.TKBKTakuya Kuroda
2020年10月14日
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カティア・ブニアティシヴィリの新作を聴く。タイトルは「Labyrinth」(迷宮)何やら意味深なタイトル。ブックレットのブニアティシヴィリ自身の解説は難解でよく分からない。曲の解説も、通常の解説ではなく、散文的で、彼女のそれぞれの曲に対して感じていることを書いているだけ。それがまた難解な詩を読んでいるような感じだ。ディストリビューターによると、彼女のお気に入りの曲を集めたアルバムということで、個人的には以前の「マザーランド」(2014)に似たようなアルバムという認識。「マザーランド」から、さらに一皮むけたような演奏が展開される傑作アルバム。雰囲気は決して明るくない。クラシックだけではなく、シャンソンや映画音楽も含まれ、すべてが彼女の色に染まっている。リゲティやペルトも違和感がない。既成概念に捉われない、彼女の感性がフルに発揮された素晴らしい演奏だ。テンポの遅い曲は、違和感を感じるギリギリのところまで遅くしている。遅くなったことで、だれることはなく、今まで見えなかった風景が見えてくるようだ。バロックは浪漫的な解釈だが古臭くはない。「バディネリ」ではちょっとした遊びが入っていて、思わずニヤッとしてしまう。彼女は4曲で編曲も手掛けている。独特の感性で、とても優れた編曲だ。ショパンの「24の前奏曲」の第4番はかなり遅く、これほど遅い演奏は今まで聞いたことがない。普通の解釈だと、哀愁を漂わせてはいるが、もう少しきちんとした処理をするだろ。ところが、今回の演奏は自由な表現で、曲の内在する悲しみがこれほど表に出てくる演奏は聴いたことがない。ラフマニノフの「ヴォカリーズ」はさらにテンポが遅く、抒情もさらに深い。中間部の、激しい感情の高ぶりにも圧倒される。ブラームスの間奏曲も遅めのテンポで実に味わい深い演奏だ。セルジュ・ゲンスブールの「ラ・ジャヴァネーズ」は軽快なシャンソンの調べが心地よい。中間部の目も覚めるような高速スケールが印象的だ。ヴィラ=ロボスの「苦悩のワルツ」はラテンの哀愁で胸が締め付けられるようだ。異色なのはケージの「4分33秒」無音が続くだけなのだが、時々音がする。なんの音かは不明。この後のマルチェルロのアダージョが新鮮に聞こえるのが何とも不思議な気分だ。2曲の4手用の曲では、彼女の姉のグヴァンツァが付き合っている。Khatia buniatishvili:Labyrinth(SONY) 24bit 96kHz Flac1.Ennio Morricone:Deborah’s Theme( from the film Once Upon a Time in America 2.Erik Satie:Gymnopédie No. 13.Frédéric Copin:Prélude in E minor op. 28/44.György Ligeti: Arc-en-ciel No. 5 from Études pour piano – Book I 5.Johann Sebastian Bach:Badinerie(from Orchestral Suite No. 2 in B minor BWV 1067 for piano four hands with Gvantsa Buniatishvili 6 Johann Sebastian Bach:Air on the G String 5:19 from Orchestral Suite (Overture) No. 3 in D major BWV 1068 7.Sergi Rahmaninov(arr.Alan Richardson):Vocalise op. 34/148.Serge Gainsbourg:La Javanaise9.Heitor Villa-Lobos:Valsa da dor10.François Couperin:Les Barricades mystérieuses from Pièces de clavecin – Book II11.Antonio Vivaldi/Johann Sebastian Bach:Sicilienne Largo from Bach’s Organ Concerto in D minor BWV 596 based on Vivaldi’s Concerto in D minor RV 565 12.Johannes Brahms:Intermezzo in A major op. 118/2 13:Arvo Pärtt:Pari intervallo for piano four hands14.Phlip Glass(arr. Michael Riesman & Nico Muhly ):I’m Going to Make a Cake from the film The Hours 15.Domenico Scarlatti:Sonata in D minor K 32 16.Franz List:Consolation (Pensée poétique) in D-flat major S 172/3 17.John Cage:4:3318. Alessandro Marcello/Johann Sebastian Bach:Adagio from Bach’s Keyboard Concerto in D minor BWV 974 based on Marcello’s Oboe Concerto in D minorKhatia buniatishvili(p)Gvantsa Buniatishvili(p track 5,13)arr. Khatia Buniatishvili track 1,5,8,11Recording: Paris, Philharmonie, La Grande Salle Pierre Boulez,June 16–20, 2020
2020年10月12日
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クラフトマン・レコードというレーベルの昭和ジャズ復刻シリーズ。TBMの復刻の何期目か分からないが、その中に水野修孝(1934-)の「ジャズ・オーケストラ’73 」があったので、早速入手した。聞いたことのないレーベルだったが、ディスクユニオン傘下のレーベルとのこと。これはスイング・ジャーナルのジャズ・ディスク大賞で確か上位に食い込んでいた記憶がある。昔このレコードがリリースされた時、関心があったが、当時は懐が寂しく、手が出なかった。水野修孝は元々クラシックの作曲家で、TBMの藤井社長が彼と知己を得て、飲み仲間となったことから、藤井氏が長年の夢であった大規模なジャズオーケストラの作品を録音をするにあたって作品を依頼したのだ。当時は前衛が全盛で、ビッグ・バンドで前衛をやったのがこの録音。全く聞いたことがなかった音楽だが、前衛特有の分かり難さはなく、ヒリヒリするような緊張感に満ちた傑作だった。ジャズらしいのはパート2のc.ドライブくらいなもので、パート2のd.カオスは名前の通り混沌とした音楽。同時代に聞いていれば、難解ではあるが、その衝撃は半端なかたっだろう。ビッグバンドのアンサンブルの精度が現在よりも劣っているのは時代のためで、そんなことが小さいことと思えるほどのインパクトが大きい。ソロでは何と言っても森剣治のドルフィーを上回るような狂気のアルトが圧巻。金井英人のベースも不気味な凄みを感じさせる。日野皓正のトランペットは前衛慣れしているので、さすがの安定感。50年も前の録音だが、非常に聞きやすい。というか、この演奏の前で録音がどうのという気にもならなかった。発売当時のライナーノートが全て復刻されているのも有り難い。当時の発売されるまでの経過がヴィヴィッドに伝わってくる。限定2000枚なので、当時この手の音楽がいかに売れないか(今でも状況は変わらないが)を物語っている。これを聴くと、水野修孝の作品のレベルの高さと共に、当時の日本のフリー・ジャズの水準の高さを改めて確認させられた。出来れば続編のジャズ・オーケストラ‘75も再発をお願いしたい。水野修孝:ジャズ オーケストラ‘73 (CRAFTMAN RECORDS CMRS86)1.ジャズ・オーケストラ'73 パート1 ドライヴ,ドライヴ,ドライヴ!2.ジャズ・オーケストラ'73 パート2 a.ブルース b.オートノミィ c.ドライヴ d.カオス水野修孝(compose,arr,org) 宮間利之とニュー・ハード1:日野皓正(tp) 森剣治(as) 金井英人(b) 2:水野修孝(org) 高柳昌行(g) 金井英人(b) ジョー水城(perc)録音年月日:1973年8月23日、9月2日
2020年10月10日
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グリモーの新譜はカメラータ・ザルツブルクと組んだモーツァルトのピアノ協奏曲20番とウクライナの現代作曲家ワレンティン・シルベストロフ(1937-)の組み合わせ、という意欲的なプログラム。指揮者の名前がクレジットされていないので、グリモーの弾き振りだろうか。グリモーのモーツァルトは19番と23番を組み合わせたグラモフォン盤に続く第二弾。手持の内田光子(クリーブランド)とアルゲリッチのルガーノでのライブを参考までに聞いた。テンポは内田が遅く、グリモーとアルゲリッチはそれほど変わらない。表現も内田が穏やかな表現に終始していて、あまり面白くない。それにたいしてアルゲリッチとグリモーはかなり攻めた演奏。特にグリモーは勢いがある。出だしでアゴーギクを僅かにかけていたので、思い入れたっぷりにやられたら敵わんわと思ったのは、杞憂だった。第一楽章のベートーベン作のカデンツァでも、力感溢れるダイナミックな表現が目立つ。こんなにゴリゴリと弾いても良いのかな、と心配になる程パワフルだが。第3楽章もテンポが速く、メリハリがはっきりしていてダイナミックな演奏。曲の持つデモーニッシュな暗さはあまり感じられないが、それを上回る勢いが目立つ。第二楽章も重くならず、すっきりとした仕上がり。あくまでも堂々としていて、音楽がちんまりとして、弱々しくならないのがいい。従来のイメージに捉われない解釈と演奏で大いに満足した。内田の演奏は評価が高いが、グリモーの演奏を聴くと、どうしても古臭く感じてしまう。テンポの遅さも一昔前の一つ一つの音に意味を持たせるような演奏で、古臭さに一層拍車がかかる。以前購入したラトルとのベートーヴェンも従来の演奏の延長上にあり、新鮮味はなかった。内田も過去の人になりつつあるような気がする。二曲のアンダンテも気合の入った演奏。スケールが大きい。シルベストロフは名前は聞いたことがあった。グリモーが長年手がけてきた作曲家で、「Memory」でもBagatelleが2曲取り上げられていることが分かった。なので、このウクライナ生まれの作曲家を初めて聴くと思ったのは勘違いだった。タイトル・チューンは、モーツァルトの作品と言ってもおかしくないほどだ。ピアノ協奏曲第21番のアレグレットを幻想的にしたような感じだ。なるほど、この2人の作曲家を取り上げた理由がわかるような気がする。ところで、室内管弦楽団とピアノの演奏なのに、自然の音を重ねたような、何やら余計な音がする。ブックレットを見るとユニヴァーサルのプロデューサー、サウンドエンジニアであるステファン・フロック氏による効果音とのこと。この後参考までに聞いたクレーメルの演奏ではなかったので、グリモー盤独自の試みだろうが、却って音楽に対する集中力が削がれる感じがする。この曲は最後にピアノ・ソロでも弾かれている。ソロの方が虚雑物がなく、曲の美しさが感じられる。ただ、テンポが遅く、もたれ気味に聴こえる。テンポが速いとモーツァルトに激似になりそうなので、遅くしているのだろうか。「二つのダイアローグと後書き」は、シューベルトとワーグナーを下敷きにした作品。三曲目に自作の後書きが付いている。シューベルトはいわゆる「クッペルヴィーザー・ワルツ」(1826)と呼ばれる。シューベルトの友人のクッペルヴィーザーの曾孫に口伝で伝えられたワルツをR.シュトラウスが採譜したものらしい。ワーグナーは「エレジー」(1882)というピアノ曲。2曲とも原曲を思いっきり肥大させていて、映画音楽でも聞いている気分になる。原曲のイメージからはかなり離れていて、特にワーグナーの寂しさがさっぱりと削られている感じがする。「朝のセレナード」も同じような傾向で、美しいには違いないが、押し付けがましい感じがする。モーツァルトは従来のイメージに捉われない解釈と演奏で大いに満足した。シルベストロフトは聴きやすい曲だが、清らかとまではいかない。少し濁っている感じで、個人的にはイマイチと思う。まあ、他の作品も聞いてみないとわからないといったところ。録音はいいが、独奏での残響が多すぎる気がする。なので、どうしてもムーディになりがちだ。Hélène Grimaud:The Messenger(DGG)24bit96kHzFlacWolfgang Amadeus Mozart:1.Fantasia No. 3 in D Minor, K. 397 2.Concerto for Piano and Orchestra No. 20 in D minor K 466 I. Allegro (Cadenza Beethoven) II. Romance III. Rondo. Allegro assai (Cadenza Beethoven) 5.Fantasia No. 4 in C Minor, K. 475 Valentin Silvestrov:6.The Messenger (For Piano and Strings) 19967.Dialogues with Postscript (version for piano and string orchestra) I. Wedding Waltz (1826 … 2002) (Fr. Schubert … V. Silvestrov) II. Postlude(1882 … 2001) (R. Wagner … V. Silvestrov) III. Morning Serenade(2002) (V. Silvestrov) 10.The Messenger (For Piano Solo) Hélène Grimau(p)Camerata SalzburgStephan Flock(Sound Effects track6)Recording: Austria, Universität Salzburg, Große Universitätsaula, 1/2020
2020年10月08日
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リリース前から話題になっていたモンクのコンサートのライブ。presto Musicから¥1480円で入手。場所は、アメリカのシリコンバレーの北端部に位置するパロアルト高校の体育館。キング牧師の暗殺でマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が暗殺され、人種間の緊張が高まった牧師の死から半年後の10月27日にモンクを好きな高校生ダニー・シャーが苦労して開催したコンサートのライブ録音。ブックレットを見ると、映画にでもなりそうなエピソードが語られている。特に、モンクたちをシャーの兄の運転する車で体育館に運ぶシーンで、ベースのネックが窓から飛び出している光景は、開演に間に合わそうと全員が必死なだけに、想像するだけで笑える。モンクの息子のT.S.モンクはこの録音を聞いて、「親父の機嫌の良い時の演奏で、父のライヴ音源の中でも最高のものだ」と語っている。未発表録音でその経緯がセンセーショナルなので、記憶に残る録音と言える。録音は高校の用務員さんが行ったそうだ。音は期待していなかったが、意外といい音だった。高音域が綺麗で、低音もかなり出ている。一番よく聞こえるのはドラムス。ライド・シンバルが少しうるさいくらいだ。ベースの安定感抜群の音も、マスクされることがなく良く捉えられている。アンプを通さないビロードのような艶のあるサウンドで、とても魅力的だ。ただ、ピアノの音が少し小さいのが惜しい。モンクは1971年に引退するので、最晩年の演奏ということになる。最初聞いたときはあまりピンとこなかった。そのあと何度か聞いたら、かなりいい出来であることが分かった。チャーリー・ラウズの熱のこもったテナーがいい。「Well, You Needn’t」では鼻歌交じりのベースのアルコ・ソロ、続く生きのいいドラム・ソロとライブならではのいいソロが続く。ソロ・ピアノの「Don’t Blame Me 」も味わい深い。「Blue Monk」の後半のベースソロ、高音のピツィカートが琴のサウンドみたいでユニークだ。最後のアンコールの「I Love You Sweetheart of All My Dreams」の後でモンクの肉声(この後でサンフランシスコで仕事があるという言い訳をしている)が聞けるのは貴重だろう。 なお、Japan Jazz123号にダニー・シャーのインタビューが載っていた。彼はこのコンサートの前年にはジョン・ヘンドリックスらを呼び、モンクのコンサートの5ヶ月後にはデューク・エリントンを呼んだと言う。大学に入ったあとは、アーティストのブッキングやマネージメントを始める。その活躍を知ったロック界の大物プロモーターのビル・グレアムの目に留まり、彼のもとでプロモーター人生を始めたという。元々の才能に加え、大物との出会いが彼の人生を決めたのだろう。(この部分2020.10.26 に追加)この録音を聞いてから、持ってないモンクのCDを2枚購入してしまった。今回の録音の少し前の「underground」とヴォーグのソロだ。何回か聴いたが、やはりモンクはいい。ミニドキュメンタリーThelonius Monk: Palo Alto(Impulse)24bit 44.1kHzFlac1. Thelonius Monk:Ruby, My Dear 2. Thelonius Monk:Well, You Needn’t3. Jimmy McHugh:Don’t Blame Me4. Thelonius Monk:Blue Monk5. Thelonius Monk:Epistrophy 6. Rudy Vallée:I Love You Sweetheart of All My DreamsThelonious Monk(p)Charlie Rouse(ts)Larry Gales(b)Ben Riley(ds)Recorded live at a high school in Palo Alto, California, in 1968
2020年10月06日
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日系イギリス人のショーン・シベ(1992-)のDELPHIAN からの3番目のアルバム。第2作はエレキ・ギターなども使われていたので、購入を見送っていた。今回はバッハのリュート組曲という正統的?な選曲。彼は、録音当時27歳。シベは、この年齢で録音することは15年20年後に自分が持っていないものを記録できることだと考えているそうだ。普通だと、ある作品を演奏できるまで、待つというのが普通だが、シベのような考え方があってもおかしくない。まあ、完璧主義の演奏家には、考えつかない考え方だろう。管理人はこの曲に関してはジョン・ウイリアムスの全曲盤しか聞いたことはない。シベはBWV966とBWV 997の2曲にBWV998からの3曲という構成。CD一枚という条件での選曲だろう。ゆったりとしたテンポで、バッハの音楽の良さがしみじみと伝わってくる。歳に似合わない成熟した音楽だ。柔らかなタッチで、技術的な傷は皆無。これに比べると、ジョン・ウイリアムスの演奏は、技術的に弱いところが見える。この演奏を聴くと、絶対王者?だったジョン・ウイリアムスの時代が終わったことが、強く感じられる。ギター界に通暁しているわけではないが、最近新しいプレーヤーの台頭が著しく、この傾向は歓迎すべきことだろう。テクニックの面からは世代が交代したということを、すごく感じる。こうして、技術がどんどん進化していくのであろう。録音はギターの音像が異常に大きい。他の演奏を聴いてからこの録音に切り替えると、音量が大きすぎて、下げなければならなくなるのはちょっと困る。録音自体はホールノイズもなく、クリアな音。欲を言うと、ホールトーンが少し多く、速いパッセージがはっきりしなくなる。ロケーションがスコットランドのクライトン・カレッジエイトという教会なので、残響が多いのは仕方がないところだろう。ところで、シベはこの録音を最後に、デルフィアンからハイペリオンに移籍することが決まっている。同じイギリスのマイナー・レーベルとは言え、ハイペリオンの方が、世界的には有名だし、シベの今後の活躍が大いに期待できると思う。Sean Shibe:J.S.Bach:Lute Works(Arr.for Guitar)(DELPHIAN RECORDS)24bit 44.1kHz Flac1.J.S.Bach:Lute Suite in E minor, BWV9967.J.S.Bach:Partita in C minor, BWV99712.J.S.Bach:Prelude, Fugue and Allegro in E flat major, BWV 998Sean Shibe(g)Recorded on 20-21 May and 17-18 December 2019in Crichton Collegiate Church, Midlothian
2020年10月04日
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映画音楽だけでなく、効果音なども含めた映画の音響の歴史についてのドキュメンタリー。音響デザイナーとして長年活躍してミッジ・コスティンがメガホンをとっている。1927年にトーキーが誕生し、その後のハリウッドの音響の進化と関係者の証言をまとめている。内容が盛り沢山で、知らないことがてんこ盛りだ。サイレントの時代から歴史を丹念に辿っている。音声を入れる工程に従って、説明されているのも分かりやすい。この図を見ると声→効果音→音楽の順に入れていることが分かる。面白いのは効果音を作るための映画監督のあくなき欲求と、アイディアを駆使して涙ぐましい努力を重ねていく音響技術者たちの姿。そのアイディアの数々に驚かざるを得ない。技術がいかに発達しても、人間の汗臭い努力が必要なことを改めて認識させられた。たとえば「キング・コング」(1933)のコングの声は虎とライオンの声をハーフ・スピードで逆再生するとか、トップガンではジェット戦闘機の音だけだと物足りないので、動物の叫び声を入れる等々、思いがけないアイディアが出てくる。テクノロジーの進化も映画の発展に大きく貢献している。70年代になると、ドルビー研究所が映画の世界に参入し、映画音響は加速度的に進化していく。音がステレオになったのは、バーブラ・ストライサンドの「スター誕生」(1977)が初めてだったというのも意外。冨田勲の4チャンネルの「惑星」からサラウンドのヒントを得たというコッポラの「地獄の黙示録」での5.1chサラウンドに結実する。このエピソードは日本人にとっては嬉しい事だ。映像の進化に比べると地味ではあるが大変面白い歴史だ。映画の面白さの半分以上は音のものだと、どなたかが語っていたが、全くその通りだと思う。「プライベート・ライアン」ではクローズアップした戦闘員たちの外側の状況は全く分からない。外の状況を説明しているのは効果音だというのだ。なるほど、音が無ければリアリティもへったくれもない。映画監督も多数出演する。オーソン・ウエルズがラジオドラマの技術で反響音を利用して物語に奥行きを持たせた「市民ケーン」など、映画監督の関与も大きいことがわかる。昨年度のアカデミー賞作品「ローマ」で、人物の移動に合わせて音声も移動するなどというのも最新の成果だろう。内容が込み入っていているので、出来れば書籍化を希望したいところだ。今後映画を観るときに、音声がどのようにして作られているか、などを考える機会が与えられ、さらに楽しみが増えたと思う。とにかく、映画を愛する人たち、特に技術に関心のある方々にとって必見の映画だろう。オフィシャルサイト
2020年10月02日
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