[Stockholm syndrome]...be no-w-here

2020.03.27
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カテゴリ: 映画
【ONCE UPON A TIME IN AMERICA】を読み解く上で重要なのは、この作品が「二重構造」になっているのを見抜く事だ。
「表ストーリー」と「裏ストーリー」と言い換えても良いだろう。
ただ、その両方がぴったりと張り付き、境目がほとんど無いため見落としてしまうのだ。

では、その裏ストーリーへの入口は、一体どこにあるのか…。
それは、ヌードルスがキャロルと車内で交わす会話シーンにある。



実は、宝塚版を観た時から、「警察に密告して欲しい」というキャロルの言葉には、妙な違和感を覚えていた。
マックスを助けたいだけなら、誰にも相談せず、自分で電話すれば良いのではないか…。
寧ろ、それが最も確実で、自然な心理だろう。

しかも、原作映画でのヌードルスとキャロルは、互いに毛嫌いし合う犬猿の仲だ。
何故、わざわざ嫌いな男にそんな事を頼む必要があるのか。
宝塚版ならまだ納得できた部分も、映画版のキャロルは明らかに怪しい。
そして、ふと思った。

僕が感じたこの違和感を、ヌードルスも感じなかったか…?

しかし、その後の展開から見ても分かるように、それは絶対にあり得ない。
もし、この時ヌードルスが何かを勘繰っていれば、ロッカーの現金が無くなっているのを見て、あそこまで茫然自失したりはしないだろう。

と、その時「マックスと離れたくないなら、一緒に刑務所に入って」というキャロルの言葉から、もう一つ別の可能性がある事に気が付いた。
そして、それこそ正に「裏ストーリー」とも呼べる【ONCE ー】の新たな扉を開く鍵となった。



前回も書いたように、ヌードルスとマックスは常に同じ事を同じレベルで考えている。
禁酒法時代の終焉と共に、マックスは「ヌードルス達を裏切ろう」と考えるようになっていた。

では、もし、ヌードルスもまた同様に「仲間達と縁を切りたい」と考えるようになっていたとしたら…。

デボラとの関係は、最悪の形で終わってしまった。
マックスは「連邦準備銀行を襲撃する」と、無謀な事を言い出している。
これ以上、過去の人間関係に引き摺られて危険な橋を渡り、ドミニクのように滑って人生を棒に振りたくない。
そう考えていたとしたら…。

しかし、どうやって彼らと縁を切る…?
ロッカーに隠した共同基金はどうなる…?

そこへ不意に舞い込んだのが、キャロルからの「警察への密告」相談である。
この時、ヌードルスは考えなかったか。

「もし、これで俺だけ捕まらなかったら…?」

3人が逮捕されている間に、自分はロッカーの現金を独り占めし、逃亡できるのではないか。

そう、本来はマックスが「ヌードルス達を裏切るための計画」として考えた警察への密告を、ヌードルスはヌードルスで「マックス達を裏切る計画」に利用できると思い付いた可能性があるのだ。

だから、あの時、彼はキャロルの話に何も答えなかった…。
(それでなくとも、人生で最も多感な時期を刑務所で過ごしたヌードルスにとって、マックスの暴走のために再び服役する事など絶対に嫌だったろう)

「ヌードルスは親友を助けるために警察に密告した」と思っている人達にとっては、俄かに信じ難い発想ではあろうが、充分に辻褄の合う可能性である。
それに「親友を助ける」という大義名分は、そもそもマックスが描いたシナリオの話だ。
ヌードルスがその通りに考えて行動した、という証拠はどこにも無い。
観客は、ただ物語の成り行きだけで、「ヌードルスは友情に厚い男」だと思ってしまっているのである。

では、あの時、実際にあの部屋の中で何が起きていたのか…。
襲撃事件の夜へと話を進めよう。



皆から離れ、1人で部屋に入り、ドアに鍵をかけるヌードルス。
電話をかける際、彼は躊躇(ためら)いの仕草を見せるが、勿論これは警察に仲間を売る(=実際は助ける)事への迷いなどではない。
自分の計画(=本当に裏切る)が、上手くいくかどうかの躊躇いである。

失敗すれば、自分も警察に捕まるだけでなく、裏切り者だとバレる危険性まである。
そうなれば、本当に一巻の終わりだ。
電話をかけた以上は、絶対に銀行襲撃に参加してはいけない。
(しかし、キャロルから「マックスはあなたを臆病者だと笑っているわ」と言われている手前、自分の口から「行きたくない」とは言えない)
そうした不安があったのだろう。

しかし、結果的に、ヌードルスのこの不安は杞憂に終わる。
何故なら、襲撃に参加して欲しくないのは、マックスの側も同じだったからである。
ヌードルスを裏切り者に仕立て上げるためには、絶対に一緒には連れて行けない。
何とかして、彼を置いて行く必要があった。

もう、お分かりだろう。

あの時、あの部屋で進行していた「裏切り計画」は1つではなく、実は「2つ」。

ヌードルスとマックスは、期せずして同じ事を企んでいたのである。

銀行襲撃に「行きたくない男」と「行かせたくない男」の駆け引き。
奇妙な構図だが、これこそセルジオ・レオーネ監督が仕組んだ最大のトリックに他ならない。
しかし、2人の思惑が全く同じであるため、観客はそのトリックに気付かないのだ。



そして、ヌードルスの「狂ってる」という言葉に激怒した(芝居をした)マックスが背後から殴り掛かり、彼を気絶させる。
ヌードルスは、この言葉にマックスが怒り狂う様子をフロリダの海岸で目撃しており、そう言って彼を挑発し、仲違いする事で、襲撃に行かない口実を作ろうとしていたのだろう。
当然、それはマックスの側も同じだった。
(彼も、病院で口論になった時と同じように、ヌードルスを「お荷物」だと言って挑発している)

ここからも分かるように、【ONCE ー】は決して単純な「友情と恋」の物語などではない。
ギャングの世界で繰り広げられる、男と男の静かなる「決闘」の物語でもある。
マカロニ・ウエスタンの名手と謳われたレオーネ監督だからこそ辿り着けた、究極の表現スタイルと言えるだろう。



その後、ヌードルスは事件現場で3人の死体を見る事になる。
彼らが刑務所に入っている間に、イブとどこかへ高飛びするつもりでいたヌードルス。
ところが、彼らがまとめて死んでくれた事で、計画は予想以上の好結果に終わる。

大金を独り占めできる上に、仲間達の復讐に怯えて暮らす心配も無くなったのだ。
一石二鳥ではないか。
阿片窟でこれまでの緊張が解け、自然に溢れ出たのがあの満面の笑みだったのではないか。
その時の彼の喜びがどれ程のものだったかは、想像に難くない。

しかし、翌日開けたロッカーの中に、現金は入っていなかった…。
放心しながら、独り街を去るヌードルス。



次回は、この「裏ストーリー」から見た、35年後のヌードルスとマックスについて語ってみたい。





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Last updated  2022.06.27 22:59:21
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