[Stockholm syndrome]...be no-w-here

2022.06.15
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カテゴリ: 宝塚
以前、星組【めぐり会いは再び next generation】の感想で、「劇中に出て来る『壁』という表現は月組【All for One】へのオマージュではないか?」と書いたが、今回の花組公演を鑑賞して「もしかして『壁』は【巡礼の年】のキーワードでもあるのかな?」と考えるようになった。

そう思った理由は、【巡礼の年】の中に「アルルカン」という単語が出て来たからだ。
アルルカンとは、小柳奈穂子が脚本を書いた【めぐり会いは再び-My only shinin’ star-】の原作喜劇『愛と偶然の戯れ』に登場する道化役の名前である。
(宝塚版では、ブルギニョンという役名になっている)
現在公演中の星組と花組の双方で過去作品へのオマージュが見られる事からしても、小柳と生田大和が話し合って、互いの作品にそうした趣向を取り入れた可能性は無くはない。
(今頃、相手の作品を観て「お、そう来たか」とニヤニヤしているかも知れない…笑)

というマニアックな妄想をしながら、14日(火)は2度目の観劇。





主人公のフランツ・リストを演じる柚香光は前作よりも更に役柄と同化し、もはやリストなのか柚香光なのか分からない程の芝居(素?)を見せた。
本人もインタビューで「芝居と歌とダンスの垣根が無くなった」と語っているが、本作を観るとそれが決して大袈裟でない事が分かる。
ピアニストの役柄ながら見事な剣舞のシーンもあり、柚香ファンにとっては全編が見処の作品と言っても良い。
個人的には、普段の宝塚ではなかなか見られない「髪をかき上げる」仕草があまりに格好良く、今後の作品でこういう髪形を増やして欲しいとさえ思った(笑)。

前回の感想でも触れたが、リストにとっては、自分の技能不足が原因で父親を失ってしまったトラウマがやはり一番大きかったのだろう。
最初、『S16 魂の彷徨・2』でショパンが「子供」という台詞を口にした時はどこか唐突な印象を受けたが、リストが名声を求めずにはいられなかったのも、誰にも負けたくない(見下されたくない)という強迫観念から逃れられなかったのも、全て子供時代の挫折に端を発していると考えると腑に落ちる。
あの瞬間から、リストの魂はずっと彷徨い続けていたのだ。
それを描いた『S5 リストの記憶』とは一転、ラスト『S17 修道院での再会』で笑顔の子供達を登場させたのは、魂の救済だけでなく未来への希望を感じさせる素晴らしい演出だと思う。

そんなリストを最後まで嫉妬させた好敵手フレデリック・ショパンを演じる水美舞斗は、リストとは対照的に穏やかで控え目な人物。
友人として本気でリストを気遣うも、それが伝わらないという少し気の毒な役回りだ。
(友人の夭逝さえ、リストは悲しむどころか「天は俺よりショパンを選んだ」と悪態を付く始末…)
水美自身の人柄を感じさせる物腰の柔らかな前半から、命を削ってでも芸術と友人へ想いの丈をぶつける緊迫した後半への流れが素晴らしい。
そんなショパンにサンドが寄り添いながら語り合う最期は、ピエタの如く美しい。
(個人的には、この場面が一番ぐっと来て、泣きそうになった)

「男役をしている女性が、男装している女性を演じる」という、言葉にすると何だか混乱しそうな役(笑)、ジョルジュ・サンドを演じる永久輝せあは文句無しに素晴らしかった。
リストに対して、マリーに対して、ショパンに対して…、当たる光によって微妙に色合いを変えるサンドの胸の内を、永久輝は見事に演じ分けている。
回数を重ねれば、更に芝居が深まるだろう。
どこまで深化するか楽しみだ。



前回の感想で、リストとショパンに対する愛がサンドの中で形を変えていると書いたが、実はリストとマリーの愛の形も前半と後半では違っている。
これは他のファンの方が感想で指摘しており、僕も公演プログラムを読み返して気付いた事だが、『S17 修道院での再会』の2人はもうかつての「フランツ・リストとマリー・ダグー伯爵夫人」ではなく、「リスト・フェレンツとダニエル・ステルン」なのだ。
2人が共に2つの名前を持つからこそ可能な演出だろう。
『S8 巡礼の日々・1』では白だった衣装が黒へと反転している事も、2人の関係性がかつてとは違う事を示している。
(サンドの場合は、衣装が男物から女物へと変わる事でショパンへの愛を表現している)

このように本作は、前後半で様々なものを反転・逆転させる事で、物語を構築している。
過去作品へのオマージュだけでなく、よくぞここまで計算して脚本を書いたものだと感心する。

関係性が反転するのは、それまで仲間だった芸術家達と袂を分かち、革命へと進むエミール・ド・ジラルダンも同様だ。
人物相関図を見た時は「聖乃あすかの出番は少ないのかな?」と思ったが、『S14 共和主義運動』では渾身のラップを披露するなど見せ場もしっかりとあり、存在感を示した。
男役としての胆力(たんりょく)も備わって来たのか、立ち姿からして堂々としており、着実な成長を感じさせてくれた。
『宝塚GRAPH / 6月号』を見たら【冬霞の巴里】では随分と怖そうな役を演じたようで、これが良い経験になったのかも知れない。
(こういう振り切った役、汚れ役、悪役は絶対に一度は経験しておいた方が良い)
柚香・水美・永久輝の背中を追い掛けながら、これからも素敵な男役を目指して欲しい。

ありがとう!!
ちょっと長くなったので、他のキャストはまた後日。





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Last updated  2022.06.26 21:43:25


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