[Stockholm syndrome]...be no-w-here

2023.02.25
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カテゴリ: 宝塚
今回の月組【応天の門】は、国家の中枢で蠢く権謀術数に若き菅原道真(月城かなと)が挑む物語で、生涯の敵となるであろう藤原基経(風間柚乃)や仲間達と出会うまでを描いている。
程よくコメディ要素もあり、道真達の謎解きをエンターテインメント感覚で楽しめた。

漢詩や和歌を織り混ぜ、衣装や小道具以外でも平安時代の雰囲気を感じさせてくれたのは好印象。
衣装と言えば、道真や清和帝(千海華蘭)の服装が中華っぽいなと思っていたら、公演プログラムの解説文によると平安初期はまだ唐からの影響が色濃かったらしい。
(いわゆる国風文化が花開くのは、遣唐使の廃止以後である)



物語の主人公である道真は、貴族達が権力争いを繰り広げている日本の政治に失望しており、自身は唐へ渡って立身出世する事を夢見ている青年だ。
そのため、何より勉学が優先で、人付き合いが悪い。
そんな彼に、昭姫が「大切なのは何処で生きるかではなく、共に生きる人の心と向き合う事だ」と諭す場面が、本作の隠れた主題のように感じた。

原作漫画で印象的だった道真の眼差しを、月城かなとは見事に再現していた。
無愛想ながら可愛げもあり、若き天才の人間的な魅力を余すところ無く演じて見せてくれている。

そんな道真の子供っぽさも面白がって受け止めてくれる昭姫役の海乃美月と、相棒となる在原業平役の鳳月杏も、さすがの演技力で魅せている。
鳳月は得意の2.5枚目役で、道真達の前で見せるコミカルな面だけでなく、高子(天紫珠李)との悲恋やそれが原因で味わう肩身の狭さなど、男の複雑な胸の内を巧みに演じ分けていた。
天紫も美しく、大人の恋をしっかり表現していた。



敵対する藤原基経は悪役ではあるが、吉祥丸とのエピソードを見る限り生来の悪人ではなく、吉祥丸が自分の前から消え、藤原良房(光月るう)が養父となった事で、彼は権謀術数に生きる事が己の運命(宿命)と受け止め、悪事に手を染めるようになったと感じた。
あの時、吉祥丸との交流が続き道真と出会っていたら、彼の人生は違っていたかも知れない。
(公演プログラムによると、『第9場B 回想』で吉祥丸が基経に聞かせた漢詩は「しがらみの無い大自然の中で暮らす喜び」を詠ったものだとか)
しかし、そうはならなかった事が、基経に人としての情を捨てさせたのだろう。


例えば、こんな話がある。

何年前だったかは忘れたが、僕の喫茶店の並びに『Lido(リド)』というスタジオがあった。
そこでは度々、OSK歌劇団の生徒達が舞台稽古をしており、僕は彼らが店の前を通る姿をよく目撃したものだ。
僕はタカラジェンヌの入出待ちをした事は無いが、OSKのジェンヌ達は自動的に待ちをしていた事になる(笑)。
しかし、僅か数十メートルの距離にも拘わらず、僕とOSKとの間に縁は生まれなかった。
そして、一度も誰とも会った事が無い宝塚歌劇団とは、今も不思議な縁と絆で結ばれている。

運命とはそういうものである。
僕も「運命が宝塚を選んだ」と受け止めているので、これからも自分の意思でOSKを観る事はないだろう。
(まあ、そこまでの金銭的余裕も無いし…笑)
運命とはそういうものである。


基経も同じように、運命が自分から吉祥丸を引き離し、養父・良房と引き会わせたと考えているのではないだろうか。
その時から、彼にとっての人間関係は「都合の良い者は利用し、邪魔な者は切り捨てる」という二択になったような気がする。
そんな基経の冷酷さと、道真という好敵手と巡り会った時の高揚感(それも彼にとっては運命の導きなのだ)を、風間は見事に表現していた。

しかし、本作で最も印象的なのは、何と言っても『第11場 神泉苑(魂鎮めの祭)』で舞い踊る迦楼羅(大師)役の結愛かれんだろう。
まるで天女の如き彼女の美しさに魂を奪われ、舞台に極楽浄土を見た。
もう、この場面のためだけにDVDを買っても良いくらいだ。
100万回観よう。

100万回ありがとう!!
。・(つд`。)・。

(だから、泣くなって…)





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Last updated  2023.02.26 21:01:40


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